ヴェネト Veneto

イタリアの北東部に位置するヴェネト州。アドリア海に面した州で、北にドロミティ渓谷、東にイタリア最大の湖ガルダ湖、アルプスからの雪解け水を運ぶ多くの河川があり、様々な特徴をもった地形からバラエティー豊かなワインが造られています。

またイタリアでは珍しく平野部が56％もあり、広大な土地でワインを生産しているため、イタリアワイン生産量は毎年トップになる事が多い州です。

州都は『水の都』として知られるヴェネツィア。観光名所としてあまりにも有名ですが、ヴェネト州の歴史を語る上でも重要な都市です。７世紀に小さな島々が集まって誕生したヴェネツィア共和国が、東方貿易により大いに繁栄し、海洋国家として一時代を築きました。これによりアドリア海岸部は美しい建造物や絵画、音楽など洗練された文化が花開いたのです。一方、内陸部はお米や野菜などの農業が中心で、素朴な農民文化が今なお残っています。

これらの地形や時代背景によりワインもまた東西で全く異なった特徴をもっています。

ガルダ湖周辺に広がる高級ワイン産地　白のソアーヴェ、赤のアマローネ

西部に位置するガルダ湖の周りは、非常に温暖ですが、山々からの冷たい風により昼夜の温度差が激しく、ブドウにとって素晴らしいアロマをもたらしてくれます。特に有名なのは、白ワインの代表格ソアーヴェ地区と高級ワインアマローネ有するヴァルポリチェッラ地区の２大産地です。

ソアーヴェはイタリアを代表する白ワインで、戦後にアメリカへ輸出されると飲みごこちのよいフルーティーな味わいから一気に大ブレイクし、イタリアの白ワインと言えば「ソアーヴェ」となる程、世界的に有名なワインになりました。安くて軽いイメージが先行してしまっているソアーヴェですが、石灰質土壌を含む火山性土壌の畑から造られるソアーヴェは上質な果実味と活き活きとした酸に加え、複雑なミネラルのトーンが感じられ、優美なワインになるポテンシャルを秘めています。近年より上質な長期熟成型のソアーヴェを造る生産者も増えており、今後目が離せないワインの一つです。

ヴァルポリチェッラ地区は、ロミオとジュリエットの町として知られるヴェローナの北に位置する丘陵地帯で、上質な赤ワインが造られる産地です。また他州で見られない独特な方法で造られたワインが多くあります。

まずひとつは「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」です。通称「アマローネ」と呼ばれていますがイタリア語で「苦い」という意味で、もともとは陰干しブドウで造る伝統的なデザートワイン「レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラ」を誤って完全発酵させてしまい甘口を辛口に仕上げしまったため、甘口ワインと区別するために「アマローネ＝辛口」と付けたのが始まりだそうです。干したブドウを使うため、凝縮感のあるフルボディータイプになるアマローネは、今では世界中のワイン愛好家を虜にする高級ワインになりました。

またアマローネの元になったデザートワイン「レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラ」も、通常のワインとは醸造工程が異なり、収穫したブドウをすぐにワインにするのではなく、数ヶ月陰干しして糖度を高めてからワインにします。歴史は古く紀元前４世紀にはヴァルポリチェッラ地区に存在していたと記録が残っており、現在ではソアーヴェやガンベッラーラ地区などヴェネト州の各地でレチョート系デザートワインが生産されています。また「レチョート」とはイタリア語で「耳たぶ」の意味であり、乾燥させたブドウが耳たぶくらいの硬さになる事から名付けられたそうです。

他にも、発酵の終わったアマローネの搾りかすにヴァルポリチェッラのワインを加え再発酵させた、その名も「リパッソ（元に戻す）」という、一風変わった造り方のワインも存在します。

イタリアのアペリティフ「プロセッコ」の故郷

東部で最も有名なワインはプロセッコです。
現地イタリアでお店に入ると必ずと言っていいほど最初に出てくるのがこのプロセッコ。フルーティでフレッシュな味わいとスパークリングの爽快さが食前酒として最適であり、価格も手頃な事から「とりあえず一杯」的な感覚で楽しめる手頃なスパークリングです。イタリア国内外で人気沸騰中！！今や日本のスーパーでもよく見かける様になった馴染みのあるワインになりました。

また同地域で赤や白のスティルワインも生産されており、ピノ・ビアンコやフリウラーノ、シャルドネなどから造られる軽快な白ワインは、地元ヴェネツィアの魚料理と合わせて楽しまれています。

ヴェネツィアから北東に進むとバッサーノ・デル・グラッパという街があります。この町は名前の通り、ブドウの搾り粕から造られる蒸留酒「グラッパ」の産地です。街の中心地にはグラッパの大手メーカーPOLI（ポリ）社のグラッパ博物館なるものがあり、なかなかお目にかかれない、珍しい蒸留器や醸造工程を見学することができます。

食前酒のプロセッコから始まり、ソアーヴェ、アマローネ、食後にグラッパで〆る、といった様にヴェネト産ワインでひとコース楽しめる、幅広いワインが揃うのもこの州の魅力です。

ヴェネト州で栽培されるブドウ品種

沢山の土着品種があるヴェネト州。その中でも代表的なのは、ソアーヴェを造り出す「ガルガーネ種」でしょう。フルーティで軽快なタイプのものから、長期熟成型のワインまでいろいろな表情を見せるイタリア白ブドウの代表的品種です。

続いてプロセッコのブドウ「グレーラ種」。白桃や白いお花の香り、思わず顔がほころぶジューシーな果実感は、イタリア人のみならず世界中で愛されています。

そしてアマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラで使用される「コルヴィーナ種」「ロンディネッラ種」「モリナーラ種」。アマローネの名は有名ですが、意外と知られていないこれらの土着品種をブレンドして造られています。また、これらのブレンドはヴェルポリチェラ地区だけでなく、ガルダ湖に最も近い産地バルドリーノ地区でも同様のブドウからワインが造られています。しかし、その個性は全く異なり、バルドリーノの方が、より軽めで非常に飲みやすい、チャーミングな果実味が感じられるワインに仕上がります。

他にも、フリウラーノやヴェスパイオーラ、モスカート・ジャッロ、ラボーゾ種など、挙げればキリがないほど多くの土着品種を有するヴェネト州だからこそ、バリエーション豊かワインを生み出すことが出来るのです。

日本にも共通する食文化　〜ヴェネト料理〜

内陸部ではお米を、海岸部では魚をよく食べるヴェネト州は、日本人好みな郷土料理が多くあります。

例えば、お米とグリーンピースを煮込んだリゾット「リージ・エ・ビージ」は、日本の給食でよく出てきたあの「グリンピースご飯」を彷彿させる見た目！！味わいもほっこりと素朴で、伝統的な白ワイン「ソアーヴェ」との組み合わせは鉄板です！

また、ヴェネツィアの郷土料理で鰯を一本まるまる揚げてマリネした「ペッシェ・イン・サオール」は、夏になると食べたくなる鰯の南蛮漬けそのものです。ワインは、プロセッコエリアで造られる白ワインやスッキリ辛口のフリウラーノ種で造られる「リソン」と合わせてお楽しみ頂けます。 どれも日本の食卓にでてくる料理と気兼ねなく合わせられるので、是非普段ワインとしてヴェネトワインを楽しんでみてはいかがでしょうか？