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シャトー・ボイド・カントナック

Chateau Boyd Cantenac

マルゴー村のメドック格付け第3級シャトー。1990年代までは3級の中でもかなり低いレベルと言われていましたが、2000年以降品質が安定し、現在では3級に相応しいレベルになっています。

歴史ある個性派シャトー


このシャトーの始まりは、マルゴー・カントナック村で修道院が所有していた約4haのブドウ畑でした。畑ではミサに使われるワインが少量生産されていましたが、この小教区を購入し地主となったのがシャトーの初代当主となったジャック・ボイドです。

北アイルランドのベルファストにルーツを持つボイド家は羊毛を扱う商業家で、17世紀にボルドーへ移住し1754年に土地を購入、シャトー・ボイド・カントナックが誕生しました。しかし彼が購入したのは畑の一部のみで、他の畑と醸造設備等はのちにギュメ家の所有となるシャトー・プージェが取得しました。

記録によると1806年にシャトーはジョン・ルイス・ブラウンに婚費として引き継がれ、1860年に畑の一部はクルティエのアルマン・ラランドに売却されたのち、イギリス人ジョン・ルイス・ブラウンが所有し、シャトー・カントナック・ブラウンとなりました。

この後、1920年になってシャトー・ボイド・カントナックが復興した、との記録が残っているので、1800年代からの長い間、シャトー・ボイド・カントナック名でのワインの生産は途絶えていたようです。

一時は第4級シャトー・プージェの敷地内で生産されていたことも


その後シャトー・マルゴーを所有していたジネステ社の所有を経て1932年以降はギュメ家の所有となりました。ギュメ家は1906年からマルゴーのシャトー・プージェも所有していましたが、シャトー・ボイド・カントナックは醸造や貯蔵の設備を持っていなかったので、そのワインは一時期シャトー・プージェの敷地内で生産・貯蔵されていました。

そのため格付け4級のシャトー・プージェが、格付け3級のシャトー・ボイド・カントナックのセカンドとして扱われていたこともあります。

2000年ヴィンテージ以降、品質の向上と高まる評価


1982年以降シャトー・ボイド・カントナックはシャトー・プージェとは別の場所で生産されるようになりましたが、当初は品質が安定せず、ロバート・パーカーからも「どうしようもなく品質が不安定」であり「私の購買リストに載ることはない」と酷評されています。

しかし1997年シャトーを引き継いだリュシアン・ギュメが、ボルドーの父と呼ばれる醸造学者エミール・ペイノー博士の指導を受けて品質の向上に取り組み、2000年ころよりパーカーポイントも90点以上と、安定して高い点数を得るようになりました。

これは「プリムール(新酒の先物売り)に参加し始めたジャーナリストの評判ばかりを気にして、新樽を多めに使い、漫然とアタックの強いワインを生産してゆく、個性を失ってしまったそんなワインは作りたくない」と、時代の流行や多数の好みに左右されず、信念をもってひたむきにワイン作りと向き合ってきたリュシアン・ギュメの努力の結果といえます。

これまでは、マルゴーのカントナック名の付く特級シャトー、カントナック・ブラウンやブラーヌ・カントナックと比べて影が薄かったのが、「果実味が心地よく、クリーンでなめらかなワイン」と、近年は人気も評価も高まっています。

成長サイクルを重視したブドウ栽培


シャトーの17haの畑ではカベルネ・ソーヴィニョン60%、メルロー25%、カベルネ・フラン8%、プティ・ヴェルド7%の割合で、平均樹齢35年のブドウの樹が1haあたり1万本の密度で栽培されています。

シャトー・ボイド・カントナックのワインとなるブドウ作りの作業は、冬季のうちから行われます。まず将来の収穫とブドウの樹を良い状態で保つために重要な、ブドウの苗条の数を決定する作業が行われ、春と夏には、実った時の陽当たりや風通しをよくするため、不要な芽の間引きをし、ブドウの実が重なったり、葉に隠れたりすることのない良い位置に配置されるように、整えられていきます。

畑への化学物質の過度な使用は控えて、土壌の自然のままの豊かさや生物多様性を維持するためにコンポストが使用されるなど、長期的に良質なブドウを栽培し続けるために、植物の成長サイクルを重視した様々な方法が取り入れられています。

シャトー・ボイド・カントナックのワインの特徴


シャトー・ボイド・カントナックのワインは、口当たりがよいだけのワインとは一線を画している、クラシカルなマルゴーで、甘草やスパイス、ブラックカラントを思わせる風味にしっかりとしたタンニンを持っている長期熟成型。

畑で丁寧に育てられたブドウは、品種の熟成度に応じて10日から25日ほどかけて手摘みで収穫され、コンクリートタンクで長めに発酵されます。新樽率58%で行う樽熟成は12〜18か月間で、3か月に一度の澱引きと、仕上げに卵白を用いたマセレーション(清澄)を行いますが、ろ過は1997年以降行われていません。

かつては「お買い得」といわれるワインでしたが、品質の安定で評価が見直され、日本では漫画「神の雫」で紹介されたことでも人気が高まり、価格も以前より高くなりました。

セカンドラベルは、ジョセフィーヌ・ド・ボイド、ラ・クロワ・ド・ボイド・カントナック、ジャック・ボイドです。