イタリアのスパークリングワイン

イタリアでは全20州にわたり、広大な範囲でワインが生産されています。それぞれの州には古くから根づいてきた、伝統的で地方色豊かな銘柄が存在しますが、スパークリングワインもその例に漏れず、地域によって異なる表情を見せてくれるのが楽しいところ。

発泡性ワインの事をスプマンテ、微発泡のものはフリッツァンテと呼ばれていますが、DOCやDOCGなどの原産地呼称が認められ、特別な名前がつけられたものもたくさんあります。日常用に楽しまれてきた安価なものから、素晴らしい品質を備えた高級品まで、その内容は非常にバラエティに富んでいますが、中でも以下に挙げたいくつかの銘柄は、今や世界中で愛されるまでに高い人気を誇る銘酒として知られています。

気軽に飲めるコスパが大きな魅力、プロセッコ！

DOCプロセッコはグレーラというブドウを用い、ヴェネト州を中心とした広範囲で生産されるスパークリングワイン。地元では昔から愛されてきた銘柄でしたが、1980年代になるとイタリアの広範囲で飲まれるようになり、「プロセッコを飲みに行こうよ」という意味の「プロセッキアーモ！」という言葉が誕生するまでに人気を高めました。

たっぷりの果実味に、余韻にほのかな優しい甘味を備えるプロセッコの味わいは、誰もが素直に美味しいと感じられる万人受けするタイプ。発酵に凝った方式を用いていない分、価格がリーズナブルなのも大きな魅力で、日常的に気兼ねなく飲むならプロセッコの右に出るものは無いでしょう。さらにワンランク上のDOCGに認定されたプロセッコは、広大な産地の中でも、限られた地域でしか生産が認められない高級品。細やかな泡と上品で複雑な味わいは、そこそこ張るお値段にも納得のいく素晴らしい完成度を誇ります。

やがてイタリアのみならず、世界中で人気の銘柄となるまでに成長したプロセッコ。特にここ最近では、欧米で爆発的なブームが起こっており、一部の国では品薄状態も発生しているのだとか。このためイタリアでは2016年から、プロセッコの生産認定エリアを大規模に拡大する事を決定、なんとかその需要に対応しているほどです。

国外の生産者もこの動きには注目しており、近年では同じく人気銘柄であるスペインのカヴァにおいて、筆頭生産者として知られるフレシネ社までが、イタリアに進出しプロセッコの生産に乗り出してきました。絶好調のプロセッコ、その生産量は3億本を突破しさらに伸び続け、ついには発泡ワインの王様・シャンパーニュを上回るまでに。40年ほど前まで、ヴェネト州の地酒に過ぎなかったスパークリングワインは、名実共に「世界で一番売れているスパークリングワイン」になるまで飛躍的な成長を遂げ、現在のワイン市場を席捲しています。

特別な日に開けたい極上の泡、フランチャコルタ！

イタリア屈指の高級スパークリングワインとして知られているフランチャコルタ。世界的なファッションの発信地としても有名な、ミラノを中心として栄えるロンバルディア州の銘酒です。こうした大都市だけでなく、いくつもの工場が林立するロンバルディアは、一見ワイン生産とは縁の薄い土地に思えますが、実は古くからのブドウが盛んに生産されてきた銘醸地という一面もあります。

その中でもフランチャコルタは、1995年にDOCG認定されたばかりという比較的新しい銘柄。この短期間でここまで名を高めたのは、グイド・ベルルッキやフランコ・ジリアーニといった、この地でのスプマンテの生産に熱い情熱を捧げる生産者の活躍があっての事でした。とにかく高い品質を目指し、この二人が1961年にリリースした「ピノ・ディ・フランチャコルタ」は、当時の愛好家に大絶賛され注目を浴び、現在のフランチャコルタの前身となり大きく貢献したのです。

スパークリングワインにはいくつかの生産方式がありますが、フランチャコルタでは瓶内二次発酵製法を用いて造る事が義務付けられています。さらに使用が認められている品種は、シャルドネとピノ・ネロ、それにピノ・ビアンコのみ。ピノ・ネロはピノ・ノワール、ピノ・ビアンコはピノ・ブランの事なので、使われるブドウも製法もシャンパーニュと同様という事になります。

まさしくイタリア版のシャンパーニュと言うべきフランチャコルタですが、最低でも18か月の瓶内熟成期間が必要という規定は、実はシャンパーニュよりも厳しかったりします。本家に負けずとも劣らない高い品質を備える銘柄もあって、今やプレミアム・スパークリングワインとしての地位を揺るぎないものとして、世界中の愛好家から大きな支持を受けています。

元祖赤いスパークリングワイン、ランブルスコ！

一昔前までの日本では、スパークリングワインで赤というだけで珍しいものでした。それが今では、お昼の情報番組にも取り上げられるほどに知名度を上げ、一大ジャンルとして確立しつつあるほどに定番化。まだまだ数は多くありませんが日本にいながらにして、世界中の赤いスパークリングワインが入手できるようになってきています。

その元祖となったのが、エミーリア・ロマーニャ州を代表するワインとして知られるランブルスコ。甘口のドルチェ、辛口のセッコ、それらの中間に位置するアマービレなど、味わいのタイプも様々です。ドルチェはデザートと合わせても美味しく、ワインが苦手な方でもカクテル感覚で抵抗なく飲めるので、女性や甘党の方から根強い支持を受けています。

しかし現地で飲まれているのは、多くがセッコを中心とした辛口タイプ。セッコでもランブルスコ特有の、ほのかな甘みはありますがほとんど気にならない程度です。エミーリア・ロマーニャの人々は、前菜からメインまで食事を通して、辛口のランブルスコを合わせて楽しんでいます。何よりピッタリとマッチするのが、名産品である生ハム、サラミ、チーズなどいった食材。エミーリア・ロマーニャではこういった脂っこい食べ物が多いのですが、口の中をちょうどよく洗い流してくれる辛口ランブルスコは大活躍、この地で古くから愛飲されてきた理由がよくわかるところです。

今も昔も甘口スパークリングの定番、アスティ！

バローロやバルバレスコを筆頭に、高級赤ワイン産地としてのイメージが強いピエモンテ州。そんな中で異質とも言える存在が、甘口スパークリングワインとして知られるアスティです。モスカート・ダスティとも呼ばれるとおり、フレッシュな甘味と芳醇なアロマを産むモスカート種を使って造られており、優しい甘さと爽やかな炭酸、ふくよかで飲みやすい味わいが日本でも受け入れられ定着しています。

よく冷やしてそのまま飲んでも美味しいですが、スイーツやケーキと合わせて、デザートワインとして楽しんでも最高です。イタリアのクリスマスではケーキ代わりに、パネットーネというパンのようなケーキを食べるのですが、これがアスティと抜群の相性を発揮。現地ではパネットーネとアスティが、クリスマス定番の組み合わせとして広く親しまれているのです。

一般的に出回っているアスティはとてもリーズナブルな価格で、それもまた大きな魅力の一つと言えるでしょう。中には瓶内二次発酵による、本格的なスパークリングワインの製法を用いる生産者もいますが、こういったものはクオリティに比例してお値段もひと回り高くなってきます。しかしフレッシュで爽やかなアロマを楽しみたいなら、安価なアスティでも全く問題ありません。実際にアスティの生みの親として知られるカルロ・ガンチャは、当初はシャンパーニュで学んだ瓶内二次発酵方式を用いていたものの、最終的にはタンク内発酵のシャルマ方式を採用しました。これが現在にも続いて、アスティを醸造する上でのスタンダードとなっています。

その他にも色とりどりのイタリア産スパークリング！

ロンバルディア州では、オルトレポー・パヴェーゼのスプマンテもまた傑出した存在。フランチャコルタとほぼ同様の規定で造られる、瓶内二次発酵方式による良質なスパークリングワインが高い評価を受け、2007年にはDOCGへと昇格を果たしました。DOCオルトレポー・パヴェーゼでは非発泡性ワインも多く生産されてきましたが、スプマンテだけがDOCGとなり別格の扱いを受けています。

一方でピエモンテ州でも、ピノ・ネロとシャルドネを使って瓶内二次発酵方式で造られる、DOCGアルタ・ランガが2011年に認定。DOCGカルーソはエルバルーチェというブドウを用いた、酸と清涼感に溢れる白ワインですが、この銘柄ではより爽やかなスプマンテも存在し、ピエモンテで独特の個性を放っています。さらにブラケット種を用いたDOCGアックイは、甘口という点でアスティと同様ですが、こちらは赤のみが認められている面白いスパークリングワインです。

またトレンティーノ・アルト・アディジェ州も、上質なスプマンテを多数産み出す産地として知られています。その発展に大きな役割を果たしたのが、現在もこの地を代表する生産者として名高いフェッラーリ社。創始者であるジュリオ・フェッラーリは、本場シャンパーニュで学んだ技術を故郷に持ち帰り、トレントにおける良質なスプマンテの元祖となるワインを産み出しました。DOCトレントはこうしたスパークリングワイン専用の呼称で、日本にも多くの銘柄が輸入されています。