カヴァ Cava

スペイン産スパークリングワインの代名詞的存在でもあるカヴァ。世界中の需要に応えるべく、生産量も非常に多い事で知られていますが、そのうちの95％という大部分がカタルーニャ州のペネデス地域で造られています。ちなみにカヴァとは「洞窟」を意味する言葉で、以前は熟成や保管をする上で、実際に洞窟が用いられていた事がその由来なのだとか。

カヴァが誕生したのは1872年の事。既に老舗の生産者として知られていた、コドルニウ家のホセ・ラベントスという人物が、フランスのシャンパーニュ地方で発泡ワインの生産技術を学び、自らのワイナリーに導入したのが始まりでした。彼はピノ・ノワールやシャルドネの代用として、地元カタルーニャのブドウを使い、上質なスパークリングワインを産み出す事に成功。その評判はあっという間に広まり、スペイン王室御用達になるまでの名声を獲得したのです。こうしてカヴァ発祥の地となったサン・サドゥルニ・デ・ノヤは、現在もカヴァ生産における中心地となっています。

大成功を収めたコドルニウですが、自分たちが産み出したカヴァが後の時代に、世界中でこんなにももてはやされるとは予測していなかった事でしょう。何しろその年間生産量は、ここ30年間で急激に増加し、3億本というとてつもない量に迫っているのです。

世界最高レベルのコスパと、多くの人に好まれる味わい！

カヴァの人気は、今や不動の地位を確立しています。ここまでの支持を獲得した理由はなんと言っても、カヴァが素晴らしいコストパフォーマンスを誇っている点に尽きるでしょう。

カヴァで義務付けられている製法は瓶内二次発酵方式、きめ細やかな泡立ちと芳醇な香りが得られる醸造法ですが、生産に手間暇がかかる特性上、この製法で造られたものはどうしても割高になってしまいます。同様の製法を用いるシャンパーニュはもちろんですが、それ以外の銘柄であっても、数千円〜一万円以上の値をつけるものさえ珍しくありません。

そんな中で1000円前後という手頃な価格帯で入手できる、低価格帯カヴァのリーズナブルさはまさに圧倒的。その存在が世界中の消費者に知られるようになると、輸出量のグラフが右肩上がりに急成長、ワールドクラスの爆発的な人気を巻き起こしました。日本でも今やカヴァは定番となり、ワインショップどころかスーパーマーケット、さらにはコンビニですら入手できるほど普及しています。

こういった安価なカヴァは、シャンパーニュのような上品さ、緻密さにはどうしても欠けるところがあります。しかし繊細な味覚を楽しむ高級料理ならともかく、普段の食卓でビール代わりに、またパーティーでバンバン開けるワインとしては全く問題なし。それどころかクセの少ない味わいは、多くの方に抵抗なく受け入れられる上に、合わせる料理を選ばないため、日常の場ではむしろカヴァの方が向いているかもしれません。繰り返しになりますが、気軽に飲める良心的な価格はカヴァの大きな強みであり、世界中で愛される所以となっているのです。

ところで巷に出回っているカヴァのほとんどは、「ブリュット」などの辛口タイプが占めています。アヒージョにパエリアといったスペイン料理はもちろんの事、和食に中華に辛みのあるエスニックまで、爽やかな味わいが幅広い料理とマッチするので、非常に使い勝手が良いのも魅力です。さらに辛口な「ブリュット・ナチュレ」は、甘さがほとんど無いので飲み疲れもせず、少しクセのある食材や新鮮な生の魚介類と合わせても美味しいタイプ。その他「セミ・セコ」などの甘口も、わずかながら出回っているのを目にする事があります。

カヴァに使われるブドウ品種

カヴァに使用できる品種は決められていますが、主に用いられるのは以下の3つが中心。生産者たちはこれらのブドウを組み合わせる事で、自らのカヴァにオリジナリティを産んでいます。

マカベオ

別名ビウラとも呼ばれる、スペインを代表する白ブドウの一つです。非発泡性のスティルワインでも、フレッシュで果実味に溢れる良質な白ワインを産み出しますが、カヴァにも欠かせない品種となっており「王道的カヴァの味わい」の素となります。フルーティーなだけでなく酸味も豊富なブドウで、カヴァの味わいに爽やかさをもたらします。

チャレッロ

古代ローマ人によってカタルーニャに伝播したとされるブドウ。溌剌とした酸味をカヴァに与える役割を担いますが、糖度が豊富なのもチャレッロで際立つ点です。これによってしっかりとしたコクとボディが備わるだけでなく、十分なアルコール度数を得る事ができるため、長期の熟成においても大きく貢献します。

パレリャーダ

古くからカタルーニャに根付いてきた土着品種で、コドルニウ家がカヴァを産み出す際に抜擢されたブドウ。豊かで優雅な香りを産み出すという点で、カヴァには欠かせない存在となっています。酸やボディもありますが、味わいの面ではあまり個性を主張せず、繊細さや柔らかさといった要素を演出するのに一役買っています。

その他にもカヴァのロゼではトレパットの他、ガルナッチャにモナストレルといった、スペインで定番の黒ブドウも認められています。ピノ・ノワールもロゼだけに使用されてきましたが、近年になって白のカヴァにも認められるようになりました。またシャルドネの使用も認められているので、銘柄はカヴァでもピノ・ノワールと合わせて、元祖シャンパーニュの再現をする事も可能なのです。

素晴らしい品質を備える格付け上級カヴァ！

シャンパーニュは文句無しの品質だけど、どうしても価格の面で手が出しづらい。かといって安価なヴァン・ムスーやスプマンテだと、泡立ちや味わいがちょっと物足りない…。そんな方にこそぴったりハマるスパークリングワインがまさにカヴァ。地中海の温暖な気候で育ったブドウを使っている事で、多くの方が親しみやすいスッキリ＆果実味豊かなタイプとなり、デイリーワインとしてピッタリなのは上述の通りです。

レゼルバやグラン・レゼルバといった上級クラスのカヴァも、スパークリング好きなら抑えておきたいところ。通常のカヴァの最低瓶内熟成期間は9か月ですが、レゼルバではこれが15か月以上と定められており、グラン・レゼルバになると30か月以上もの長期熟成とヴィンテージ表記が義務づけられてきます。カヴァにはキャップシールやラベルなどに、必ず認定シールが貼ってあるのですが、これらの上級品は通常クラスの白いシールと色が異なるので一目瞭然です。

レゼルバの認定シールは黄緑色で、通常クラスのカヴァを愛飲されている方が飲んでみれば、複雑味や熟成感が際立っているのがお分かりになると思います。市場に出回っているカヴァの中には、ワンランク上のレゼルバにもかかわらず、ほとんど通常クラスと変わらない1000円台で入手できるものも稀にあるので、思わぬ掘り出し物を見つけられるかもしれません。

さらにグラン・レゼルバになるとシールの色は黒となり、香りや味わいの奥行き・深みの面で、スパークリングワインとして非常にハイレベル。きめ細やかな泡立ちと芳醇なイースト香、長期の熟成を感じるリッチで高貴な味わいを備え、もはやシャンパーニュと遜色ない次元の銘柄も。この辺になるとカヴァでもお値段は張ってきますが、低価格帯のカヴァと内容は別格である事を鑑みれば、コスパの面では変わらず優秀です。もし機会があればシャンパーニュと一緒に開けて、どちらがお好みか飲み比べてみてください。

そして2016年、「カバ・デ・パラヘ・カリフィカード」という格付けが、新たにカヴァの最上級クラスとして導入されました。36か月以上の瓶内熟成に加えて、特定の単一畑のブドウのみを使用する事、樹齢は最低10年で手摘みの収穫が義務付けられるなど、より一層厳しい規定をクリアしなければ表記する事ができません。この制度の導入自体がはごく最近の事なので、市場にはまだほとんど流通していませんが、これからもし見つける事があればぜひ飲んでみてください。その味わいはきっと、スパークリング好きの期待を裏切らない内容のはずです。

多数あるカヴァの中でも代表的な銘柄

カヴァの元祖となったコドルニウは、今でも代表的なカヴァ・メーカーとして知られる存在で、現在の当主で18代目を数えるのだとか。昔は日本でカヴァと言えば、コドルニウ（「コドーニュ」と呼ばれる事も）を筆頭にわずかな種類だけしかなく、カヴァと聞けばこの銘柄を思い浮かべる方も多いでしょう。スパークリングワインにとどまらず、スティルワインの生産にも力を入れており、スペインのみならずカリフォルニアとアルゼンチンにもワイナリーを所有、世界規模のワイン会社へと発展を遂げてきました。ちなみに歴史あるコドルニウの建物は「カヴァの聖堂」と呼ばれ、スペインの重要文化財にも指定されています。

そんなコドルニウと並び、昔から日本に流通しているカヴァの一つがフレシネ。こちらもカヴァの黎明期から活躍してきたワイナリーで、コマーシャルや街中の看板など、広告戦略にも積極的な事もあって、ワインを飲まない人でも見た事があるほど高い知名度があります。フレシネ社のフラッグシップであり、特徴的な黒いボトルの「コルドン・ネグロ」は、コンビニやスーパーなどいたる所で手軽に入手可能。バイクのロードレース世界選手権では、公式スポンサーであるフレシネのカヴァが、恒例のシャンパンファイトで使用されています。

同様にカヴァの定番として、その姿をよく見かけるのがロジャーグラート、通称「ロジャグラ」の名で知られています。数年前のテレビ番組で、芸能人からドン・ペリニヨン以上との評価を受けたのがきっかけで大ブレイク、一時は市場から姿を消すほどに人気が爆発しました。もちろん日本のみならず、世界でも高い評価を獲得していますが、実際に品質のレベルはかなりのもの。看板商品のロゼは、カヴァの規定期間である9か月を大幅に上回る、18か月近くもの瓶内熟成を経てから出荷され、しかも低価格帯では珍しいヴィンテージ表記入り。色調は濃いめで、味わいもロゼとしてしっかりしたタイプですが、泡のきめ細やかさに加えて上品なニュアンスもあり、非常にバランスのとれた良質なカヴァと言えます。ロゼ以外の各種や上級キュヴェも、価格以上の優れた品質を備えており、確かにドンペリより美味しいと感じる方がいてもおかしくない、洗練された完成度を誇っているラインナップです。

以上に挙げた銘柄はあくまで一例で、他にもたくさんの種類のカヴァを日本のショップで見る事ができます。最近では有機栽培のブドウを用いた、オーガニック・カヴァも見かけるようになった他、独自のスタイルを打ち出しているワイナリーも増えてきており、同じカヴァでも様々な個性を楽しむ事ができるようになってきました。シャンパーニュやプロセッコをはじめとして、世界中にライバルの多いスパークリングワインというジャンルにおいて、今後もカヴァは欠かせない銘柄として愛され続けていくでしょう。