ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ Brunello di Montalcino

「ブルネッロ」の愛称で親しまれている「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」は、超長期熟成型の赤ワインで、中部イタリア・トスカーナ州で生まれました。 バローロ、アマローネと並びイタリア高級ワインとして絶大な人気を誇るブルネッロですが、歴史は意外にも浅く、ブルネッロが誕生したのは19世紀後半。生産者たちが本格的に造り始めたのはなんと1967年以降、たったの50年しか歴史がないのです。

またブルネッロを語る上で、決して忘れてはならないのがビオンディ・サンティ家の存在です。 ビオンディ・サンティは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの生みの親であり、彼らの歴史はブルネッロの歴史でもあり、いつもブルネッロとともに歩んできました。

100年先でも飲めるワインを造るために・・・

今から150年ほど前、モンタルチーノ村のクレメンティ・サンティが、キャンティに使われていたサンジョヴェーゼ種のクローンから「サンジョヴェーゼ・グロッソ（別名：ブルネッロ）」というブドウを生み出しました。

このブドウは、他のサンジョヴェーゼよりも皮が厚く粒が大きいため「グロッソ（太い）」と呼ばれ区別されました。ワインにするとタンニンはキメが細かく力強く、色が濃いのが特徴です。そのため長期熟成に耐えうるワインを造る事ができました。

19世紀後半、3代目当主フェルッチョ・ビオンディ・サンティが、このサンジョヴェーゼ・グロッソを使って「100年飲めるワインを造りたい！！」という強い信念をもって、赤ワインの研究を重ね、現在の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を完成させました。

その製造規定は世界でも類を見ないほど厳しく、サンジョベーゼ・グロッソのみであること、そして合計5年間という異常とも思える長い熟成を経てはじめて完成する、というものでした。

しかし当時のモンタルチーノ村は、軽いワインやモスカデッロという白甘口のワインが主流で、熟成ワインを求める人はいませんでした。また、トスカーナの中でも貧しい村だったモンタルチーノは、収穫後すぐに販売する事が出来ないブルネッロは、現実的ではなく、誰一人ビオンディ・サンティに追随する者は現れなかったのです。

またちょうどこの頃、フィロキセラの被害に見舞われ、村のブドウ畑は壊滅状態になり、世界大戦によってワインビジネスが停滞したりと、ビオンディ・サンティにとって不運な出来事が続きます。

しかしそんな逆境な中でも諦めないビオンディ・サンティは、まわりの生産者をまとめ上げ、高品質なワイン造りの重要性を伝え続けました。 こうした努力が徐々に実を結び、少数ながら地元の農夫たちもブルネッロを造るようになり、1967年にブルネッロ協会が設立されました。

とはいうものの当時のブルネッロの栽培面積は64ヘクタールほど。 ワインを造るだけでは生計が立てられなかったため、多くの農夫は穀物畑や牛を飼い兼業農家としてブドウを育てる程度でした。

そんな停滞状態だったモンタルチーノ村に劇的な変化が訪れたのは、1870年代バンフィ社が参入した頃です。イタリア系アメリカ人のマリアーニ兄弟が設立したバンフィは、もともとアメリカでイタリアワイン輸入販売をしており、ランブルスコで世界的に成功を収めました。 貧しい村に現れた莫大な資金力をもったバンフィ社。 バンフィの影響力と販売網の力によってブルネッロの知名度は一気に上がり、アメリカを中心に世界中がブルネッロに関心を抱くようになりました。 最初はそんなよそ者を懐疑的に見ていた農夫たちでしたが、バンフィの成功によって、ようやく自分たちの土地の価値に気づき、その波に乗ろう積極的にブルネッロを造る様になりました。 そして協会が設立した当時は、たったの64ヘクタールしかなかったブルネッロの畑は、今では2000ヘクタールにまで拡大しました。 90年代、世界的なブルネッロブームになると農夫たちは今まで想像すらしえなかった富と名声を得たのでした。

しかし、順風満帆にみえたブルネッロが、2008年世界中を震撼させる大事件を起こしてしまいます。 それが「ブルネッロ・スキャンダル」です。 サンジョヴェーゼ・グロッソ100％で造らなければならないブルネッロの規定を無視し、モンタルチーノの名だたる主要ワイナリーが、未承認の品種をブレンドし販売していた事が発覚したのです。

これによりせっかく創り上げた「ブルネッロブランド」は瞬く間に失墜してしまいます。

ただ一つ言える事は、ブレンドをした彼らの意図は決して量産を目指し品質を落とすものではなく、より良いワインを造るために少量他品種を加えたに過ぎなかったのです。 結果ブレンドしたブルネッロの方が人気があり高値で売れていた、というのも事実だったのです。

この事件がキッカケとなり、一部の生産者は市場が求めているブレンドを正当化すべきだと、規制緩和を求める動きが生まれました。 しかし、ブルネッロの生みの親・育ての親であったビオンディ・サンティはそれを良しとはしませんでした。 目先の利益に捕われれることなく、一家に脈々と受け継がれる信念を貫き、「サンジョヴェーゼ100％」という唯一無二の個性を重視すべきだと説いたのです。

紆余曲折あったブルネッロの歴史ですが、決して変わることのなかったビオンディ・サンティ家の強い信念によって、「長期熟成」と「サンジョヴェーゼ・グロッソ100％」という明確な個性をもったブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、今や世界中で愛されるワインとなったのです。

テロワールの違いを楽しむ

モンタルチーノの生産エリアは2万4000ヘクタールと広く、うちブルネッロ・ディ・モンタルチーノは2100ヘクタールにもなります。

バローロなどに比べるとあまり語られてこなかったブルネッロのテロワールですが、実は様々な土壌、地形、気候などが複雑にまざったモザイク状のテロワールを有しています。

北部には、カナリッキオ地区とモントーソリ地区などがあり、古くからブルネッロを造っていた歴史的産地です。ビオンディ・サンティを始め、1967年のブルネッロ協会発足当時の創設メンバーの殆どがこの地区の生産者です。 土壌はそれぞれの地区で異なり、カナリッキオは粘土質を多く含み、モントソーリは石が多く混ざるガレストロ土壌です。 北側の斜面に多くのワイナリーが集中しており、モンタルチーノの中では気候が冷涼です。ワインには酸がしっかりとのり、フレッシュで繊細なアロマが形成され、古典的なブルネッロが生まれます。

一方南部は、サンタンジェロ・イン・コッレ地区やカステルヌオーヴォ・デッラバーテ地区などがあり、日当たりのよい地区です。ワインは果実味豊かで、香り高く、濃厚でパワフルな味わいのブルネッロが生まれます。

ブルネッロの主な生産者

ビオンディ・サンティ（Biondi Santi）
バンフィ（Banfi）
テヌータ・カパルツォ（Tenuta Caparzo）
ラ・フーガ（La Fuga）
コル・ドルチャ（Col d'Orcia）
サン・フェリーチェ（San Felice)
ファットリア・ディ・バルビ（Fattoria dei Barbi）