ヴァッレ・ダオスタ Valle d'Aosta

ヴァッレ・ダオスタ州は、イタリアの北西部に位置し、北はスイス、西はフランス、南と東はピエモンテ州に接しています。 イタリアで最も小さい州であり、最も大きいシチリアと比べると8分の1しかありません。

州名は「アオスタの渓谷」という意味で、氷河によって削られてできた巨大な渓谷です。

アルプスの最高峰モンブランやマッターホルン、モンテ・ローザ、グラン・パラディーゾなど険しい山々に囲まれた山岳地帯にあり、谷底にはドーラ・バルティリア川が流れています。

冬にはスキー、夏には登山、と大自然を堪能できるこの州は、ヨーロッパ各国から観光客が訪れる人気のスポットです。 また州都アオスタの歴史は古く、古代ローマ帝国時代に造られた遺跡が今も残っていたり、13世紀に建設された古城は各地に点在し、その数なんと20以上にもなります。 ダイナミックな山々を背景に美しい古城がそびえるその姿は、まさに中世にタイムスリップした様な景色です。

ワインは紀元前から造られていたとされていますが、その実力はあまり知られていませんでした。 面積が小さいというだけでなく、平野が殆どなく耕作するのが困難な傾斜地ばかりで、ブドウ畑はその急斜面にへばりつく様に栽培されています。 ゆえにワインの生産量はイタリアで最も少なく、イタリアの全生産量のわずか0.7％しかありません。ほどんどが地元で消費されるため、州外ではなかなか手に入れることが出来ず、結果として認知度の低い産地になっていました。 しかし、近年では栽培・醸造技術が発展したり、土着品種の見直しが行われるなど、進化が目覚ましく、少数精鋭のワインを生み出す州として注目を浴びています。

ヨーロッパで一番標高が高いワイン産地

この州のDOCワインは「ヴァッレ・ダオスタ」の一つだけですが、22種類もブドウを使用することができ、地域ごとに個性的なワインが造られています。

例えば、ドーラ・バルティリア川の上流では、土着品種であるプリエ・ブラン種を使った「ブラン・ド・モルジェ・エ・ド・ラ・サル」が造られています。 「ヨーロッパで最も標高の高い産地」とも言われていて、標高はなんと900〜1300メートルにもなります。あまりに標高が高く寒冷な気候なため、プリエ・ブラン種はフィロキセラの被害を受けなかった品種の一つだそうです。標高の高さを活かした豊かな酸とミネラル、そしてプリエ・ブラン種らしい繊細さが特徴です。

中流では、プティ・ルージュ種やピノ・グリ種、ミュスカ種など様々な品種が栽培されていますが、特にミュスカ種から造られる「シャンバーヴ・ミュスカ」という甘口のワインが有名です。歴史的には14世紀まで遡り造られ続けてきたワインで、生き生きとした味わいとエレガントさを兼ね備えた甘口ワインです。 最近は辛口タイプも人気があり、ミュスカらしいマスカットの甘やかな香り、口に含むとゲヴュルツトラミネールを連想させる胡椒の様なスパイシーさも感じられるワインです。

ピエモンテ州に近い下流地域では、ピコンテンドロ種と呼ばれる黒ブドウが栽培されています。この品種は、「ネッビオーロ種」のことであり、お隣のピエモンテ州のカレーマ地区のネッビオーロワインに似た味わいで、大変優美は赤ワインになります。

他にも、プティ・アルヴィン種、マヨレ種、フミン種、ヴュィレルマン種など、多くの土着品種を有するヴァッレ・ダオスタ州では、バリエーション豊かなワインが楽しめます。

フランスとイタリアの文化が交差する州

ヴァッレ・ダオスタ州はフランスに隣接し、長年フランス領だったこともあり、イタリア語と共にフランス語も公用語になっています。

フランスの影響はワインのラベルを見ると一目瞭然で、イタリア語とフランス語が混在していたり、「ピノ・ネロ」が「ピノ・ノワール」と書かれていたり、どちらの国ともとれない異様なラベル表記になっています。

また食文化も独特で、オリーブオイルは殆ど使用せず、バターやチーズを多様します。 ヴァッレ・ダオスタ州の名産品であるフォンティーナチーズを使って作る「フォンドゥータ」料理は、イタリア版チーズフォンデュのことで、白ワインで溶いて温めたチーズをパンにつけて食べれば、極寒の冬に体を温めてくれる雪山の郷土料理です。

また肉の消費量も比較的に多く、そのためワインは白よりも赤ワインの消費が多いのもこの州の特徴です。