前回左岸について解説したボルドーの産地に関するあれこれ。
今回は右岸編です!
比較的耳なじみのある生産地の多い左岸に比べて、マニアックで複雑に入り組んだ構造になっているのが右岸ボルドーの特徴です。
ただし掘り出し物がいっぱいある隠れた銘醸地が多いのも右岸の魅力なんですね!
ではボルドー右岸の産地を解説していきます!
目次
はじめに
まずはこの解説のルールを改めて、書いておきましょう。
ボルドーやシュペリュール、クレマンなどの広域AOCは除いて、下流の産地から説明していきます。
そしていまから解説する岸とは、大西洋に流れ込むジロンド河と、そこから二つに分かれるガロンヌ河とドルドーニュ河のどちらの岸に産地が存在するか、ということです。
上流から見て右側にあるのが、右岸の産地。大別してコート地区とサン・テミリオンの周辺地区に分けられます。では解説始めます!
右岸 サンテミリオン周辺
ドルドーニュ河右岸のリブルヌを中心とする地区で、中心地の町サン・テミリオンは世界遺産に指定され、美しい町並みが広がっています。
左岸地域との大きな違いはメルローを主体とすること。といわれますが、それは主にサン・テミリオン周辺に限っての話と思ってもらっても構いません。コート地区は、多種多様というべき様相を呈しています。
すべて赤のみが認定されている地区で、代表的な産地は、サン・テミリオンと「シンデレラ」ポムロルがあげられます。
フロンサック
リブルヌを中心とするサン・テミリオンの周辺地区で、西側に広がるフロンサック。
18世紀にはサン・テミリオンよりも高値が付けられていたフロンサックですが、19世紀末に害虫フィロキセラによって、ブドウの樹が全滅。復活を果たした、と言えるのが1990年代とずいぶんと放置されていた悲劇の産地です。
ワインとしては近隣のポムロルに近く、フルーティながらスパイスのニュアンスもある複雑味のあるワインに仕上がります。
あまり日本には出回りませんが、コストパフォーマンスの高いワインとして有名。ポムロルが全体的に高値なので、あの味わいが好きならこちらを飲んでみても良いかと思います。
認定タイプ:赤のみ
有名シャトー:シャトー・レ・トロワ・クロワ シャトー・フォントニル
カノン・フロンサック
カノン・フロンサックはフロンサックの南、よりドルドーニュ河に近いところに位置します。
フロンサックの一部地域がカノン・フロンサックという位置づけなので、カノンの方が上位AOCです。「クリュ」の概念が誕生した場所、という情報もあり、カノンの方がより良質なテロワールを持っているようです。
フロンサックよりも風格のあるワイン、ということから、より凝縮感や豊満さのあるワインと言えるでしょう。ただこちらもあまり価格の高いワインは見当たりません。
認定タイプ:赤のみ
ポムロル
ボルドーで最も高価なワインを生み出すポムロル。
比較的新しい産地で格付もなく、面積も小さいポムロルがなぜここまでの地位にのし上がったのか。
それはジャン・ピエール・ムエックス氏の功績が大きいところです。彼の活躍はここでは割愛しますが、ムエックス氏なくして、シャトー・ペトリュスやシャトー・ル・パンが、五大シャトーを上回る価格で取引される世界は実現しなかったことでしょう。
個々のシャトーが評価されているため、産地としての特徴は捉えづらいですが、厚みや魅惑的な香りを持つ、最上のメルローができます。
繊細でありながら濃密、リッチでありながらエレガント、という唯一無二のワインに仕上がります。平均的に高価ですが、品質も高水準であまり外れのない産地ともいえるでしょう。
認定タイプ:赤のみ
有名シャトー:シャトー・ペトリュス シャトー・ル・パン
ラランド・ド・ポムロル
ポムロルと河を挟んで、北側に位置するラランド・ド・ポムロル。
ポムロルやサン・テミリオンという右岸のスター産地に挟まれている産地で、ワインの性質もよく似ています。ただ比較的早飲みタイプで、価格も抑えられていることからコストパフォーマンスの良い産地と言えるでしょう。
ポムロルが肥大化した需要に耐え切れず、著しい高騰を続けている現実を鑑みれば、今後値上がりするかもしれない、との声も聞かれます。
認定タイプ:赤のみ
有名シャトー:シャトー・シオラック
サン・テミリオン
質・量ともに右岸のスター産地サン・テミリオン。
ドルドーニュ川の右岸に位置し、1999年には街並みが世界遺産に登録されています。
土壌は大別してコート地区とグラーヴ地区とありますが、両方でトップ・シャトーが存在するため、そこに決定的な有意差はないようです。
メドックの男性的なワインとは趣が異なり、優雅で芳醇、柔らかさを感じられる、女性的なワインと表現されます。
このAOCで厄介なのが、10年に一度変更があり、そのたびに物議をかもす格付制度とAOCサン・テミリオン・グラン・クリュの存在でしょう。格付のごたごたに関しては別途調べてもらうとして、グラン・クリュについて説明します。
ざっくりと説明すれば、生産地は同じで規定が厳しくなるというものです。なので品質は高い傾向にあります。価格も、ですが。
格付シャトーに入るためには、AOCサン・テミリオン・グラン・クリュでなくてはならないという条項がある、という階段方式。だから格付シャトーじゃないAOCサン・テミリオン・グラン・クリュが存在します。
なまじグラン・クリュの意味を知っていると勘違いしやすいところですね。
認定タイプ:赤のみ
有名シャトー:シャトー・アンジェリュス シャトーオーゾンヌ(ともに特別第一級A)
サン・テミリオン衛星地区
サン・テミリオンの周辺に位置する、サン・ジョルジュ、モンターニュ、リュサック、ピュイスガンの4AOCです。
それぞれ、名前の後部に「サン・テミリオン」を付けられます。
いずれのAOCも、柔らかく芳醇なサン・テミリオンと似たワインを作る産地ながら、価格は抑えられていますが、同じAOC内でも品質にはややばらつきがあるのではないか、という印象を持っています。
ほとんどがフランス国内で消費されてしまうため、輸出量が20%と極端に少なく、日本でもあまり見かけることの少ない産地でもあります。
認定タイプ:赤のみ
右岸 コート地区
右岸というくくりの中でもっとも複雑で理解しづらいコート地区。もしかしたらボルドーでも屈指の難解産地かもしれません。
その理由は、成り立ちと飛び地。成り立ちとしては2009年にそれぞれ別のAOCを名乗っていた4村がコート・ド・ボルドーに統合。それぞれの規定を満たした場合、各地区の名称を付記出来るようになりました。
狙いとしてはボルドーの名前を使って輸出強化する、というものですが、なにせ場所がばらばら。ジロンド河とガロンヌ河とドルドーニュ河すべての右岸に飛び地しているのです。ですからたまにあまりにも乱暴な統合では?という声もちらほら。
白はあまり見かけませんが、赤白両方作れる産地が多く、そういう点では少し異彩を放っているかもしれません。
ブライ
右岸で最も河口に近い産地ブライ。
前出した「コート・ド・ボルドー」制によりAOCの名前はブライ・コート・ド・ボルドーがよく見られます。
元の名前は「プルミエール・コート・ド・ブライ」なので2009年以降はこちらの名前でラベル表記されています。
ここで紛らわしいのが、一部コート・ド・ボルドーに統合されなかった地域というのがあって、赤ワインが作れるAOCブライと白ワインが作れるAOCコート・ド・ブライが残っています。ただ2020年の収穫までしか名乗れないため、今後目にする機会は減るでしょう。
味わいとしては、赤ワインは力強くフルーティで、ものによっては熟成能力も持ち合わせています。白ワインは辛口のすっきりとした味わいが特徴です。
認定タイプ:赤白
有名シャトー:シャトー・ブルデュー
コート・ド・ブール
ブライに隣接するコート・ド・ブール。
当初コート・ド・ボルドー構想に参加していましたが、途中で離脱。独自のAOCを守っています。
土壌が多岐にわたるため、フルーティなタイプからスパイシーなタイプまで千差万別。作付け面積で見れば、マルベックがほかの地域よりも多いのが特徴です。
これと言って有名生産者がいない地域ですが、逆にとらえれば掘り出し物の多い産地。基本的にフレンドリーなタイプですが、たまにうまく熟成した古酒を発見することがあります。
認定タイプ:赤白
カディヤック
上ふたつとは違い、ガロンヌ河の右岸に位置するカディヤック。つまり左岸編に出てきたアントル・ドゥ・メールに隣接しています。
AOCとしてはカディヤック・コート・ド・ボルドー。旧名はプルミエール・コート・ド・ボルドー。
ワインの性質としては様々な資料を参照するに、一貫した性質がないように思われます。力強さが身上、という記述もあればフルーティでしなやか、という記述もあり、何とも言えないところです。個人的には力強い印象です。
他のコート地区と同じく、特筆して有名な生産者がいない地域。
日本でもそれほど見かけることが多くないため、出会ったときに飲んでみるのも面白いでしょう。
認定タイプ:赤のみ
カスティヨン
コート・ド・ボルドーの中でも、頭一つ抜けて知名度が高いカスティヨン。
サン・テミリオンに隣接した、ドルドーニュ河の右岸に位置しています。
旧名はコート・ド・カスティヨンで、この名前を名乗っていた時から、良質なワインを作る産地として有名でした。
サン・テミリオンの生産者がテロワールに目を付けて、カスティヨンに進出する、といったことが近年増えてきているので、今後もより知名度が上がっていくことでしょう。
ワインの性質としてはサン・テミリオンに近く、柔らかさもありながらフルボディで長期熟成能力も持つタイプを多く作っています。
認定タイプ:赤のみ
有名シャトー:シャトー・カップ・ド・フォージェール シャトーデギュイユ プピーユ
フラン
コート・ド・ボルドー最小地域で、カスティヨンの北、ドルドーニュ河からはだいぶ離れた地域のフラン。岸に接していないので右岸じゃないんですけど、同じコート地区なので許してください。
旧名はボルドー・コート・ド・フランで、ブライの認定地域のおよそ15分の1ほどの面積しかありません。
ワインの方向性としてはカスティヨンと同じで、パワフルでフルボディ。
実は白ワインを作れますが、その面積がわずか7ヘクタール、東京ドーム1.5個分。正直目にしたことは、ほとんどありません。
認定タイプ:赤白
有名シャトー:シャトーピュイゲロー シャトー・ド・フラン
終わりに
今回は右岸のボルドー産地を解説してきました。
かなり複雑なうえ、日本では馴染みのない産地も多く覚えづらいですが、珍しい産地に出会ったとき思い出してくれたら、幸いです。
最後に左岸とその他産地のリンクをつなげておきますので、良かったら見てみてください。
左岸とその他の産地編はこちら!