フランス・ロワール地方原産のシュナン・ブラン(chenin blanc)は白ワイン用のブドウ品種で、フランスを始め世界各国で栽培されています。
作り手や栽培地域により、まったく違った個性を楽しめるブドウ品種でもあり、白ワイン、スパークリングワイン、甘口ワインなどに幅広く使われています。
シュナン・ブランの歴史
シュナン・ブランは9世紀頃にはフランスのアンジュ―地方で栽培されていて、当時はシェレネと呼ばれる品種でした。15世紀にロワール地方のトゥーレ―ヌ地区に広まった頃に、この品種はシュナン・ブランと呼ばれるようになります。
16世紀のフランスの作家・フランソワ・ラブレーは「ガルガンチュアとパンタグリュエル」のなかで、シュナン・ブランとされるアンジューの白ワインについて記していて、当時すでにシュナン・ブランはロワールではポピュラーなブドウ品種だったことがうかがえます。
その後、シュナン・ブランは南アフリカでも栽培されるようになりますが、これにはオランダの東インド会社がケープコロニーをオランダ艦船の停留地とした後の1655年に、艦船の司令官だったヤン・ファン・リーヴェックがそこで栽培を始めたという説と、1685年にルイ14世がナント勅令を廃止した際、迫害を受け国外に逃れたユグノーの人々（キリスト教プロテスタントのカルヴァン派）が南アフリカに持ち込んだという説があります。
現在、この南アフリカで世界中のシュナンブランの3分の２が栽培されていて、現地ではスティーンという名前でよばれています。
約18000haの栽培面積は近年では減少傾向にありますが、そのことが逆に南アフリカでのシュナン・ブランの品質の向上をもたらしています。
地域によって違った個性
ピノ・ド・ラ・ロワールとも呼ばれるシュナン・ブランは、他の白ワイン品種であるシャルドネやリースリングと比べると、香りや風味が繊細さに欠ける印象ですが、このブドウが持つ強い酸やミネラルはオーガニック栽培との相性が良く、ロワールではこの品種を使い、優れたオーガニックワインを生み出している醸造家が増えています。
また、シュナンブランはテロワールの特徴を反映しやすく、おもに砂質の土壌では軽い口当たりのワインを産出し、シリカの多い土壌ではミネラル感が豊富に、石灰質の土壌ではシャープな酸を感じるワインになります。
栽培地域によってスタイルの違うワインになるオールマイティなシュナン・ブランは、他の品種とのブレンドにも使われますが、単一種として用いられると特に個性の違いがわかります。
例えばAOCヴーヴレイの石灰質粘土土壌で育ったシュナン・ブランは、はちみつのような濃厚な香りを持つ、バランスが良くまろやかな白ワインとなっています。
このブドウを12か月以上熟成しシャンパーニュと同じ製法で作られているスパークリングワインは、軽やかな味わいとふくよかな香りを楽しめます。
アンジュ―市の西にあるAOCサヴ二エールのシュナン・ブランは、陽当たりの良い斜面に栽培されることから、ブドウが良く熟し、しっかりとしたボディのワインになります。
アンジュー地区の中でも最も広いAOCコトー・デュ・レイヨンは、ロワールの3大貴腐ワインの生産地のひとつで、結晶片岩の土壌と、周囲に多くあるレイヨン川の支流が良質のシュナン・ブランを育み、ソーテルヌに劣らないといわれる貴腐ワインと、遅摘みの甘口ワインが生産されています。
南アフリカのシュナン・ブラン
2017年に「南アフリカのシュナン・ブランは世界を震撼させる」とコメントしたのは、当時ワインアドヴォケイド誌に執筆していたニール・マーティン氏です。現在はワインwebサイト「ヴィナス」のレヴュアーで、世界的なワイン評論家である彼が絶賛するほど、南アフリカのシュナン・ブランは高い品質を誇っているのです。
1600年代に南アフリカに根付いたシュナンブランは、アメリカ、ニュージーランド、アルゼンチン、カナダなどでも栽培されていますが、南アフリカのシュナン・ブラン栽培面積は世界一で、その品質もまさに「世界を震撼させる」ほどまで向上しています。
南アフリカでシュナン・ブランを栽培している代表的な醸造家ケン・フォレスター氏も、シュナン・ブランは「アフリカの国宝」と評していて、南アフリカには無くてはならない品種となっているのです。
この南アフリカでのシュナン・ブランのおもな産地は西ケープ州のコースタル地域で、多くのワイナリーがあるスワートランド、赤・白とも高品質のワインを産出しているステレンボッシュ、暖かな山の斜面を含むパールの各地区です。
中でもステレンボッシュは南アフリカのワイン産業にとっては中心となる地区で、新品種の開発を行うニートフルベイ研究所をはじめ、ワインに関する教育・研究機関が多く、醸造学や栽培学を学べるステレンボッシュ大学は、優秀な醸造家を何人も輩出しています。
こうした環境も良質なシュナン・ブランを生み出し続ける大きな要因になっているといえるでしょう。
