世界が認める日本固有ブドウ品種、甲州の魅力を再発見!

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日本を代表する固有ブドウ品種「甲州」

いまでは世界的に認められたブドウ品種となり、日本のワイン愛好家のみならず、世界中から注目を浴びています。

そんな甲州がブドウ研究者の情熱やワイン愛好家の熱意、そして生産者の優れた技術によって、さらなる進化を遂げています。

今回はその「甲州」の魅力を再発見していきたいと思います。

甲州とは?

日本固有のブドウ品種と言われても何が何だかわからない、というかたもいらっしゃると思います。なのでまずは甲州ってどんなブドウなの?というところから話を始めていきたいと思います。

甲州の特徴

甲州はグリ系品種と呼ばれ、国際品種でいえばピノ・グリージョに代表されるブドウ品種。ピノ・グリージョは、フランスのアルザス地方やドイツでは厚みのあるフルボディなワインに仕立てられ、イタリアのフリウリやニューワールドでは酸味を残して爽やかなスタイルに仕上げられます。

グリ(フランス語で灰色)系品種は果皮が藤色やピンクなど、白ブドウでもなく、黒ブドウでもない色合いをしています。ピノ・グリージョと甲州は同じグリ系品種ですが、似通った部分と全く違う部分があり、ワインで言うとどちらかといえば、酸味を残して爽やかなスタイルに仕立てられることが多いですね。

そして日本で主に育てられている食用ブドウはヴィティス・ラブルスカ種に属し、あまりワインには向かないとされていますが、この甲州はヴィティス・ヴィニフェラ種に、中国の野生種のDNAが混じっていることが分かっています。

つまり世界中でワインに使われている、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・グリージョと同じ、ヴィティス・ヴィニフェラ種に属しているのです。

また甲州は他の白ブドウ品種に比べて果皮がやや厚く、糖度が上がりにくい品種とされています。そこは糖度が上がりやすいピノ・グリージョと、決定的に違うところです。そのために生産者は昔から補糖や、収穫時期を遅らせたり栽培の工夫をしたりして、ワインを仕上げてきました。

味わいの特徴は、さまざまな仕立てられ方をしているので、ワインによって違うというのが正直なところなのですが、わずかな苦みとおとなしめの酸が一般的な特徴とされます。またよい畑でよく熟した甲州は、柑橘系の豊かな香りがするものも見受けられます。

甲州の歴史

甲州の栽培の始まりについてはふたつの説があり、718年に僧行基が広めたという説と、1186年に雨宮勘解由が広めた説があります。いずれにしても1000年近い栽培の歴史をもつ、れっきとした日本固有品種です。

ヨーロッパにルーツを持つヴィニフェラ種でありながら、交配を繰り返し日本にたどり着き、しかもなぜか当時の都からも港からも遠い、勝沼の地に根付くようになったのか、それに対して明確な答えは今のところありません。

そんな謎の歴史を持つ甲州でのワイン生産が始まったのは明治時代。日本でのワイン生産のパイオニア、山田宥教(ひろのり)と詫間憲久(のりひさ)の両名が清酒の技術を応用し、初めてのワイン醸造に成功したのです。

その歴史のターニングポイントからおよそ100年。1960~80年代高度経済成長期に沸いた日本は、ワインの生産と消費が拡大し始め、各地で地域振興や町おこしを目的としたワイナリーが設立され始める反面、貿易自由化によりバルクワインや濃縮果汁の輸入が激増。ワイン生産の設備産業化が加速していきます。

その後1998年にワインブームはピークを迎え、その前後にワイン用のヴィニフェラ種の本格的な栽培が開始。2000年代には、80年代の設備産業化へのカウンターカルチャー的に、ワイナリーのドメーヌ化が活発に。2018年には日本版AOCのさきがけともいえる「日本ワイン」の法律が施行されます。

その間ずっと日本ワイン界の中心にあった甲州は、2010年についにO.I.V.(国際ぶどう・ブドウ品種機構)のリストに品種として掲載されました。これによりEUへの輸出の際品種名の記載が許されるようになりました。日本固有のブドウ品種が、ついに世界に羽ばたいた瞬間です。

甲州の栽培

甲州と言えば山梨、山梨と言えば甲州。といえるほど甲州と山梨は深い関係があります。畑面積、収穫量ともに全国1位を誇りますが、約90%が山梨県で仕込まれています。他には山形県、島根県、大阪府、長野県でも栽培されているようです。

山梨の中でも甲府盆地東部の勝沼付近は、昼夜の気温差が激しく雨が少ない、ワイン用ブドウの生産に優れていると言えます。最近ではより冷涼な気候を求め、山の斜面で甲州を造るというような動きも見られ、世界的なクール・クライメットブームと足並みをそろえているようでもあります。

栽培は主に棚仕立てで、山梨のワイナリーなんかに出かけるとよく見られる光景です。以前、勝沼の某ワイナリーに甲州で垣根仕立てはしていますか?と聞いてみたことがあります。欧州で主流となっている栽培方法の垣根仕立ては、栽培や収穫、品質に関して、ワイン用ブドウ品種に適していると言われます。

答えはNO。よく言われるように、日本は高温多湿というハンディな気候条件に加え、甲州は樹勢が強く、しかも横に蔓が伸びてしまう性質を持つので難しい、とのこと。

試験的に垣根栽培を導入しているワイナリーもあり、それぞれのワイナリーで様々な成功例が出てきてはいますが、まだまだ棚栽培が主流の時代が続きそうです。

ちなみに2003年に、甲州をドイツのラインガウ地区に500本移植しているワイナリーもあります。しかもグラン・クリュ(!)に認定されている地区。しかし2005年にブドウ樹のEUへの持ち込みは禁止されてしまったため、唯一無二の国外に植えられている甲州になるようです。

甲州の研究

日本固有のブドウ品種である甲州は、様々な企業、機関、人物が多種多様な側面から、研究を続けてきました。その中でもチオール化合物(3MH)の発見は、甲州という土着品種を国際的なワインとして飛躍させるにあたって、重要な発見と言えるでしょう。

この3MHはソーヴィニヨン・ブラン種に含まれ、パッションフルーツやグレープフルーツのような香りを放ち、白ブドウのみならず、黒ブドウにも含まれています。

甲州にはこの3MHというチオール化合物が含まれており、この量をコントロールすることで、醸造時の香気成分をコントロールすることができ、より香りの強いワインを造ることができます。

そして銅イオンと結合しやすい3MHを残すため、硫酸銅を含むボルドー液の散布を制限、また深夜から早朝にかけて、この3MHを生み出す物質が増加する事から、夜間収穫を行うなど、栽培時から3MHを残す栽培を施します

もちろんどんなワインにおいても、土壌の影響の方が強いことは確かなので、この栽培をすれば間違いないか、と言えばそうではないらしいのですが、良い畑から採れたブドウはパッションフルーツやグレープフルーツのほかに、かぼすやすだちなど和柑橘のような香りを感じることがあります。

これは甲州独特の香りと認識され、和食が世界的に流行している今、甲州人気の一因ともいえます。

ワインのスタイル

そのまま何もせずともワインは造れるのですが、甲州はひと手間加えないと個性のないワインになりがちです。そのため各ワイナリーは研究者と協力したり、実験的な仕込みを繰り返して、様々な製法に取り組んで日々、甲州ワインの品質を上げようと努力しています。

その様々な製法の中で、比較的目にする機会の多い製法を紹介していきます。

シュール・リー

フランス・ロワール地方で採用されている製法で、よく目にするのはミュスカデに施されているパターン。シュール・リーと言わないだけで、シャンパーニュや他の地方のワインでも採用されている場合があります。

発酵後、滓引きせずに発酵槽に放置して年を越させたうえで、4~5月ごろにワインの上澄みだけを取り出し瓶詰を行う製法で、これを行うことで旨味もありながら若々しく、爽やかでフルーティなワインになります。

今現在、辛口の甲州ワインの主流となっていますが、この甲州におけるシュール・リー製法を確立したのが、業界大手のメルシャン。そして驚くべきことにメルシャンはこのノウハウをワイン業界全体のために、他のワイナリーに公開したのです。

この出来事によって「個性のないブドウ」と呼ばれていた甲州のワインは厚みを持つようになり、いままで甘口が主流だった甲州が辛口ワインを造るブドウ品種として、頭角を現すようになりました。

樽の利用

木樽を利用して発酵させることや、小樽で熟成させることも甲州のワインを造るにあたって採用されることがあります。ブドウ品種との相性にもよりますが、世界中でワインに採用されている製法です。

この樽発酵や樽熟成は上記のシュール・リーと同じく、香りや旨味の足りない、甲州のそれらの成分を足そうとして採用されている製法で、樽由来のバニラ香やナッツ香、まろやかさや複雑味を生みます。

この製法には賛否両論あり、甲州の本来の香りが失われる可能性がある、といって使わない生産者も居れば、樽を使うことで甲州本来の香りも引き立てられる、として積極的に使う生産者も居ます。

凍結濃縮

この製法を使っているワイナリーはあまり聞きません。なぜなら設備も人手も時間もかかるうえ、お金もかかってしまうからです。それでもこの製法を採用するのは甲州の様々な成分を濃縮し、よりよいワインを造ろうとする熱意があるからです。

ざっくりと説明すると、絞った果汁をゆっくりと冷やしていくことで、水分を先に凍結させ、残った果汁部分でワインを仕立てます。ジュースを冷凍させて解凍しながら飲むと、甘い部分が先に飲めるようになるのと(逆ですが)同じような原理です。

モノにもよりますが、某勝沼のワイナリーではこの製法を使うと、ワイン2本分のブドウで1本分のワインが出来上がる、という話を昔聞いたことがあります。もちろん価格的には高い1本にはなるのですが、甲州の特徴を持ちながら並外れた凝縮感を持っている、不思議なワインに感動を覚えました。

スキンコンタクト

他のブドウに比べて、果皮が厚く色素のある甲州は、果皮の部分にワインに影響する色素成分や、ポリフェノール類が多く含まれています。そのため果皮と果汁の接触時間を長くすることによって、様々な成分を抽出することができます。

ちなみに第4のワイン、と言われるオレンジワインはこの方法で造られます。白ワインでもなければ赤ワインでもない、独特の味わいや色合いは果皮からの抽出によるものです。ただ甲州の場合、そこまで長くスキンコンタクトを施すものは多くない為、オレンジワインの分類に入るかと言われれば、微妙なところですね。

こんなにオレンジワインが世間で騒がれる前、某勝沼のワイナリーでスキンコンタクトのワインと出会ったことがあります。

当時まだオレンジワインという言葉があまりメジャーじゃなかったため、不思議なワインだなあ、という感想しか持ちませんでしたが、今思えば海外でオレンジワインが流行り始めた、と言われる時期と合致します。流行を先読みできる天才はどの業界にもいるものなのでしょう。

おススメの甲州ワイン

ここからはタイプ別におススメの甲州ワインを紹介していきます。このほかにもワイナリーごとに特色のあるワインを造っているので、気になった方はもっと調べてみて下さいね!

ロリアン 勝沼甲州 白百合醸造 白

80年以上もの間、勝沼の地でワインを造り続けている白百合醸造のフラッグシップが、この勝沼甲州。甲州と言えば!といわれる勝沼町産のブドウのみを使用し、シュール・リー製法を採用。辛口ながら旨味やコクが残り、和食との相性はバツグン。マンガ「美味しんぼ」や「神の雫」に掲載された、これぞ甲州!という1本です。

甲州樽発酵 白百合醸造 白

こちらの甲州は小樽での発酵後、シュール・リーを施したワンランク上の甲州ワイン。樽のニュアンスが強すぎることなく、しっかりと柑橘系の香りを残すバランス感覚には脱帽。さすが老舗ワイナリーといったところでしょうか。白桃のような甘やかな果実味とナッツのような風味の調和も魅力です。

重畳 ちょうじょう 甲州 大和葡萄酒 白

重畳とは幾重にも重なるという意味を持っており、大和葡萄酒と甲州の長い歴史と長年の研究が重なり合った結晶という意味が込められています。樽熟成を施し、ほのかなオークの香りと程よい酸味のバランスが心地よく仕上がっています。日本ワインのコンクール受賞作品です。

KAMOSHI カモシ 甲州醸し仕込み 大和葡萄酒 白

スキンコンタクトを施した甲州のオレンジワイン。甲州を長年研究し続け、もはやスペシャリストの領域に至った大和葡萄酒が、甲州のフレッシュさや柔らかさは壊さずに作り上げた珠玉の1本。大和葡萄酒の確かな腕と甲州のポテンシャルが高い次元で結びつき、新たな甲州ワインの扉を開こうとしています。

甲州 Vigne de Nakagawa 白百合醸造 白

ブドウを作りたくてたまらず、リタイア後に栽培家となった中川さんの畑で取れた甲州で作ったワイン。いわゆるシングルヴィンヤードと呼ばれるワインで、土壌由来の柑橘系の香りが顕著。先に説明した3MHの働きが強く出ている畑のようです。海外でも高く評価され、過去ヴィンテージでデキャンタ・ワールド・ワイン・アワードでゴールドメダルを受賞しています!

最後に

ここまで甲州の新たな魅力を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?ここ数年、世界的な和食ブームとともに海外で人気が出始めている、と言われる甲州ワイン。

様々な人々の熱意でここまでのし上がってきた甲州は、また新たな局面を迎えているといっても過言ではありません。

この機会に日本が世界に誇れる甲州ワイン。家飲みでも、お近くの方はワイナリーに出向いて、試してみてはいかがでしょうか?

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