皆さんは、貴腐ワインを飲んだことはありますか?
普通のワインとは違い、渋みはなく、まるでデザートのように甘い貴腐ワイン。ハチミツや熟したドライフルーツ、アプリコットを思わせる、芳醇で豊かな香りを持ち、体の芯からとろける様な甘さは昔からファンを引き付けてやみません。
酸や渋みが強いからワインはあまり飲めないという方でも非常に親しみやすく、料理に合わせても最高なのが貴腐ワインです。
もしくは食後に少しずつ嗜みながら、極上の時間をゆったりと過ごすのもオシャレですよね。もし、あなたがまだ貴腐ワインが未経験なのであれば、この機会に是非飲んで頂きたいものです。
そこで今回は、偶然に生まれた歴史を持ち、そして今では世界中に愛される貴腐ワインの世界を、おススメ貴腐ワインと併せてご紹介したいと思います!
そもそも貴腐ワインって?
非常に甘く、デザートワインとも呼ばれる貴腐ワイン。熟成したものは黄金色に輝き、とても高貴な光を放ちます。
「貴腐」とは「高貴なる腐敗」という意味をもち、通常の甘口ワインとは作られ方から味わいまで、一線を画す存在です。
なぜ、普通のワインとは違い、甘いワインが出来るのかというと、単純に言えば限界まで糖度を高めたブドウを使って造られるからなんです。
一般的に言われる甘口ワインでは、収穫したブドウを陰干しして糖度を高める方法(イタリアのパッシートが有名ですね)や、ただ単に収穫時期を遅らせて実が凝縮してから収穫する方法があります。
さらには冬の寒さを利用し、凍って甘味が最大に達した状態で収穫し造られるアイスワイン(カナダやドイツが有名です)などがありますが、貴腐ワインと呼ばれるものは「貴腐菌」というものを使って生まれるものに限定されます。
また、ただ単にワインに糖分を添加すればいいのではと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、貴腐ワインに代表される甘口ワインは、甘さと酸の絶妙なバランスがポイントになります。単純に糖分を添加するだけでは、ただ甘ったるいだけのワインになってしまうのです。
本当はいい奴?貴腐ワインと貴腐菌
では、限界までブドウの糖度を高めるにはどうすればいいのでしょうか?
そこで前述で登場した「貴腐菌」が利用されます。
その名も「ボトリティス・シネレア菌」。
ある一定条件の自然環境の下で繁殖するカビの一種で、これがブドウに付着することで、貴腐菌から糸状の菌糸がブドウの皮を破って中に入り込みます。そうすることでブドウに小さな穴が開き、そこから果汁に含まれる水分が蒸発します。木に付いたまま果実はしおれ、果汁の成分がギュッと凝縮された甘味を持つ貴腐ブドウが出来上がるのです。
果汁の水分が減るということは、一房のブドウから取れる果汁は通常のワインよりも非常に少なくなります。そうなると自然と生産量も減ってしまいますよね。
あのシャトー・ディケムでは、なんと1本のブドウ樹からグラス1杯分しか造らないと言われています!非常に高価になってしまうのも納得と言えるでしょう。
また実はこの菌、通常ではブドウをただ単に腐らせる菌です。灰色カビ病という、ブドウ農家の頭を悩ませるやっかいな病気を生んでしまうのです。
しかし、ある条件下ではそれが貴腐ワインを生み出す原動力となります。その条件というのが、「夏の晴天が多く、朝もやが発生し、午後には晴れ、適切な湿度が保たれている」ということです。
この条件、後述のあの有名な場所で登場しますので、覚えておいて下さいね。
貴腐ワインが生まれる場所は、水温の違う川の合流地点などの霧が発生しやすい場所や、昼は暖かく夜は寒いといった、昼夜の寒暖差がある場所が非常に多いのです。
時には悪さをし、時には非常にいい働きをする、なんともツンデレな菌です。
貴腐ワインは偶然生まれた!?
そんな貴腐ワインですが、一体いかにして生まれたのか、諸説ある歴史を紐解いてみましょう。
遡ること17世紀、現在の貴腐ワイン産地であるハンガリーのトカイ地方では、当時大国であったオスマン帝国の襲来を受け、一時的にブドウ農家が非難をし、ブドウの収穫が遅れてしまいました。しかし、捨てるのはもったいないと、収穫期の遅れたブドウを使ってワインを仕込んだところ、非常に甘いワインが出来上がったとされています。恐らく、ブドウに貴腐菌が付着していたのでしょう。
また。ドイツでは、ブドウの収穫が許可制だった18世紀、国からの許可がトラブルで農家に届かずにブドウの収穫が遅れ、ブドウが貴腐化してしまいました。農家の方はもったいないと思ったのでしょうか、一見腐ってしまったブドウを仕込んでワインをつくったところ、非常に甘美なワインが出来上がったと言われています。
諸説はありますが、始まりは全くの偶然であったというのが大まかな見解となっています。
しかし今、私たちの身近に貴腐ワインがあるのは偶然ではなく、その後に菌を上手に活用して栽培技術や醸造技術を発達させた先人たちの歴史が、今の極上貴腐ワインを生んでいるといえるのではないでしょうか。
世界三大貴腐ワイン産地
ハンガリー トカイ地方
ハンガリーは、東欧圏では非常に古いワイン造りの歴史を持つ国で、1000年以上にわたって世界屈指のワイン大国として知られてきました。特にトカイ地方で造られる貴腐ワインは、世界的に非常に高い評価を得ており、かつてのフランス王ルイ14世はトカイの貴腐ワインを、「王のワインであり、ワインの王である」と称賛したと言われています。
トカイ・ワインの品質区分において、トカイ・アス―は世界三大貴腐ワインとして非常に有名です。また、トカイワイン中でも「エッセンシア」は世界で唯一、貴腐ブドウ100%で造られる貴腐ワインです。
残糖度が非常に高いため、一気に飲むと血糖値が急激に上昇し体に良くないことから、専用の匙などで一口だけ飲むことが推奨される程です!
ドイツ ライン川周辺
近年、辛口ワインが非常に評価を上げているドイツワインですが、かつては甘口ワインが非常に多く作られていました。現在は、「プレディカーツヴァイン」と呼ばれる原産地呼称が保護された法律があり、最低果汁糖度により6段階に分類されます。
その中で、最上級に位置するのが、「トロッケンベーレンアウスレーゼ」。貴腐ブドウで造られる、世界三大貴腐ワインと呼ばれる一つです。
フランス ソーテルヌ地方
貴腐ワインを語る上で絶対に外すことの出来ない産地がソーテルヌです。言わずと知れた、あのディケムがシャトーを構え、長期熟成にも耐えうる世界一の貴腐ワインを生み出します。パーカー氏によると、飲み頃は10〜100年は持つとされ、その熟成ポテンシャルは計り知れないものがあります。
ソーテルヌ地区があるのはボルドーの内陸側、ガロンヌ川とシロン川の支流に位置します。そう、川です。水温の違う二つの川が合流する地点にあるソーテルヌでは、朝靄が発生し、午後には太陽で畑が温まる、先ほど述べたような貴腐ワイン作りには最適の環境が整っているのです。さらに、主要品種のソーヴィニョンブランとセミヨンは果皮が薄く、貴腐菌が入り込み易いという利点も重なりました。
ヴィンテージ物の中には、オークションで1本数千万の価値がつくこともありますが、ソーテルヌで生まれるのはディケムのような、飛び抜けて高価な貴腐ワインだけではありません!
数千円で手に入る物もありますので是非一度試してみて下さい。後ほど、ご紹介します。
貴腐ワインの美味しい楽しみ方♪
貴腐ワインに初めて触れるのであれば、一体どうやって楽しめば良いのか疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
冷やして飲むのが良いの?それとも常温で?
グラスは大ぶりが良いの?合わせる料理は何がおすすめ?
ずばり、その疑問にお応えいたします。
貴腐ワインのベストな温度って?
貴腐ワインを美味しく楽しむ為の最適な温度。正解は良く冷やして飲むことです。イメージの通り、貴腐ワインは非常に甘いです。よく冷やすことで、貴腐ワイン特有の甘さをすっきりと楽しむことができます。
具体的には、4〜6℃がベストと言われていますが、冷蔵庫で4~5時間程冷やせばきっと美味しく楽しめることでしょう。
さらには、飲みながら少しづつ温度が上がって、蜜のような甘い香りが開いてくるのを楽しむのもまた素敵ですね!
貴腐ワインに最適なグラスは?
貴腐ワインに合わせるグラスは、小ぶりの物をおすすめします。
出来れば白ワイングラスよりもさらに小さい、デザートワイン用のグラスがあれば最高ですが、ない場合シャンパングラスでも楽しめますよ。ポイントは、少量をチビチビとです。少しずつ、甘美な世界に酔いしれてみてください。
貴腐ワイン×料理のマリアージュ!
貴腐ワイン単体で楽しむのも良いですが、せっかくならそれに合う料理でマリアージュしてみたいもの。食後に楽しむのであれば、甘いチョコレートやバニラアイス、少し塩気のあるブルーチーズなどは相性ピッタリです!
食中に楽しむのであれば、フォアグラのソテーが王道と言われています。フォアグラのまったりとした口溶けに、トロッとした貴腐ワインのマリアージュは最高です。ソースはマルサラ酒やマディラ酒などの甘口のお酒をベースにしたものがおすすめです。
ですが、フォアグラなどは普段なかなか手に入らない高級食材。そこで筆者のおすすめは、牡蠣料理です。
塩気のある牡蠣と甘口の貴腐ワイン、あまりイメージ出来ない方もいるかもしれませんが、フランスでは昔から貴族の中で「生牡蠣×貴腐ワイン」が楽しまれていた程。程よい塩気があるクリーミーな牡蠣と甘口の貴腐ワインが非常によく合います。
生牡蠣でもよし、バターソテーや牡蠣グラタンなど、是非、皆様も試してみてください!
世界のおすすめ貴腐ワイン10選!
それではお待たせ致しました。ここまで読んでくださった皆様は、すでに貴腐ワイン通の仲間入りです。あとは飲むだけ・・・。ということで、世界のおすすめ貴腐ワイン10選をご紹介致します!
先ほど述べたように、実は非常にお手頃で手に入る貴腐ワインも沢山あるんですよ!
貴腐ワインの入り口にどうぞ!気軽に楽しむ一本
ソーテルヌ ソー ハーフサイズ シャトー・バストール・ラモンターニュSO / Chateau Bastor Lamontagne
「ソー ソーテルヌ」は、18世紀から続く由緒正しいシャトー。「少し敷居の高いソーテルヌを、もっと気軽に楽しんでほしい!」 というコンセプトで作られた貴腐ワインです。シャトーが保有する畑は、あのシャトー・ディケムと地続きの、格付け一級シャトー・スデュイローのすぐ南に位置します。近年のヴィンテージでも、パーカポイントは常に90ポイントを獲得するなど、当時と変わらずに安定した高い品質でとっても親しみやすいお手頃貴腐ワインです。貴腐ワインの入り口にはピッタリなお買い得貴腐ワインです。
気品あふれるお手頃ソーテルヌ!贈り物にいかが?
シャトー・ヴィオレ・ラモット / Chateau Violet Lamothe
シャトー・ヴィオレ・ラモットは、ソーテルヌ地区プレニャックに位置する、シャトー・ラリボットのセカンドラベルで、フランス革命の時代から6世代続くライトー家が造る貴腐ワインです。全て手摘みにて収穫。多いときは6度にも渡る繰り返しによって丁寧に収穫されています。熟成はステンレスタンクにて行いピュアさを引き出しています。華やかで豊かなフルーティさと優雅な甘みが広がる、気品ある貴腐ワインです。
有名かつ実力も伴うトップシャトーに隣接!
クレール・ド・リュヌ 500ml / Clair de Lune
シャトー・オー・ブリオンやラ・ミッション・オー・ブリオンなどと肩を並べ、ペサック・レオニャンで3本の指に入る、と言われる超一流生産者ドメーヌ・ド・シュバリエ。そんなドメーヌ・ド・シュバリエがソーテルヌで手掛ける一大プロジェクトの結晶として生まれたのが、 クロ・デ・リュヌ です。なんと、ギロー、ディケム、ダルシュに囲まれた立地に立つシャトーで、ディケムの10分の一以下の値段で買えちゃいます。いい畑、いいブドウ、いい作り手の3拍子揃った極上ソーテルヌをご堪能下さい!
18年以上熟成されたソーテルヌ をフルボトルで贅沢に!
このソーテルヌの造り手「シャトー・ペイロン」は、ソーテルヌ地区の中心イケムの丘の東側にあるフォルグ村で、名門ナドル家が6世代に渡りその伝統を守り続けている、長い歴史を誇るシャトーです。 このシャトー・ペイロン、格付けこそありませんが、ブラインドテイスティングであのシャトー・ディケムと間違えられることもある、ソーテルヌ格付け1級のシャトー・ド・ファルグのすぐ南に隣接するという好立地に存在します。18年以上の熟成を経た貴腐ワインを、フルボトルでご用意いたしました。
20年以上の熟成!ドイツの甘さ格付け最上級
ベヒトハイマー・ステイン・フクセルレーベ TBA 375ml / G&M マハマー
G&Mマハマーは、ドイツ ラインヘッセンの銘醸地ベヒトハイム村でブドウを栽培する貴腐ワインの生産者です。 所有する約25haのブドウ畑は、ベヒトハイム村の最も良い地域に位置しています。 収穫は厳しい選定を行い、全て自らの手による長い伝統に基づいた醸造を貫き、国内外で非常に高い評価を得ている生産者です。20年以上熟成した貴腐ワイン「トロッケンベーレンアウスレーゼ」が生み出す極上の甘さを是非お楽しみ下さい。
あのディケムに勝ったオーストラリア貴腐ワイン!
ノーブル・ワン ハーフ 375ml デ・ボルトリ / Noble One Half De Bortoli
様々な生産地から高品質なワインを作り出す、オーストラリアを代表するワインメーカー「デ・ボルトリ」そんな一流生産者が、ニュー・サウス・ウェールズのセミヨン100%で作る貴腐ワインが、このノーブル・ワンです。世界最高のデザートワインを選ぶブラインド試飲会において、あの「シャトー・ディケム」にも勝った実績を持つこの極上の逸品は、ローマ法王のオーストラリア訪問の献上品や、スウェーデン王室の結婚式にも使われるなど、世界中で高い評価を受けています。
ソーテルヌ だけじゃない、ロワール名門の貴腐ワイン!
ボンヌゾー ハーフ375mlシャトー・ド・フェル Bonnezeaux / Chateau de Fesles
フランスの貴腐ワイン産地は、ソーテルヌ だけではありません。実はロワール地方にも、貴腐ワインの銘醸地があります。それがボンヌゾー。そこで最古のドメーヌのひとつシャトー・ド・フェルは「ロワールのシャトー・ディケム」という異名を持ち、銘醸地ボンヌゾーの中でも頂点に君臨しています。「ロワールのシャトー・ディケム」これを聞けばこのワイナリーがどれほどの名声を築いてきたのか、想像できると思います。11世紀にはシャトーとブドウ畑があったとされ、19世紀からドメーヌとして発展、今やボンヌゾーの名門中の名門となっています。
パーカー高得点獲得のソーテルヌ一級格付けシャトー!
シャトー・リュ―セック / Chateau Rieussec
名門ロスチャイルド家所有のソーテルヌ格付け第1級に属する、シャトー・リューセック。非常に困難なヴィンテージにはワインを生産しないという、こだわりの貴腐ワインです。ハチミツ、パイナップル、オレンジ、アプリコットやマンゴー、ネクタリンのような果実香に、バニラやカラメルのようなまろやかで香ばしい樽香や熟成香が見事です。 2001年にはパーカー93点を獲得しています。
誰もが憧れる貴腐ワインの最高峰
シャトー・ディケム ソーテルヌ特別1級 / Chateau d’Yquem
言わずと知れた、世界最高峰の貴腐ワインのトップシャトー、ディケム。単にソーテルヌの格付けでも1シャトーだけ別格扱いされているだけでなく、ディケムが世界中の甘口白ワインの中で最高のワインだということに、異を唱える人はいないほどの存在です。1855年のソーテルヌ の格付け制定時に唯一「特別一級」に格付けされ、以来160年以上その地位は揺らいでいません。熟成はなんと100年以上持つとされ、時代を超えて世界中の人々に愛されています。
世界の貴腐ワインを飲み比べ!
世界の貴腐ワインを一気に楽しみたいというかたは、こちらがおススメ!
産地によって表われる個性の違いを、ぜひ感じてみてはいかがですか?
終わりに
まったくの偶然から生まれたとされる貴腐ワイン。
その歴史や造られ方、銘醸地を知ることでその甘美な世界をもっと楽しめるはずです。初めて貴腐ワインに挑戦する方、既にその世界に酔いしれている方も、自分のお気に入りの飲み方やシチュエーション、マリアージュを是非見つけてみて下さい。