聞いたことあるけどよく知らない「パーカー・ポイント」って?

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ワインショップ

ワインを選ぶときによく見かける「パーカーポイント」というワード。「100点満点!」とか「95点獲得!」とか書いてあると、きっと美味しいワインなんだろうなぁと思いますよね。でも「パーカーポイント」とは?と改めて聞かれると…。

この「>パーカーポイント」、世界で最も影響力のあるワイン評論家と言われ、2019年5月に引退を発表したロバート・パーカーJr.氏がワインを採点して付けたポイントのこと。今回は、ワインを選ぶときのひとつの指標になる「パーカーポイント」と、その指標を編み出したロバート・パーカー氏について、書いてみたいと思います。

「ロバート・パーカー」ってどんな人物?

赤ワイン

「神の舌を持つ男」とか「世界で最も影響力のあるワイン評論家」などの形容詞が付く、ロバート・パーカーJr.氏。それだけ聞くと、神様みたいな存在なのでは?と思いますが、はたしてどうなんでしょう。(ちなみに、ロバート・パーカー氏とロバート・パーカーJr.氏は、同一人物です。以下Jr.は省略させていただきます。)

 

フランスでワインに出会う

1947年7月23日、アメリカ東部メリーランド州ボルティモアで生まれたパーカー氏。フライドチキンやコーラが食卓に上るような、ごく普通のアメリカの典型的な農家で育ちました。当時のアメリカは、日常的にワインを飲む習慣はなく、一部の上流階級の家庭で嗜まれる程度だったようです。

 

そんなロバート・パーカー氏が、ワインに目覚めたのは、大学生の頃のこと。後に彼の妻となるパトリシアの留学していたフランスを訪れた際、大好きなコーラを買おうとしたところ、ワインの方が安かったからという理由でワインを試してみたそうです。フランスで、ワインと恋に落ちてしまったパーカー氏、帰国する頃には、すっかりワインの虜になってしまっていたというわけです。

 

大学卒業後に、ロー・スクールに進学し、堅実な職業を望む両親や恋人の希望もあって、卒業後は地元の農業信用金庫の弁護士となりましたが、一度芽生えたワインへの情熱は衰えることはありませんでした。妻となったパトリシアに通訳をしてもらいながら、毎年、フランスボルドーを中心に、ワインの産地を巡ったり、地元のワインショップで購入したワインの試飲会を仲間と開催するなど、ワインへの造詣を深めていきました。

 

パーカー氏は後のインタビューで、当時は、独自の方法で、ワインのテイスティング能力を高めていたと語っています。ワインの先達の作ったアロマに関する百科事典を見て勉強したり、道端の花やアスファルトに至るまで、ありとあらゆるものの香りを嗅いで記憶していたそうです。彼の父親は、狩猟中、何匹もいる猟犬の臭いを嗅ぎ分ける能力の持ち主!だったそうで、パーカー氏の嗅覚の鋭さは父親譲りなのかもしれません。しかしながら、ものすごく地道な努力を積み重ねた結果として、身に付いたのが、驚異的なテイスティング能力だったのです。

 

ワイン・アドヴォケイト誌の創刊

雑誌

ロバート・パーカー氏は、地元の農業信用金庫で働く傍ら、ワイン会を開催するなど、趣味としてワインの評論を続けていました。そして、ワインの世界を知れば知るほど、世の中に出回っているワインの評価は正当なものではないのではないか、という考えが浮かんできました。当時発行されていたアメリカのワインガイドには、業界と癒着していたものもあったからです。

 

そこで、庶民の側に立って、本当に価値のあるワインを紹介したいという思いで創刊されたのが、現在のワイン・アドヴォケイト誌の前身である「ボルティモア・ワシントンワイン・アドヴォケイト」です(アドヴォケイトには擁護者と弁護士、両方の意味があります)。


1978年の創刊当時から、ワイン・アドヴォケイト誌では、広告の掲載を一切せず、読者の購読料のみで出版費用を賄っています。パーカー氏は、試飲旅行のための飛行機代やホテル代などの費用はすべて自腹、コメントするワインはすべて自分で購入するなど、独立性を維持しながら、独自のコメントを書き続けていたそうです。

 

1982年のボルドープリムール

ロバート・パーカー氏の名が、業界に知られるようになったきっかけは、1982年のボルドープリムールを正当に評価したことだと言われています。当時、フランス、特にボルドー左岸の格付けシャトーのワインは、アメリカでは投資の対象となっていました(1982年当時、アメリカ人の資金は、フランスのワイン業界にとっても、大変魅力的なものでした)。数年後に瓶詰めし市場に出回るワインを、ぶどうの収穫の翌年春には買い付けていた訳です。


そこで必要となってくるのが、プロの評価です。ワインを樽から試飲した当時の評論家たちは、口を揃えて「大したヴィンテージではない」と言うなか、パーカー氏はこの1982年ヴィンテージを「世紀のヴィンテージだ」と絶賛しました。他の評論家たちからは猛烈な批判を浴びますが、「ワイン・アドヴォケイト」の購読者たち(中にはニューヨークの大きなワインショップの名前も)は、パーカー氏を支持、こぞってこのヴィンテージのワインを購入しました。実際、この1982年の評価は、後のテイスティングによって、一部議論はありますが、素晴らしいものだと証明されています。

 

もうひとつ、1983年のブルゴーニュワインに対する評価も、氏を有名にしたものだと言われています。最高のヴィンテージだと絶賛する評論家が多い中、「生産者によって、品質のばらつきが非常に大きいので、購入する際はよく注意するように」とコメント。こちらも評価通りだったため、パーカー氏がますます躍進していくようになったのです。

 

生涯をかける仕事へ

本業である信用金庫での弁護士を続ける傍ら、副業である試飲や執筆を続け、多忙を極めていたパーカー氏ですが、前述のヴィンテージを評価したことがきっかけで、ワイン・アドヴォケイト誌の購読者は1万人近くまで急増。とうとう、1984年春に弁護士の仕事を辞め、仕事としてワイン評論家の道を歩み始めます。そして、ロバート・パーカー氏は、アメリカワイン業界、ひいては世界のワインマーケットに絶大な影響力を及ぼすようになっていきます。パーカー氏が高評価を与えたワインは、一夜にして店頭から消え、その値段も吊り上がっていくようになりました。

 

テイスティング

パーカー氏がテイスティングしてきたワインは、実に1年に1万本!それもほとんどのワインを記憶しているらしいという驚くべき記憶力の持ち主らしいです。いつも40種類から60種類のワインをテイスティングしていたそうですが、それでも二日酔いになったことは、ほとんどないというから驚きです。(パーカー氏、水が大好きで、水をたっぷり飲むそう)。

 

正確なテイスティングのために、生産者や各国バイヤーからのお誘いもすべて断り、疲れないように睡眠をたっぷりとるなど、禁欲的な仕事ぶりのパーカー氏。そんな彼でも、1日の終わりには、いち消費者に戻って、1本15~20ドル程度のバリューワインを開けていたそうです。

 

「非常に高いテイスティング能力」消費者目線の評価」「高い記憶力」「たゆまぬ努力」「自己管理能力の高さ」これらのことに裏打ちされた、誰の目から見てもわかりやすいパーカーポイントは、ワイン選びに困ってしまった時のひとつの目安として、非常に有用なものでした。

 

数々の批判もありながらも、その後も、消費者目線でワイン評論を続けたパーカー氏。フランスワインの名声を高めたとして1999年6月、シラク大統領から、ワイン評論家としては初となる「レジオンドヌール勲章」を授与されます。そして2002年には、イタリア共和国功労勲章も授与されています。

 

2019年引退の前から、ワイン・アドヴォケイト(WA)誌の後継者たちに、ワインの評価を託すようになったため、現在では以前ほどパーカーポイント(PP)の影響はなくなってきました。しかし、まだまだその高い知名度は健在で、わかりやすい指標として、「パーカーポイント(PP)○○点」「WA○○点」という表記をよく見かけます。

 

パーカーポイントの弊害

弊害
ワイン業界に対するパーカー氏の影響力が強くなるにつれ、それまで数千円で売られていた無名のワインが、氏の評価によって、一夜にして完売、値段が数倍にもなることが起きるようになりました。そうなってくると、高得点を得るために、いわゆるパーカー氏好みの「十分に熟したぶどうを使い、小樽で熟成させてヴァニラ香を付け、黒に近い程の外観で、濃くて甘みがある、凝縮したワイン」を造れば、ひと儲けできるのではないか?と考えるワインメーカーが現れます。

 

パーカー氏をはじめとするワイン評論家たちは、世界中のどこで造っても同じというようなワインを好ましく思ってはいませんし、パーカー氏はワイン評論家としての2つの責任「ワインを的確に評価すること」「公平であること」をいつも心において、評価をしてきたそうです。

 

しかしながら、パーカー氏のポイントによる評価が、結果的には、一部のワインの「パーカー化」を推し進めることになってしまったことは否めません。ただそのことが反面教師となったのか、最近では、テロワールであったり、土着品種であったり、ワインの独自性を大切にする生産者が増えています。結果として、様々な思いが込められたワインの種類が増え、生産者の思いを汲んだワイン選びができるという楽しみが、ますます増してきているのではないかと思います。

 

パーカーポイントの構成

ポイント構成

では、パーカーポイント、どういう風にポイントが決まるのでしょうか?

まず、すべてのワインに基礎点として50点が与えられます。
そこに、以下の項目の配点内でポイントが加算されていきます。

●外観と色:5点
●香り(アロマとブーケ):15点
●味わいと余韻:20点
●全体の品質レベル・熟成の可能性ポテンシャル:10点

そして、トータルのポイントをどのように受け取ればよいのか、ということですが、公式ウェブサイトによると、次のように定義されています。

●100~96点 Extraordinary【格別】
●95~90点 Outstanding【傑出】
●89~80点 Above Average to Excellent【かろうじて並以上から優良】
●79~70点 Average【並】

 

パーカーポイントの調べ方

調べる

ワイン選びの助けとなるパーカーポイント。どうやって調べたらいいんでしょう?

ひとつ目の方法は、「ワイン・アドヴォケイト誌」の購読者になること。現在では「ロバート・パーカー オンライン」というサイトがあります(個人会員の登録料は年間99USドル)。もうひとつ「Parker’s Wine Buyer’s Guide」という本があります。残念ながら、日本語版は絶版だそうですが、洋書でしたらAmazonで購入可能です。

 

もっと気軽にパーカーポイントを調べるには、「パーカーポイント95点」とか「パーカーポイント100点」とかいうキーワードで検索してしまうのが、一番手っ取り早いかもしれません。そのまま検索エンジンで検索してみてもいいですし、ワインショップによっては、パーカーポイント高得点ワインを特集しているところもあります。

 

パーカーポイント100点満点のワイン

ボルドーワイン

さて、パーカーポイント100点満点のワイン、どんなワインなのか興味ありませんか?あるインタビューで「100点満点のワイン」について、パーカー氏は次のように語っています。


『100点のワインは、私の感情に訴えかけるワインだ』

氏いわく、満点のワインは別次元の感動を人にもたらしてくれるんだそう。
パーカー氏が100点満点をつけたのは、ほんの0.01%のワイン。その栄誉あるワインを3本ご紹介します。

 

シャトー・ポンテ・カネ パーカー100点 2010 赤 <br>Chateau Pontet Canet   スピード出荷

シャトー・ポンテ・カネ 2010 Chateau Pontet-Canet

「度肝を抜かれるほど素晴らしい」とパーカー氏がコメントしたワイン。
メドック格付け第5級ながら、2009年ヴィンテージと2010年ヴィンテージ、2年連続でパーカーポイント100点満点を獲得。パーカー氏だけでなく、他のワイン雑誌からも非常に高い評価を得ているワインです。

 

シャトー・ディケム 2015 ソーテルヌ特別1級 白 <br>Chateau d'Yquem  スピード出荷
シャトー・ディケム 2015 ソーテルヌ特別1級 白 Chateau d’Yquem

言わずと知れた世界最高の甘口ワインシャトー・ディケム。
ソーテルヌの中でも別格のディケム、パーカー・ポイント100点満点を1811年、1847年、1945年、2001年、2009年と5度獲得しています。この2015年ヴィンテージ、実は一度目のテイスティングでは98点だったものの、2018年4月の再試飲で、「2015年のディケムは伝説に残る素晴らしいヴィンテージだ。我々の子孫が100年後にこのワインを飲んでも驚かないだろう」と高く評価し、100点満点に返り咲いたワインなのです。

 

シャトー・ペトリュス 2009 赤 <br>Chateau Petrus  スピード出荷

シャトー・ペトリュス 2009 赤 Chateau Petrus

あまりにも有名な、ボルドー右岸ポムロールの伝説的ワインシャトー・ペトリュス。わずか11.4haという小さなぶどう畑から生産されるワインは、年間わずか4,500ケースほど。「ペトリュスはワインというよりも神話の象徴なのだ。」とパーカー氏が称賛するこのシャトー・ペトリュス、21世紀に入ってからパーカーポイント100点を5回も獲得していますが、そのうちのひとつが、この2009年ヴィンテージです。

 

もっと気軽に楽しめるパーカーお薦めワイン

気軽なワイン

パーカーポイント100点のワインをご紹介しましたが、ちょっと頑張れば手の届きそうなものもあれば、びっくりするようなお値段のものもあります。「パーカーポイントが高いワイン、庶民が気軽に飲むものではないのでは?」なんて思わないでください。

「庶民の側に立って、本当に価値のあるワインを紹介したい」という思いで、ワインの評論を始めたパーカー氏です。庶民にも手の届くお値段で、本当に美味しくて飲む価値のあるワインを指南してくれるガイドがあるんです。その名も「The World’s Best Wine Value Under $25(邦題:ワインの帝王ロバート・パーカーが薦める 世界のベスト・バリューワイン)」
その中から、パーカー氏が執筆を担当したボルドー、ローヌ、北アメリカの何本かのワインをピックアップしてみました。


コート・デュ・ローヌ ブラン 2016 ギガル 白<br>Cotes du Rhone Blanc / E.Guigal   スピード出荷

コート・デュ・ローヌ ブラン  ギガル 白
Cotes du Rhone Blanc / E.Guigal

とあるインタビューで「無人島にワインを1種類だけ持っていくなら?」と聞かれ、「ギガルのムーリンヌ1978」と答えたほど、ギガルをローヌの中で抜きんでた才能だと気に入っていたパーカー氏。ギガルのワイン、どれを飲んでも間違いはないのですが、このコート・デュ・ローヌ・ブランについて、次のようにコメントしています。「これは驚くべきワイン。白桃とタンジェリン・オレンジの皮が入り混じった素晴らしいスイカズラを連想させ、ミディアムボディで、溌溂として、果実味主体のスタイルに、優しい酸味と深みが伴っている」


ムールヴェードル エンシェント・ヴァインズ 2016 クライン 赤<br>Ancient Vines Mourvedere / Cline   スピード出荷ムールヴェードル エンシェント・ヴァインズ クライン 赤
Ancient Vines Mourvedere / Cline

カリフォルニアでは珍しい砂質土壌のためフィロキセラ禍を免れた樹齢100年を超える古樹の畑を守り続けてきたクライン。ジンファンデル・ムールヴェードルなどの伝統的品種にフォーカスしたワイン造りを続けるファミリーワイナリーです。パーカー氏が大切にしたその土地ならではの品種のこのワインには、こんなコメントを残しています。「ミディアムボディでかすかにオークの風味がある。見事に熟し、適度な酸、素晴らしく純粋である」

 

アルヴォワ シャルドネ ビオ 2015 ラ・カーヴ・ド・ラ・レーヌ・ジャンヌ 白<br>Arbois Chardonnay BIO / La Cave de la Reine Jeanne   スピード出荷シャトー・シャルマイユ 2007 赤 
Chateau Charmail

質の高い努力が続けば、格付け3級以上の実力があると言われるシャトー・ソシアンドマレと同等の実力になるだろうと、パーカー氏に評価された、オー・メドックの注目の生産者が、このシャトー・シャルマイユ。ボルドー左岸のワインにしては珍しく、メルローを主体とした造りになっています。以下、パーカー氏のコメントです。「精妙でセクシーなワインは、甘い果実感、まろやかにこなれたタンニン、魅力的で豊潤な長い余韻を与えてくれる」

 

おしまいに

パーカーおしまい

「ワインの帝王」と呼ばれたロバート・パーカー氏。
今回の記事を書くために、ひととなりを知るまでは、なんというか、言葉は悪いですが、「もっとお高くとまった人」だと思っていました。意外と庶民の側にたった人物だったパーカー氏。自身も「帝王に祭り上げられた」なんて言っているくらい、自分自身に注目が集まるのをあまり好まない、天才と呼ばれながらも、努力を惜しまず、ワインに真摯に向き合う人物だったんですね。

この記事が、皆さんのワインの選び方の参考になると幸いです。

 

<参考にした書籍>

「ワインの帝王 ロバート・パーカー」 エリン・マッコイ 著

「偏愛ワイン録」 葉山考太郎 著

「世界のベスト・バリューワイン」 ロバート・M・パーカーJr. 著

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