日本人も大好きな「パスタ料理」。
レストランでもご自宅でも気軽に食べられるようになり、日本でもすっかり「日常食」になりました。ただ、パスタ料理は種類が豊富で、ワインと合わせるならどれがお薦めなの?と悩んでしまう方も多いはず。
実は筆者もパスタが大好きで、週に3回以上はパスタを食べるパスタラバーです。
「本場パスタを食べ歩きしたい!」とパスタの本を片手にイタリアの各州を旅したことがあるのですが、そこで出会ったのは各州の郷土パスタと郷土ワインの最高のマリアージュ。そう、現地料理には必ず合う現地ワインがあるのです。
ソムリエ的観点からも、料理とワインの組み合わせはまず「郷土同士であわせる」ことが鉄則なんです。
まずは原点に戻って、パスタ大国イタリアの郷土パスタと郷土ワインから、鉄板のマリアージュを探ってみましょう。
イタリアの郷土料理は多種多様!
長靴の地形で有名なイタリア。
イタリアは南北に細長く、地中海に囲まれ、中央には背骨の様にアペニン山脈が走る特徴的な地形です。この緯度の差、気温の差、そして山岳地帯と海岸地帯がはっきりと分かれた地形の差などが複雑に絡み合い、それぞれの州で全く異なる気候風土をもっています。
これにより各州の特産物も異なり、生まれる郷土料理も異なります。
おまけに、都市国家時代が長く続いたイタリアが統一されたのはほんの150年前のこと。それまではそれぞれの都市がそれぞれの文化や慣習の中で生活していたため、固有の食文化が脈々と受け継がれてきました。
「イタリア料理は地方料理の集合体である」とよく言われますが、様々な気候風土や文化が影響し生まれた郷土料理は一括りにすることはできず、その種類は無限大です。
そして、食事とともにワインを飲む文化があるイタリアでは、それぞれの郷土料理に合ったワインもまた無限に存在するのです。
郷土料理があるからそれに合うワインが生まれたのか、郷土ワインがあるからそれに合う料理が生まれたのか・・・鶏と卵のような関係でどちらが先かは定かではありませんが、長い年月の中で淘汰された結果、今なお親しまれている郷土料理と郷土ワインは強い結びつきがあり、間違いなく鉄板のマリージュと言えます。
イタリアの郷土料理は無限大なので・・・今回は「パスタ」だけにフューチャーして紹介していきたいと思います。
地域の特性からパスタは2タイプに分けられる!
とは言え、パスタだけでも種類は豊富です。
イタリア20州それぞれで固有のパスタをつくっていますが、とりわけ南北に長いイタリアでは北と南で(大まかではありますが)2つのタイプに分類できます。
パスタの主原料である小麦粉は、北部では軟質小麦を、南部では硬質小麦を栽培しています。これにより北は軟質小麦で卵を加え練りこんだ手打ちパスタが主流となり、南はコシの強い硬質小麦を水で練りこんだ乾麺が主流になります。
また、北部は冷涼な高山地帯で綺麗な青い牧草が生え揃い、酪農が盛んな地域です。調理にはバターを使用したこってりとした味付けが多く、濃厚なソースはもっちりとした手打ちのパスタによく絡みます。
一方、中南部はオリーブ栽培が盛んなため、調理用の油はオリーブオイルを使用し、食材の味を活かしたシンプルな味付けが多いです。そしてオイルベースのソースは、つるりとした触感の乾麺と相性がいいのです。
(※もちろん、イレギュラーなパスタも多く存在します。)
この地域特性から2タイプに分けられるので、例えば・・・
北部発祥のパスタならこってり系だから、濃厚な白ワインやフルボディの赤ワインがその土地にあるのかな?
南部発祥のパスタならさっぱり系だから、すっきり辛口の白ワインがその土地にあるのかな?
などと想像るすることができますね。
各州の代表的なパスタとワインのマリアージュ
それでは実際に、各地の代表的なパスタとワインの鉄板マリアージュを紹介していきましょう。
北部:ピエモンテ州
イタリア語で「山の麓」を意味するピエモンテは、その名の通り山岳地帯で、山の幸が豊か。名産は高級食材の「白トリュフ」。その他にもポルチーニ茸やオーヴォリ茸などのキノコ類やジビエなども豊富。畜産業も盛んで食肉牛やバターやチーズなどの乳製品、特にバラエティ豊かなチーズには目を見張るものがあります。
■タヤリン×バローロ
~タヤリン~
卵と小麦粉の生地を細切りしたピエモンテの伝統的なパスタ。特徴的なのは、全卵ではなく卵黄を多く使用しているためパスタの色も濃い黄色で味も濃厚。地元の名産品の白トリュフとバターで仕上げた高級感ある一品。
合わせるワインは、「ワインの王」ことバローロ。できれば熟成してこなれたものがよいでしょう。バローロが熟成すると香りにトリュフのような豊かなアロマが現れます。料理・ワインともに「格」も申し分なく、スペシャルなひと時を愉しめます。
[おすすめワイン]バローロ 2015 アラルディカ 赤 Barolo / Araldica
■アニョロッティ×バルベーラ
~アニョロッティ~
アニョロッティは手打ちの詰め物ラヴィオリの一種で、ピエモンテ州固有のパスタです。詰める物は様々ですが、特産の肉を詰めたり、ラグーソースにチーズをふりかければ、地元のミディアムボディの赤ワイン「バルベーラ」や「ドルチェット」との相性抜群です!
[おすすめワイン]アラシア ピエモンテ・バルベーラ 2018 アラルディカ 赤
北部:リグーリア州
イタリア北西部に位置するリグーリア州は、イタリア最大の港町「ジェノヴァ」を有する州です。ジェノヴァで思い出されるパスタソースが、日本でもお馴染みのバジルをふんだんに使った「ジェノベーゼ」。ジェノベーゼに限らず、色々な香草を活かした料理が多いのもこの州の特徴です。
■ジェノヴェーゼ×チンクエ・テッレ
~トゥロフィエ・アル・ペスト・ジェノヴェーゼ~
この土地で最も有名なショートパスタに「トゥロフィエ」があります。ねじりを加えたショートパスタで、ペスト・ジェノヴェーゼによく絡みます。
あわせるワインは、その土地の名前がそのままワインの名前になった辛口白ワイン「チンクエ・テッレ」。「5つの村」という意味のチンクエ・テッレは、海沿いの断崖絶壁に建つ街並みと段々畑は唯一無二の風景で、世界遺産にも登録されています。
その限られた土地で造られるのがこのチンクエ・テッレで、ボスコ、アルバローラ、ヴェルメンティーノなどを使用し、果皮と共に発酵させて造られるのがこの地の伝統です。やや黄色の色調が強く若干酸化のニュアンスがありますが、フレッシュでフルーティな味わいは爽やかなハーブが香るジェノヴェーゼとよく合います。
[おすすめワイン]チンクエ・テッレ 2019 カンティーナ・チンクエ・テッレ 白
北部:ヴェネト州
イタリア北東部に位置するヴェネト州。アルプス山脈とアドリア海に挟まれたヴェネト平野が広がる地帯。特産品は様々で、ラディッキオ・ロッソ(赤チコリ)や白アスパラガスなどの野菜から畜産業、そしてヴェネツィアには大きな魚市場があります。また、海洋国家であったヴェネツィア共和国の影響により東方貿易が盛んだったため、スパイスが流通し地元の料理にも多用されるようになりました。
■ビゴリ×ヴァルポリチェッラ
~ビゴリ~
ビゴリとは、硬めに練った生地を「ボゴラーロ」と呼ばれる専用のハンドル式の圧搾機にかけ、太いスパゲッティ状に絞り出して成型する、非常にコシのあるパスタ。また絞り出すので表面はザラザラとしていて、ソースの絡みがいいのも特徴です。写真は絡みの良いラグーのソースで食べました。
ワインはヴェネトを代表する赤ワイン、「ヴァルポリチェッラ」と。アマローネと同じ産地・同じブドウを使用し造られたヴァルポリチェッラは、アマローネに比べチャーミングでミディアムボディの味わいなため、ラグーパスタとの相性もいいです。紹介するワインは、ヴァルポリチェッラの中でもアマローネの搾りかすとヴァルポリチェッラをブレンドし再発酵させた「リパッソ製法」のもの。
[おすすめワイン]ヴァルポリチェッラ・リパッソ 2017 カンティーネ・リオンド 赤
北部:エミリア・ロマーニャ州
北東部に位置するエミリア・ロマーニャ州は、州の半分を占める広大なパダーナ平野があり、農産業・畜産業が盛んです。特産品は、チーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノやパルマ産のプロシュート、モデナ産のバルサミコ酢など、食通を唸らす食材の宝庫です。州都であるボローニャは美食の町として知られており、「太っちょボローニャ」と呼ばれるほど、濃厚な味付けの肉料理や、バター、チーズなどを多用したこってりとした料理が多いのも特徴です。
そして特筆すべきは、パスタ料理が充実していること。軟質小麦と卵でつくる手打ちパスタの種類が豊富です。
■ボロネーゼ×ロマーニャ
~タリアテッレ・アッラ・ボロネーゼ~
タリアテッレは「切ったもの」を意味し、平麺状に切った手打ちのロングパスタです。タリアテッレのソースは、「永遠の定番」ともいわれる伝統のサルサ・ボロネーゼ(ボローニャ風ミートソース)と組み合わせます。最後にパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりかければ、エミリア・ロマーニャの食材がぎゅっと詰まった一皿に。
これに合わせるワインは、エミリア・ロマーニャで広く生産されている、AOCロマーニャの赤ワインがいいでしょう。濃すぎず軽すぎずバランスのいいミディアムボディの赤ワインは食中にはもってこい。ワインの爽やかな酸味が口をリフレッシュさせ、濃厚なパスタがどんどん進みます。
[おすすめワイン]サンジョベーゼ・ディ・ロマーニャ リゼルバ 2017 ボッター・カルロ 赤
■トルテッリ×ランブルスコ・セッコ
~トルテッリ~
詰め物をしたラヴィオリの一種で、イタリア中部から北部にかけて使われる名称。詰め物の中身は、ジャガイモやチーズ、ホウレンソウや肉のラグーなどバリエーション豊かです。
■トルテッリーニ×ランブルスコ・セッコ
~トルテッリーニ・イン・ブロード~
トルテッリよりも小さいサイズの詰め物パスタで、中には特産の生ハムや肉を詰め、 鶏のブロードでスープ仕立てにしたエミリア・ロマーニャ伝統の料理。見た目は水餃子のようですね。
トルテッリ、トルテッリーニ共に合わせるワインは、赤のスパークリングワイン「ランブルスコ・セッコ」です。食中は甘口よりも辛口のセッコがいいです。地元の人は、前菜のプロシュートからパスタ、メインの肉料理までランブルスコで通すことが多いようです。裾野が広い、それがランブルスコの特徴でもあります。
[おすすめワイン]ランブルスコ・レッジャーノ・セッコ NV ドネリ
中部:トスカーナ州
花の都フィレンツェが州都のトスカーナ州。ルネッサンス文化が花開き、名家メディチ家の娘がアンリ2世に嫁ぐ際に、おかかえコックを連れていきフィレンツェの食文化をフランスに広めたことはあまりにも有名。オリーヴの産地でもあるため調理油はオリーブオイルが主体。キアーナ牛やチンタセネーゼ豚など酪農も盛んですが、山岳地帯で捕れるイノシシをつかったジビエ料理も多い。
■ピンチ×キャンティ・クラシコ
~ピンチ・アル・ラグー・ディ・チンギャーレ~
トスカーナのシエナ一帯で造られる手延べのうどんのように太いパスタ。語源は「手で転がす」の意味の「アッピチャーレ」からきているんだとか。ピンチの他、ピーチ、ピッチなど名称は色々。手で伸ばすため太さのムラができ、それにより触感のアクセントが生まれ美味しさにつながっています。
歯ごたえのあるパスタなので、ソースはしっかりとした味付けがいいです。イノシシのラグーソースとの相性は抜群。
これに合わせるワインは、これもトスカーナを代表するワイン「キャンティ・クラシコ」。爽やかな酸味と程よいタンニンが食べ応えのあるパスタを受け止め、なめし革やスパイスを思わせる野性味のある香りが、イノシシの個性ある風味と同調します。
[おすすめワイン]キアンティ・クラッシコ 2017 ラーモレ・ディ・ラーモレ 赤
中部:ラッツィオ州
イタリア共和国の首都でもあるローマがある州。古代ローマ時代は「世界の中心」であり、中世にはカトリック総本山である「信仰の中心」でした。大都市であるローマですが、食文化は農家や羊飼いの庶民的な料理が今なお伝承されていて、塩気が強く、シンプルで、はっきりとした味付けが多いのが特徴です。
■カルボナーラ×フラスカーティ・セッコ
~スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ~
日本人も大好きなカルボナーラ。パンチェッタもしくはグアンチャーレという塩漬けにした豚肉と卵・チーズの濃厚ソースで仕上げる、ラッツィオ定番の郷土料理です。
■アマトリチャーナ×フラスカーティ・セッコ
~アマトリチャーナ~
これもラッツィオ定番のトマトソースのパスタ。アマトリチャーナの名前の由来は町のアマトリーチェからきています。グアンチャーレとペペロンチーノをトマトソースで煮込み、スパゲッティもしくはブカティーニ(穴あきのロングパスタ)で合えていただく。
ラッツィオ州にはあまり著名なワインがないように思えますが、このフラスカーティは古代ローマ時代の皇帝や貴族といった富裕層に好まれた白ワインです。白ワインですが、幅広い料理と合わせられる懐の深さがあり、ローマの伝統料理で肉の前菜「サルティン・ボッカ」とフラスカーティは鉄板マリアージュとされています。もちろん、カルボナーラやアマトリチャーナともよく合いますよ。
[おすすめワイン]フラスカーティ・スペリオーレ セッコ 2019 ポッジョ・レ・ヴォルピ 白
南部:アブルッツォ州
アドリア海に面するアブルッツォ州。小麦栽培は北部が軟質小麦で、南部が硬質小麦と説明しましたが、マルケ州とアブルッツォ州がその境目になります。山間の町ファラ・サン・マルティーノにはパスタ工場が集まっていて、住民のほとんどが何らかの形で乾燥パスタ生産に関わっているそうです。
■マッケローニ・アッラ・キタッラ×モンテプルチアーノ・ダブルッツォ
硬質小麦粉を卵で練り、四角い箱にギターのように弦を張った専用器具「キタッラ」で切り分けることから、この道具の名前がそのままパスタ名になりました。ちなみに、キタッラはイタリア語の「ギター」の意味。牛、豚、羊をミックスしたソースで食されることが多いです。
おすすめのワインは、アブルッツォ州を代表するワイン、モンテプルチアーノ・ダブルッツォ。しっかりとした果実味が濃厚なラグーソースとよくからみ、ワインの樽香も香ばしい肉の風味を引き立てます。
[おすすめワイン]モンテプルチアーノ・ダブルッツォ 2016 バローネ・コルナッキア 赤
南部:カラブリア州
イタリアを長靴の形で言うとつま先にあたるカラブリア州。 カラブリアの食文化で最も特徴的なのが「ペペロンチーノ(赤唐辛子)」を多様に使うこと。他の州をみてもイタリアはほとんど辛い料理がないのですが、このカラブリアだけは違います。料理はもとより、肉の加工品「ンドゥイア」や海産物の加工品「ペペロンチーニ・リピエーノ・アル・トンノ」にもペペロンチーノが使われます。
■ペンネ・アラビアータ×チロ・ロッソ
辛い料理はとりわけ「ソムリエ泣かせ」だと言われています。唐辛子の辛さは刺激が強く、ワインの繊細な香りと味わいを消し去り、口の中は辛さのみが支配してしまうからです。ゆえに唐辛子とワインは合せるのが本当に難しいのです。
ペンネ・アラビアータは唐辛子を使ったトマトソースのことですが、これに合うワインは、辛い料理大国カラブリア生まれの「チロ・ロッソ」がおすすめ!舌をピリリと刺激させるトウガラシと、チロ・ロッソの緻密なタンニンが調和し、豊かな果実味が突出した辛味を穏やかにさせます。双方の良さを補い、強さを抑えた絶妙なマリアージュです。
[おすすめワイン]チロ・ロッソ・クラッシコ 2019 リブランディ 赤
南部:シチリア州
イタリアの南端に位置する地中海最大の島、シチリア島。地中海の「ちょうど真ん中」という立地から、地中海を支配しようとする国々がこぞってシチリア島を占拠し、多国の文化がモザイク状に混ざり合った、独自の歴史と文化をもつ州です。そのためシチリア料理はバラエティに富んでいます。
■パスタ・コン・レ・サルデ×インツォリア
~パスタ・コン・レ・サルデ~
シチリアで獲れるイワシを使ったオイルベースのパスタです。イワシ以外に干しブドウ、松の実、フェンネルの葉などが入り、アラブの影響が色濃く表れています。このパスタには、レモンのようなキリっとした酸とジューシーな果実味、夏野菜のような瑞々しさが素晴らしいシチリアの地ブドウ「インツォリア」を使用した白ワインがおすすめ。
[おすすめワイン]フェウド・アランチョ インツォリア 2019 白
最後に・・・
いかがでしたか?
日本でも馴染みのあるパスタから、特徴的な機械を使って作る変化球のパスタまで、タイプは様々でしたね。
この同郷の組み合わせをベースに、似たような味付けのパスタであれば、似た味わいのワインでも相性がいいので、様々なマリアージュに応用できます。
そして、その土地の食文化を知ることは、ワインのマリアージュを理解する上でとても大事だということです。
パスタを食べる際は観光した気分になって、その土地の食文化を想像しながら、ワインとの組み合わせを考えてみてはいかがでしょうか。