
近年、その人気が更に高まってきているリースリング。「気位が高く繊細」と言われ、ピノ・ノワールに負けないその気難しい性質は、時として人を遠ざけ、優れた産地も限られています。
最高のテロワールでしかその魅力を発揮しないリースリングから生まれるワインは、華やかで魅惑的。世界中のワイン愛好家の注目を集めています。
リースリングの歴史

By: dpotera
リースリングの発祥地はドイツ・ライン川流域。3,000年前のローマ時代のブドウ「Argitis minor」を起源に持ち、19世紀のアルザスワインの研究家ストルツによると、リースリングがラインガウの畑にもたらされたのは9世紀のことであるといいます。
843年にフランク王国が分裂した際に、東フランク王国ではライン川沿いにアロマが豊かなブドウ品種が植えられました。この品種はドイツ語でいうところの「流れる」という意味を持つ「riesen」から「リースリング」と名付けられます。
なぜ「流れる」なのかというと、この品種には、開花時の降雨量によっては花が地面に落ちてしまい果実にならずに流れてしまうという特徴があったからです。
そしてドイツからフランス・アルザス地方にリースリングが入ってきたのが15世紀。19世紀には広く栽培が行われるようになりました。
また、リースリングは高級白ワインを生み出すことから、フランスのシャルドネに対抗しうる高貴白品種としても知られています。
東ヨーロッパ諸国では「リズリング」と呼ばれ、また、DNA上は関係のない「リースリング・イタリコ」と区別をつけるために、「ライン・リースリング」や「ホワイト・リースリング」と呼ばれることもあります。
「Strong Riesling makes strong action.(強いリースリングは強い行動を生む)」
上記は17世紀のイギリスの劇作家シェイクスピアが残した格言ですが、この言葉からも400年以上も前からリースリングの魅力が認められていたことが分かります。
リースリングの栽培と醸造

By: A_Peach
リースリングは「涼しい気候」と「痩せた土壌」という緊張感のある環境でこそ、その魅力を発揮してくれます。
もともと樹木そのものの生命力が強いため自然と高収量になりますが、ブドウの収量が多くてもその品質が落ちることはありません。
それでも、収穫量を減らすためには非常に痩せた土地での栽培が望ましく、また、グリーンハーベストなどで制限する必要があります。こうすることで、果実の凝縮感が強いワインを造ることができます。しかし同時にブドウの糖度が上がるため、アルコール度数が高くなりすぎたり残糖が多くなったりなど、バランスを取るのが難しいところにこの品種の気難しさが表れます。
そして、リースリングの特徴である酸を保つためには、真南で強い日照を浴びる畑ではなく、南東向きの畑のほうが向いているようです。
また、晩熟な品種なので他の品種に比べると収穫時期は1か月ほど遅くなります。ブドウは丸い小粒で、房としては小さめ。果実の色は輝きのある淡い緑色から黄金色で、完熟すると斑点が現れるという特徴があります。
醸造面では、シャルドネと対照的にオークの小樽による発酵や熟成は好ましいとはされず、ワインをまろやかにするマロラクティック発酵も一般的には行われません。
ドイツやアルザスの優れた生産者は、大樽を使用して発酵・熟成を行うことが多くみられます。その場合使用されるのは新樽ではなく古樽。新樽はそのタンニンがリースリングの強い酸をより固くしてしまうため使われることはありません。
また、大樽を使用することで、樽の下部に薄く広がった滓の成分がワインに溶け込みやすく、うまみを増すという効果があるようです。
リースリングは長期の熟成に耐えうる品種としても知られており、その理由はやはりその持って生まれた強い酸があげられます。アルコール度数が低いといわれる甘口のリースリングですら、20年以上の時間をかけて熟成していくといいますし、ワインによっては50年や100年という長期間成長し続けるものもあります。
他の品種とは比較できないほどのポテンシャルの高さは、リースリングの特徴と言えるでしょう。
リースリングの味わい

By: Jameson Fink
リースリングはドライな辛口からスパークリング、濃密な甘口、貴腐ワインまで味わいの幅が広い点も魅力です。共通してリンゴを思わせる香りがあり、花の香りやスパイス香も土壌によっては感じられます。育った環境によって多種多様な特徴を見せてくれる品種ではありますが、シャープな酸味と引き締まった果実味は全体を通して味わうことができます。
そして石油のような香りが表われますが、こちらは熟成を経たドイツやアルザスのワインから感じられることが多いようです。
口に含むとまっすぐで繊細な印象。果実のまろやかな甘味と、芯のある酸味が広がります。透明感のある爽やかな味わいは脂肪分を感じさせない淡白な白身魚や、あっさりとした鶏肉や豚肉料理と合うでしょう。飽きない、疲れない、というリースリングの特徴は、和食にも合うワインとして日本でも人気の品種となっています。
リースリングの代表的な産地とおすすめワイン
ドイツ
リースリングの最大の栽培地と言えばドイツです。世界のリースリングの約半分はドイツで栽培されているというほど、ドイツに根付いた品種であるといえます。特にドイツの2大産地と言われるモーゼルやラインガウは高品質なワインを生み出します。ミネラル豊富で酸性の変成岩土壌は、その水はけのよさと温かさがリースリングの持つ強い酸を和らげ、このことによってバランスの良いワインが出来上がるのです。甘口・辛口共に上質なものが生み出されています。
シュタインベルガー リースリング カビネット クロスター・エーバーバッハ醸造所 白
Steinberger Riesling Kabinett Kloster Eberbach
ワイン情報1136年からの歴史を誇る、ドイツでも特に有名な畑「シュタインベルグ」。ドイツ全土の中でも5つしか選ばれていない最高峰の畑である「オルツタイルラーゲ」の一つです。そのシュタインベルクの畑を、900年もの長きにわたって単独で所有しているという、これまた特別な生産者がクロスター・エーバーバッハ醸造所。クラシックなリースリングらしい果実の甘みがありながらも、しっかりとした酸があり、ただ甘ったるいだけではない、バランスの取れた上質なワインに仕上がっています。
ローゼン リースリング・ドライ Q.b.A. ローゼン・ブラザーズ 白
Loosen Riesling Dry / Loosen Bros.
ワイン情報ドイツの辛口リースリングを主導する、ローゼン醸造所。ローゼン醸造所のワインは世界中にファンを持ち、その中にはワイン界の重鎮も多く存在します。
銘醸地モーゼルならではのエレガントな果実味にシャープな酸味、レモングラスのような心地よい刺激を感じさせる繊細な香り。
さらに果汁の質の高さを想わせるふくらみとなめらかな口当たり、ミネラル感、そしてそれらがよくまとまった非常にバランスのとれた味わいは、 生牡蠣の他シーフードなどとの相性抜群です。
フランス
フランスで言えば、アルザスが素晴らしいリースリングを生み出します。アルザスの場合は、ドイツやオーストリアと似たような土壌ながらも、その温かな気候からふっくらと芳醇なワインに仕上がります。
一方で、アルザスの粘土石灰質の畑で育ったリースリングは、冷たい土壌が強い酸を生み出すと同時に温かな気候がアルコールの高いワインを生み、この二つの特徴が混ざり合う個性の強いワインとなるのです。
アルザスでの醸造は大樽使用からからステンレスタンク使用まで、生産者によって大きく異なります。一般的にリースリングの醸造過程では行われないマロラクティック発酵を行う生産者がいる点なども、そのスタイルの多様性を物語っています。
アルザス リースリング ウブステール 白
Alsace Riesling / Hubster
アルザス リースリング ドメーヌ・メルシオル 白
Alsace Riesling / Domaine Mersiol
オーストリア
近年、リースリングの生産量が増加しているところと言えば、オーストリアです。
オーストリアのイーデン・ヴァレーでは、その土壌の性質がドイツに共通するところがあり、きりりと強い辛口のワインが高評価を得ています。特に高品質のものは南オーストリアのニーダーエストライヒのヴァッハウ産のもの。太陽の光を浴びた凝縮感のあるドライなワインが生まれます。
ニューワールド
ニューワールドでは、辛口ワインはレモン水、甘口ワインはシロップのようと例えられるように、評価を得るのが難しい品種ではありますが、それでも、それぞれの土地の魅力を活かしたリースリングが注目されています。
オーストラリアでは、クレア・ヴァレーが代表的。酸は比較的穏やかで飲みごたえのある女性らしい味わいのワインが特徴です。
そして、アメリカ・ニューヨークではその豊かな果実味とここちよい酸味が人気のリースリング。近年ニューヨークを代表する品種と言えばリースリングと言われるほど、その需要は高まっています。
アメリカでは、西海岸の北部にあるワシントン州でもリースリングがよく栽培されています。冷涼な気候を活かして、豊かな酸と果実味がある、良質なリースリングが造られています。
ワシントン カン・フー・ガール リースリング チャールズ・スミス・ワインズ 白
Kungfu Girl Riesling / Charles Smith Wines