前回の記事に続き、シニアソムリエ(現ソムリエ・エクセレンス)試験合格までの体験談を紹介していきたいと思います。
今回は第二弾となる「テイスティング編」です。
書き始めたら、かなりの超大作になってしまったので、導入編と試験対策編の2回に分けて説明します。
ちなみに筆者は、2017年の一回目の受験で、筆記試験は合格したものの、テイスティング試験で落ちました。そんな人の話しを聞いても・・・と思われるかもしれませんが、一度失敗した筆者だからこそお伝えできる事もあるかと思い、恥をさらして、失敗から成功までの道のりを包み隠さず書いていこうと思います!
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テイスティング試験は品種当てゲームではない!
前回、筆記試験対策について説明しましたが、筆記試験は「頑張るしかない」ので、あまり必勝法はなかったと思います。
しかしテイスティング試験に関して言えば、もう少しお伝えできることがあるかと思います。
まず、筆者の失敗談についてお話したいと思います。
一次の筆記試験を突破した筆者は、一ヶ月後に迫りくる二次試験対策のために、ワインスクールのテイスティング講座を受講しまくりました。しかし、テイスティングをやればやるほど品種が当たらなくなり、もはや迷走状態に陥っていました。
筆者がソムリエ試験を受験したのは2012年のことですが、その当時のテイスティングの試験対策と言えば、色調を淡い白、濃い白、淡い赤、濃い赤とざっくり4パターンくらいに分け、例えば淡い白でスッキリしていたら、予め暗記していた外観・香り・味わいの特徴をマークシートに塗りつぶす、という練習方法でした。
また、香りにペトロール香が感じられたらリースリング、ハーブ香はソーヴィニヨン・ブラン、黒コショウはシラーといったように、品種の特徴的な香りを探しあて、それに当てはまる品種名と国名を書くといった、今思うと大変お粗末なものでした。
結果的にそれで品種も産地も全問正解してしまったので、当時はこのやり方でいいんだと思っていました。
この「たまたま当たった」成功体験が、次のソムリエ・エクセレンス試験で失敗した要因の一つだと思っています。
2017年のソムリエ・エクセレンス受験に話しを戻すと、昔のソムリエ試験の延長線上でソムリエ・エクセレンス試験の対策を行っていました。
知っている外観・香り・味わいを見つけにいき、感じた特徴的な香りや味わいから先に品種を決定していました。おまけに、たとえ違う特徴があったとしても自分の都合の良い品種の特徴に感覚をすり替えていたのです。
ソムリエの試験では主要品種さえ抑えておけば問題なかったので、上記のようなやり方でも試験をパスできたかもしれませんが、ソムリエ・エクセレンス試験では、ソムリエとは比べ物にならない数の品種が対象となります。その全ての品種の特徴を覚え、暗記することは不可能に近いでしょう。
そして何よりも、出題者であるソムリエ協会が、品種の正誤をあまり重要視していないという事です。
なぜそう言い切れるかと言うと・・・
私は2018年のテイスティング試験に合格した時、品種は全問間違えていたからです。(逆に品種が当たっても不合格になった方もいらっしゃいました。)
そう、品種が当たらなくてもソムリエ・エクセレンス試験は合格するんです!
テイスティングとは論理的に分析すること
品種当てに躍起になり、迷走状態のまま受験した2017年。ある意味、あの時何の実力もないまま、たまたま合格しなくてよかったと思っています。
テイスティングには、品種当てよりももっと重要なことがあると気づけたからです。
それは、「分析する」ことです。
私は2017年のテイスティング不合格後、一からテイスティングの勉強をし直しました。様々な本を読み、テイスティング講座にも通いました。
そこで見えてきたことは、テイスティングとはとてもロジカルな作業だな、ということでした。
テイスティング試験は視覚、嗅覚、味覚、触覚などを使うため、「感覚」が物を言う試験だと思われがちですが、感覚を磨くことだけに囚われてはいけません。
これはソムリエ協会が出版している石田博ソムリエ著の「テイスティングは脳でする」に書かれていることで、
とおっしゃっています。
この「脳」で行う作業には、感覚の精度よりも知識の量が必要だと思います。
テイスティングは、感覚で捉えた情報を、自分の知識を当てはめて分析し、総合的に判断し、結論を導き出していくからです。
例えば、外観の「輝き」の項目について分析する時に、ワインの輝きを左右する要因について知らなければなりません。
酸度が高いワインは色素が安定するので輝きが強くなりますし、フィルターを用いて濾過されたワインも輝きが増します。この様に、輝き方を見るだけで、味わいや醸造方法が推測できのる訳です。
テイスティングには「外観」「香り」「味わい」の中に細かなチェックポイント(外観なら、清澄度・輝き、色調、濃淡、粘性・・・)がありますが、それぞれの項目には当たり前ですが意味があり、現象には必ず理由があります。その理由をしっかりと理解することで、それらの知識から、総合的に分析することができるのです。
私が色々な本を読んだ中で、それが最も分かりやすく書かれてたのが谷宣英ソムリエ著の「ワインテイスティング バイブル」です。この本の内容さえ理解しておけば、テイスティング試験で必要な知識が一通り得られると思います。
この本は大きく3章に分かれていて、第1章ではテイスティングで分析するためのテクニックが論理的に書かれています。そして2章では品種・産地・醸造の情報、第3章ではテイスティングの実践、という構成です。
また、谷ソムリエのテイスティング講座を何度か受講させて頂いたのですが、ロジカルに解説してくださり、大変勉強になりました。試験勉強中は、時間がないかと思いますが、試験終了後に自身のテイスティング能力を高めるために受講したい講座だと思いました。
(※谷ソムリエ激押しですが、筆者は回し者でも知り合いでもありません。)
10のテイスティングよりも1の深堀り
沢山飲めば飲むほど分からなくなってしまった筆者の実体験から言うと、テイスティングは量よりも質が大事だと思います。
10種類テイスティングできる時間とお金があるならば、1種類に集中して時間をかけ、さらにテイスティング後にワインの醸造方法や生産者の特徴、産地、土壌の特徴、さらにはその国の歴史や流行や情勢など、とことん掘り下げて調べた方がいいです。
そうすると、品種が間違っていたとしても、自分が感じた外観・香り・味わいの特徴が、何に由来するのか、逆に感じられなかった特徴は何だったのか、自分の分析は何が間違っていたのか、合っていたのか、などを理解することができます。
例えば、ソムリエ協会主催のフォローアップセミナーのテイスティングで、「甲州 オランジュ・グリ/マルス山梨ワイナリー」が出題されました。
一般的な甲州の特徴は、透明に近い淡い色調で、香りの要素は少なく、白桃やリンゴの穏やかな香り。味わいは果実味、酸味、アルコールも穏やか、といったところでしょうか。
しかしこのワインは・・・
香りは若々しく華やか。よく熟したバナナ、マルメロ、和柑橘、ネクタリン、花、、白いバラ、ライラックなどのフローラルが香りに、紅茶を思わせる茶葉のニュアンス。第3アロマはなく、嫌気的な醸造で造られたと思われる。
フレッシュでジューシーな味わいが特徴で、酸はあるが丸い横に広がる酸で、アフターにキメの細かい渋みがある。残糖もやや感じられる。
といった特徴でした。
さすがに、こんな変化球な問題は試験にでないと思いますが、ここで大事なのは「なぜこの様な特徴になったか」を分析することです。
外観ですが、甲州はもともとグリブドウであり、果皮はだいぶ紫色をしています。長時間マセラシオンするとロゼ色に染まるほどです。さらに、粘性が高い要因を推察しましょう。アルコール度数の高さなのか、グリセリン量の多さなのか・・・と考えながら先に進んでみます。すると味わいで残糖が感じられ、粘性の高さはグリセリン量(糖度)に由来していた事が分かります。
香りも、一般的にイメージする甲州の香りとは印象が全く異なりますが、白ワインで表現されるフルーツ香がありながらも、茶葉などの渋みを連想される表現があるとこから、何らかの白ぶどうを使用しマセラシオンしている、と考えます。
またマセラシオンしている白ワインやロゼワインは、マセラシオンの時間が重要になります。なので、テイスティングと分析が終了したら必ず、マセラシオンの時間を調べるようにしましょう(残念ながら、このワインはHPを見ても載っていませんでした。)
今回のワインは渋みが細やかで優しく、オレンジの色調も淡いため、長時間のマセラシオンは行っていないと推察されます。
また、甘みを残しているのも特徴的です。特に日本では黄色系の淡いオレンジワインが造られ、やや糖を残す造り方をするところが多いそうです。(フォローアップセミナーでの解説より)残糖は30g/L、総酸度は9.9/L。
この様に調べていくと、品種は当たっていなくても、自分が感じとった違和感も理解することができ、決して自分の感覚が間違っていなかったことが分かります。
1つのワインについて情報収集し深堀りしていくことは、自身の感覚と理論をつなぎ合わせる上で重要な作業なのです。
筆者は、だいたい1ワインにつき、テイスティング分析と情報収集で、30分くらいかけ、ノートの半ページから1ページくらい書き込みをしていました。
「品種・産地」の答え合わせではなく、「ワインの特徴」について答え合わせをする!
ちなみにこの訓練は、スクールに行かずとも、みんなで集まってワイン会をせずとも一人でもできます。品種や銘柄が分かった上でテイスティングしても問題ありません。外観・香り・味わいと感じた特徴を書き込み分析した後に、ワイン情報を徹底的に調べ、特徴の答え合わせをしていきます。
むやみやたらに複数の品種を飲んで経験値を上げるよりも、1点に集中し掘り下げた方がよっぽど効果的な訓練だと思っています。
テイスティングのフォームを確立する
テイスティングには型(フォーム)があります。
前述した通り、テイスティングには「外観」「香り」「味わい」の中に細かなチェックポイントがあり、それらには全て意味をもっています。
このチェックポイントを、セオリー通りに一つ一つ順を追って確認し分析していく必要があります。間違っても昔の筆者の様に、先に品種を決定し項目を埋めるような方法はとってはいけません。
「それじゃあ、フォームはどうやってつくればいいの?」と不安に思った方もご安心ください!
テイスティングのフォームを、ほぼパーフェクトにまとめてくれているのが、谷ソムリエのワインテイスティング バイブルの付録にある「テイスティングコメントシート」です!
(※何度も言うようですが、決して谷ソムリエの回し者ではありません。)
このテイスティングコメントシートの選択部分を埋めていけば、完璧なフルコメントが完成します!
チェックポイントの漏れがないよう、テイスティングコメントの一連の流れをしっかりと頭に叩き込んでください。
寝ても覚めても・・・まるで呪文のように・・・
「外観の色調は輝きのある、淡い、緑がかった黄色で~」
と唱え、繰り返し練習することで、フォームを確立していきましょう。
またフォームの確立は、それだけに留まりません。
私は常に同条件でテイスティングできるよう、環境にも配慮していました。
外観から始めて一連のテイスティングの動作、ワインを口に含む量、テイスティングする前に飲む飲み物、テイスティングの時間帯、もちろん香水は論外、香りのあるものを極力身にまとわない、使用する整髪料やリップクリームも指定、シャープペンシルと消しゴムは常に同じものを使う、テイスティング直前までマスクを付け外部の香りに影響されないようにする、、、など。本番を意識し、なるべく同条件でテイスティングが出来る様に心がけていました。
そして同じ事を繰り返し、同条件で行う事で、「自分の感覚の癖」や「体調による感覚の変化」にも気づけるようになりました。
筆者の場合、一口目のワインは酸味が強く感じてしまったり、一ヶ月の中でも体調が大きく変化してしまうため、嗅覚・味覚に微妙なズレが生じてしまいます。
そういった感覚のズレは、多かれ少なかれ誰しもあると思います。自分の味覚がおかしいと責めるのではなく、自分の感覚の癖をしっかりと知り、意識的に調整することで、周りと同じ様に特徴を捉えることができると思います。
最後に・・・
今回は、テイスティング試験で不合格となり、その後どの様に意識改革し、テイスティングと向き合ってきたかを書きました。
こんなに偉そうなことを言っていますが、筆者はどちらかと言うと極端な性格で、要領が悪い方なので、全てが正しいとは思いません。
また最短で資格取得を目指している方には、ちょっと遠回りなアドバイスをしてしまっているかもしれません。
ですが、いちソムリエとして、自分なりにテイスティングと真剣に向き合ってきた体験談が、誰かの役に立てたら嬉しいなと思います。
さて、次回はいよいよソムリエ・エクセレンス試験のテイスティング対策として、具体的にどのような勉強をしてきたのかの試験対策編を書き綴っていきたいと思います。
それではまた来月!乞うご期待ください!
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