テンプラニーリョはスペインを代表するワインのぶどう品種です。名前の由来のとおり、9月中旬に収穫が始まる早熟な品種で、長期熟成に向いた、フルボディタイプの赤ワインが造られます。
生ハムにも最高の相性でずっとスペインの人々に親しまれ、あの文豪も愛したスペインワイン、そのもととなるテンプラニーリョ種について紹介していきます。
栽培面積世界第4位だが産地はほぼスペイン、ポルトガル
テンプラニーリョというとスペインワインを思い浮かべる方が多いでしょうが、そのイメージは間違っていません。
といのも、テンプラニーリョは栽培面積では世界第4位ですが(※)、そのうちの実に95%をスペイン及び隣国のポルトガルで栽培しているからです。
※2015年O.I.V.(国際ぶどう・ぶどう酒機構)データより
ポルトガルでは主にポートワインのブレンドに使用されることから、テンプラニーリョを主体にしたワインはほぼスペインワインといっても過言ではないでしょう。
その歴史は古く、古代ローマ時代にはすでにスペイン、ポルトガルを含むイベリア半島全土で栽培されていたとされています。
その後、7世紀ごろのイスラム支配時代にいったん衰退しますが、レコンギスタ以降再び盛り返し、現在ではフランス、イタリアに続く世界第三位のワイン生産国となったスペインにおいて、常に中心にあったのがテンプラニーリョ種とです。
テンプラニーリョの語源は、スペイン語の「テンプラーノ」(早熟な)からきていますが、その名の通り、通常のぶどうよりも早熟で9月中旬には収穫期を迎えます。
スペインの中でワインの産地として有名なのはリオハやリベラ・デル・ドゥエロ、ナバーラといったところですが、いずれもテンプラニーリョを栽培地です。
テンプラニーリョ単体で造られるワインももちろんありますが、その他の種別とブレンドされることが多い品種です。たとえば、リオハワインではグルナッシュを、リベラ・デル・ドゥエロではカベルネ・ソーヴィニョンをブレンドするのが一般的です。
スペインといえば、ノーベル賞作家ヘミングウェイの代表作、「誰がために鐘はなる」の舞台としても有名ですが、彼はリオハの代表的なワイン、パテルニナを愛し、ワイナリーにも足しげく通っていたという逸話が残っています。この文豪が愛したリオハワインももちろん、テンプラニーリョ種です。
テンプラニーリョの特徴
テンプラニーリョは黒ぶどう品種で、果皮が厚くこぶりなぶどうです。テンプラニーリョは高温でよく育ちますが、その一方で味に深みをもたらすためには、冷涼な環境も必要とされています。
この点、高地のリオハや冷涼な気候のリベラ・デル・ドゥエロは、まさにテンプラニーリョにうってつけの土地だったのではないでしょうか。
香り豊かでタンニンも豊富ですが、カベルネ・ソーヴィニョンほど強くはないため、アメリカンオーク樽で長期間熟成させるのが伝統的な製造法です。
しかし、近年になって栽培面積が急速に拡大したため、リオハなどの伝統的な産地以外では瓶熟成で果実味を前面に押し出したものや、フレンチオークによる小樽熟成のものなど、様々な製法が取り入れられています。
テンプラニーリョの香りは一般的にイチゴやプラムにたとえられますが、長期樽熟成したものは、スパイシーでたばこやなめし皮の香りも加わるとされています。
テンプラニーリョから造られたワインは赤色で、紫を帯びた深い色合いが特徴です。
テイストについては、伝統的なオーク樽で長期熟成されたものやフレンチオーク樽で熟成されたものはスペイン人好みのフルボディで濃厚なタイプとなりますが、最近は柔らか味のあるミディアムボディのものも増えてきたようです。
なお、現在はテンプラニーリョと言えば赤ワインですが、かついてスペイン北西部のカスティーリャ・レオン州にあるワインの産地、シガレスではテンプラニーリョをベースにしたロゼワインが造られていたこともあります。
しかし、90年以降、この土地の有力な生産者たちが、その価値に気がつき、高品質な赤ワイン造りに転換したというエピソードがあります。
スペインで愛されていることからわかるように、生ハム(ハモンセラーノ)との愛作用は抜群、樽で長期熟成されたものは肉の煮込み料理などにも合うとされています。
センシベル、ティント・フィノ、ウル・デ・リェブレ…全てテンプラニーリョの別名
テンプラニーリョは複数の別名(シノニム)をもつ品種としても知られています。
スペイン国内においても、センシベル(ラ・マンチャ地区)、ティント・フィノ、ティント・デル・パイス(リベラ・デル・ドゥエロ地区)、ウル・デ・リェブレ(カタルーニャ地区)、ティンタ・デ・トロ(トロ地区)、ティンタ・デ・マドリッド(マドリッド地区)、そしてお隣のポルトガルではアラゴネスといった具合に産地によってそれぞれ別の名称があります。
別名が多数ある理由は諸説ありますが、代表的なものとしては、テンプラニーリョは歴史が古く、各地に伝わっていく間に読み方やつづりなどが現地の言葉に置き換えられていったというもの。
また、もともとその土地で栽培されてきたぶどうの木に地元の人が名前をつけた、という説もあります。
いってみれば、「おらが村のワイン」と思ってきたぶどうの木を調べてみたらテンプラニーリョだったということで、呼びなれない名称よりも代々伝わる「ティント・フィノ」の方がしっくりくる、ということなのかもしれません。