トスカーナの二大産地!キャンティ&ブルネッロ古酒ワインを垂直テイスティング

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トスカーナを代表する産地、キャンティとブルネッロ・ディ・モンタルチーノの1960年~1990年代の希少な古酒を比較試飲する機会に恵まれました。

古酒ワインの味わいの違いは、熟成期間や作柄はもちろんのこと、社会情勢や風潮、ワイナリーの歴史や哲学なども、味わいに大きな影響をもたらしています。

それらの時代背景を紐解きながら、トスカーナ二大産地である、キャンティとブルネッロ・ディ・モンタルチーノのバックヴィンテージワインについて解説してきます。

トスカーナを代表する造り手バルビ&セルヴァピアーナの古酒ワイン

今回試飲したのは、キャンティ・ルフィナとブルネッロ・ディ・モンタルチーノそれぞれの産地を代表する造り手から、60年代から90年代まで全11アイテムを垂直テイスティングしました。

ファットリア・セルヴァピアーナ (キャンティ・ルフィナ)


キャンティ・ルフィナ 2016 ファットリア セルヴァピアーナ 赤

広大な栽培面積を誇るキャンティの中で、キャンティ・ルフィナの栽培面積は750haと、比較的小規模な生産地です。トスカーナ州とエミリア・ロマーニャ州を隔てるアペニン山脈の山間に位置し、山からの涼風とシエーヴェ川の影響を受けるエリアです。

夏場は涼しく、朝夕の寒暖差が大きいことから、ブドウの生育期間が長く自然と酸味が残り、アロマが華やかでシルキーなタンニンと長い余韻をもったエレガントなワインを産み出すことができます。

セルヴァピアーナは、1827年にミシェル・ジュンティーニ氏の手に渡ってから、200年近く同じ一族が受け継ぐ家族経営のワイナリーです。伝統を守り、キャンティ・ルフィナの特徴を表現したワインを造る最良の造り手として、古くから名が知られていました。

所有するブドウ畑は60ヘクタール。そのうち54ヘクタールにサンジョヴェーゼが植えられています。

セルヴァピアーノの信条は、「テロワールの特徴を表現し、長期熟成に耐えうるワイン造り」です。1979年には、サンジョヴェーゼ100%の単一畑ワイン「ブッチェルキアーレ」をリリースし、サンジョヴェーゼのポテンシャルとルフィナのワインが持つ長期熟成の可能性を世に実証しています。

ファットリア・ディ・バルビ (ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ)

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2013 ファットリア・ディ・バルビ 赤

ファットリア・ディ・バルビを所有するコロンビーニ家は、西暦1000年にはその存在が確認されているシエナの名門貴族です。ワインのラベルにデザインされているのはコロンビーニ家の紋章で、金色の十字架で分割された青い野原に、名字そのものの小さな鳩たち(イタリア語で鳩はコロンバ)が描かれています。

ファットリア・ディ・バルビとしてワイナリーが創設されたのは1790年ですが、1352年には既にモンタルチーノのブドウ畑を所有していた、という記録があるほど長い歴史をもっています。

またバルビは「イタリア産ワインの革新者」とも称されています。これはブルネッロが世に出る前の1832年、当時無名だったモンタルチーノ村で「イタリア産」でも「トスカーナ産」でもなく、「モンタルチーノ産」のワインとして輸出を開始し、フランス、アメリカ、イギリス、そして日本へと次々に販路を拡大していき、世界にモンタルチーノの名声を築き上げた立役者でもあったからです。

1世紀以上前からブルネッロを造り続けるバルビのワインセラーには、最も古い1892年産のブルネッロが、2本だけ大切に保管されているそうです。

気になるそのお値段は・・・正確には教えてくれませんでしたが「車が買えるくらいの金額かな?」との事でした。どんな車かにもよりますが、きっとイタリアの高級車が買えるお値段を出したとしても、歴史的に価値のある1892年産ブルネッロを手放すことはないのかもしれませんね。

歴史から紐解く、古酒ワインの味わい

キャンティ、そしてセルヴァピアーナの歴史

「垂直テイスティングは、セルヴァピアーナとキャンティ・ルフィナの歴史を思い出させる魅力的なイベントだ」と当主は言います。

50年代~60年代のトスカーナは、穀物と果実の混合耕作が行われ、「メッザドリア」と言われる折半小作人制度が普及していた時代。地主が都市部に住み、小作人が畑を管理するといった状況で、当たり前のことですが良質なワインができるような環境にはありませんでした。

当時のセルヴァピアーナでは、生きた楓の樹を支柱にブドウ樹を巻きつけ仕立てる、非常に古いスタイルでした。収穫は10月10日に始まり、コンクリート製の樽と5、6年使用した栗の木の古樽を使用し熟成していました。

70年代のメッザドリア廃止は、キャンティ地区のワイナリー運営に劇的な変化をもたらしました。ブドウ専用の農園がつくられ、化学革新により化学肥料や農薬が使用され、ワインが量産されるようになりました。60年代~70年代のトスカーナは、質よりも量の時代だったのです。

70年代後半になると徐々にワインの品質が回復していきます。

80年代には、サンジョヴェーゼに注目し、品質に応じてワインを生産する造り手が増えていきました。

モンタルチーノとバルビの歴史

バローロ、アマローネと並びイタリア高級ワインとして絶大な人気を誇るブルネッロですが、歴史は意外にも浅く、ブルネッロが誕生したのは19世紀後半のこと。

生産者たちが本格的に造り始めたのはなんと1967年以降と、たったの50年程です。

そんな中でバルビは、ブルネッロの生みの親ビオンディ・サンティとほぼ同じ時期である、1892年にブルネッロ・ディ・モンタルチーノのボトリングを開始しています。

1970年代のモンタルチーノは、ブドウ栽培に関する技術が発達しておらず、機械の導入も1990年に入ってからでした。

そのため1970年当時のワインは、造り手の経験によりブドウを見極める事でしか良いワンを造ることが出来なかったのです。

来日されたバルビの輸出マネージャー、ラファエラさんはこう話しています。
「コロンビーニ一族は、代々受け継がれた手法と知識をもっていたから、70年代も良いワインが出来ていたと思う。当時の農夫たちはまだまだアマチュアだった。」

しかし60年代~70年代のモンタルチーノは、他のトスカーナのワイン産地と比べると、確固たるアイデンティティを既に確立していた産地でした。

サンジョヴェーゼ100%であることや、樽熟成期間は4年以上といったように厳しい規定があり、この熟成に耐えうるためには最良のブドウを使用する必要がありました。

質より量が主流となっていたトスカーナワインの風潮をよそに、早くから高品質なワインを維持すべくモンタルチーノの生産者たちが団結し守ってきたのです。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノがDOCに認定された1967年当時は、生産者も数社しかいませんでしたが、その後パリや博覧会で賞を獲得するなどして世界に広く知られるようになり、1980年にはDOCGに認定された初期ワインのひとつにまでなりました。

1960年代~1990年代古酒ワインを垂直テイスティング!

キャンティ、モンタルチーノともに転換期となった1960年~1990年代。歴史的に重要な時期に生み出された古酒ワインを、一挙に垂直テイスティング!

このセミナーが大変興味深かったことの一つに、通常テイスティングする時は、産地ごと、生産者ごとにテイスティングしていくのですが、今回のセミナーではキャンティとモンタルチーノの順番はごちゃまぜに、若いヴィンテージから古いヴィンテージへとテイスティングしていきました。

面白いもので、違う産地であっても同じヴィンテージで共通点が見つかったり、逆に産地の違い、歴史の違いをより深く理解することができたりと、新しい発見がありました。

それでは、お待ちかねのティスティングです。

1)Chianti Rufina Riserva Vigneto Bucerchiale 1990

1990年はトスカーナの偉大なヴィンテージとして知られ、大変暑かった年です。
タンニンがリッチでしっかりとした骨格があります。暑い年らしいパワフルさが魅力です。

2)Brunello di Montalcino 1989

1989年は夏に雨が振り、非常に難しい年となりました。そのためブドウの選定をドラスティックに行い、最良のブドウだけを使用しワインを造りました。
今だに赤い果実の香りがあり、若々しさを感じさせます。繊細さがありますが、あと10年は熟成すると思います。

3)Brunello di Montalcino 1982

1982年は春は気候が落ち着き、夏は暑く、秋は昼夜の寒暖差があった年で、ストラクチャーがしっかりとしたワインになりました。
非常に古典的なスタイルとなり、黒系果実が主体でありながら、しっかりと酸が支えています。

4)Chianti Rufina Riserva 1982

1982年は暑い年で良年です。1982年~1969年は全て伝統的な栗の木を使用した樽で熟成しています。
こちらも大変クラッシックな味わいになりました。フレッシュでアーシーな土っぽい香り。タバコ。口に含むと、何度も何度も味わいが蘇ってくるような複雑さと深み。タンニンはしっかりとしていますがまろやかで、酸味と旨味が余韻まで長く続きます。個人的にはこのワインが一番好きな味わいでした。

5)Brunello di Montalcino 1981

82年と肩を並ぶ良年の1981年。
芳香性豊かでフローラル。バルサム、ドライフルーツ、ナッツ、森の下生えなど秋を感じる香りがあります。エレガントな味わいです。

6)Chianti Rufina Riserva 1980

サンジョヴェーゼ100%で造ったキャンティです。実はこの年は醸造中に誤ってMFLが完了しなかった失敗作で、出来たてはかなり硬かったそうです。そのためボッテ(大樽)で7年熟成したそうです。ところが、これを今飲んでみると40年前とは思えない若々しい酸が残り、フレッシュさのある大変興味深いワインへと進化していたのです。
この経験から、2019年は試験的にあえて一部のワインをMLFなしで醸造し、20年後の経過をみる、とおっしゃっていました。

7)Brunello di Montalcino Riserva 1975

1975年は、第二次世界大戦後最良のヴィンテージ。
アニマリーな深い香りで芳香性豊か。花、草、森の下生え。しっかりと酸が残り、若々しささえ感じられる、素晴らしい状態でした。「スーパークラシカルなヴィンテージ」と造り手の方はおっしゃっていました。

8)Brunello di Montalcino Riserva 1973

ストラクチャーがやや弱めな年。
75年と比べても、たったの2年しか違わないはずなのに、熟成が進んでいてピークが過ぎていました。

9)Chianti Rufina Riserva 1973

メッザドリアが終了した年。ブドウ専用畑の改植がされていった時代です。メッザドリアが終了すると、EUから助成金が出たそうで、ブドウの改植がどんどん推し進められ、化学肥料を使用し、「質ではなく量」を求める時代でした。
熟成期間の違いはありますが、80年のRufina Riservaと明らかに違うのが「甘い香り」でした。ベッコウ飴のようなお菓子の甘さが感じられますが、味わいは旨味と酸味が備わっており至ってドライです。

10)Brunello di Montalcino Riserva 1971

赤系果実、バルサムの香り。50年近く熟成されているにもかかわらず、酸化のニュアンスがなく、しおれず生き生きとした活力がまだ残っています。とてもバランスがよいです。

11)Chianti Rufina Riserva 1969

混合耕作の時代のブドウ樹です。セラーは大戦時に爆弾が落とされ、大戦前のワインは殆ど残っていないそうです。このワインはサンジョヴェーゼの他に、トレビアーノ、マンモーロ、コロリーノなどがブレンドされています。発酵・熟成は栗の木樽で、リコルクもしていないそうです。
コーヒー豆、栗などのこっくりとしたアロマ。酒質は弱く柔らかい印象ですが、コクと生き生きとした酸味がまだ残っていました。

トスカーナの古酒ワイン一覧

残念ながら、今回試飲したバルビとセルヴァピアーナのバックヴィンテージは仕入れる事ができませんでしたが、当店では様々なトスカーナ古酒ワインを取り扱っています。

是非そちらもチェックしてみてください!

ドラジェ取り扱いトスカーナ古酒一覧>>

古酒ワインの魅力とは?

トスカーナの古酒ワインに限らずですが、古酒ワインは難解で、扱いづらく、万人受けするような味わいではありません。どちらかと言えば、玄人向けなお酒です。

しかし古酒ワインを飲むことで、味わいを楽しむ以外に、まるでその時代にタイムスリップしたかのように、当時の情勢や人々の暮らし、文化、思いなどに触れ合うとこができました。

そんな当時に思いを馳せながら楽しめるお酒、それが古酒ワイン魅力なのではないでしょうか。

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