ワインの栓は奥深い!進化を続けるワイン栓の世界

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ワインコルク

 

ワインを飲むときに、必ずしなくてはならないこと…

それは、ワインの栓を抜くこと!

抜いてしまった後のワインの栓、じっくり眺めたことありますか?

実はすごい進化を遂げている、奥深いワインの栓のあれこれについて、お話しします。

ワインの栓 コルクについて

コルク樫

まずはやっぱり、天然コルクのワイン栓のお話しから。

今ではなくてはならないワインの栓ですが、16世紀ワインの運搬や保存のためにガラス瓶が使用されるようになってから、急激に需要が伸びました。

いちばん初期のワイン栓は、天然コルクを使用したもの。今でもワイン栓全体の11%は天然コルクから作られたものです。

天然のコルク栓は、剥費したコルク樫の樹皮をくり抜いて、コルク栓は作られますが、コルクの最大にして最高の産地はポルトガル。地中海沿岸で吹く偏西風から身を守ろうと樹皮が厚くなり、良質のコルク樹皮が採取できるそうです。

このコルク樫、20年ほどで成木になるのですが、それから9年おきに剥皮が可能で、なんと樹齢150年超の古木になるまで採取が可能なすごい木なのです。

 

余談になりますが、ワインのお供におすすめなスペイン産生ハム”ハモン・セラーノ”。ご存じの通り、イベリコ豚から造られますが、イベリコ豚の中でも、このコルク樫のどんぐりを食べて育ったイベリコ豚、イベリコベジョータで造られたものが最高級品だと言われています。

ワインとコルクとハモン・セラーノ…こんなところにも繋がりがあるんですね。

ワイン栓とコルク臭(ブショネ)のおはなし

嫌な臭い

 

ワインの栓のお話をする上で必ず出てくるのが、コルク臭、すなわちブショネの問題。カビや古い湿ったダンボール、濡れた雑巾のような、なんとも気が滅入ってしまう臭いです。

このげんなりしてしまう臭いのもとは、TCA(トリクロロアニソール)という化合物。このTCA、わずか5pptという低濃度(別の尺度に置き換えると、600年のうちの1秒ほどに相当)でもほとんどの人が感知してしまほど,強力なものです。

TCAは,真菌などの微生物の代謝産物と塩素が反応してできる化合物ですが、前駆物質となるフェノール類と塩素源があればできてしまうのです。

 

私たちの手元にワインが届くまでに、ワインがTCAに汚染されてしまう=ブショネが起きる原因はコルク栓だけではありません。極まれに古い木造の醸造施設がTCAに汚染されているために、ブショネが起きる可能性もなきにしもあらずなのです。

すなわち、スクリューキャップのワインであっても、醸造施設やワイン樽が汚染されていれば、不幸にしてブショネのワインにあたってしまう可能性はある訳です。ただし、ブショネの大半の原因はコルク栓にあると言われています。

ワインテイスティング

ただ、2000年ころのワインコンペティションでは概ね5%がコルク臭があるという話が主流でしたが、2006年のInternational Wine Challengeでは、出品13477本、コルク臭が原因で除外されたのは2%のワイン。ブショネのワインが過去のものになる日も、そう遠くないのかもしれません。
 

代替コルク=代替ワイン栓のおはなし

天然コルクには品質にばらつきがあり、折れたり、時には液体が漏れてしまう、そしてやはり高価である等の問題点がありました。

 

天然コルクワイン栓の代用として、登場したのが、合成コルクのワイン栓(プラスチックの栓という方が想像しやすいでしょうか)やテクニカルコルクと呼ばれる圧搾コルク

プラスチック栓
1980年代に開発されたのは、プラスチック製のワイン栓(合成コルク栓)

当時のプラスチック製のワイン栓は、非常に安価ではありましたが、抜栓再栓が難しく、酸素透過量が多いことが難点でした。しかしその後改良が進み、やはり安価であることも手伝って90年代半ばには、市場でも注目が集まり始めました。

現在では、サトウキビを原料としたバイオエタノールから生成したポリマー樹脂を使用した環境に優しいワイン栓が、世界中で50社を超えるメーカーで製造されています。

 

圧搾コルク

時を同じくして開発されたのが、圧搾コルク

商業ベースでは、1995年にフランス サバテ社が天然コルクの微細粒を接着剤で固めた「アルテック」を販売しました。

当初はTCAを除去でき、低コストで生産が可能、合成コルクのワイン栓と違って、抜栓再栓が安易なことから、もてはやされましたが、2000年代になり、TCAすなわちコルク臭の問題が頻繁に起きるようになりました。

一部の汚染されたコルクを粉砕して使用することで、圧搾コルク全体にコルク臭が広がってしまうという悪循環が起きていたのです。

 

その後、研究開発は進み、新しい圧搾コルク=新テクニカルコルクが誕生。

2005年にはフランス エネオ社(前身は前述のサバテ社)は、フランス原子力庁の協力を得て、超臨界のCO2を使う技術を使用し(この技術はカフェイン除去にも使われているそうです)TCAの除去に成功した圧搾コルク「DIAM」を発表しました。

ワインのコルク

 

2013年にポルトガルのアモリム社からは圧搾コルクの上下にだけディスク状の天然コルクを使用した「ツイントップ」が発売されています。上の写真、真ん中のワイン栓の上下には、円盤状のコルクが使われています。

前述のアモリム社、2020年までにはすべての商品をTCAフリーにすると2018年に言及。

そして、アメリカに本拠を置くコルクサプライ社は、2018年に同社のテクニカルコルクVINCシリーズのコルク栓に対して、ワインにTCA汚染が発生した場合、そのワインを返金保証すると発表しています(保証の対象は同社のワイン栓を使用したワイナリー)。

TCA=ブショネ(コルク臭)を排除する取り組みは、ワイン栓のメーカーにとって、飽くなき課題なのかもしれません。 

代替ワイン栓のひとつ スクリューキャップのおななし

スクリューキャップ

 

スクリューキャップのワインと聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?

スクリューキャップの先進国とも言えるオーストラリアやニュージーランドでは、どんな等級のワインであれ、スクリューキャップが主流。近年、両国のワインの90%以上はスクリューキャップです。


ワイン栓としてスクリューキャップ(ステルヴァン)が登場したのは、1959年にアメリカのガロ社が最初。

商業ベースでは1970年代にスイスのワインメーカーの半分が、コルク臭の問題からスクリューキャップを採用しましたが、このブームはスイス国外へと広がりを見せることはありませんでした。

同じ時期にワイン栓の問題に悩まされていたのが、ワインにおいてはニューワールドともいえる、南半球のオーストラリアやニュージーランド。

良質のコルク栓は、長年の顧客であるいわゆる旧世界のワイン産出国の手に渡ってしまい、ワイン新興国のオーストラリアやニュージーランドには、質の悪いコルク栓しか割り当てられませんでした。またコルクの生産地であるポルトガルから遠かったことで、輸送コストが大変かかりました。

そこで、コルク製ワイン栓の代用としてスクリューキャップの開発が進みましたが、コルク栓を使ったワインの方が上等であるとのイメージから、当初は普及にストップがかかってしまいました。

ぶどう畑

流れが変わったのは、2000年。

オーストラリアの中でも有数のリースリングの産地であるクレアヴァレーの優良生産者13名がが主導して、コルク臭の問題を避けるため、彼らが今後発売するリースリングについては、すべてスクリューキャップを使用する声明を発表しました。

彼らの努力の甲斐あって、スクリューキャップのワイン=安くて品質の良くないワイン、というイメージは少なくなりました。

その流れは、そのままお隣のニュージーランドへ。市場から大きな支持を受け、2013年末時点で99%以上のニュージーランドワインにスクリューキャップが使われています。

ワイナリーの食卓

スクリューキャップのメリットとして挙げられるのは、なんといってもコルク臭(ブショネ)の割合が圧倒的に低いこと。

コルク栓の風味がワインに付与されることもなく、開栓・再栓が簡単にでき、保存も容易であること、安価であるなど良いことづくめです。ただし、20年以上の保管に関しては、ワイン栓そのものの耐久性を疑問視する声もあります。

また、スクリューキャップはコルク栓に比べて気密性が高いことから(スクリューキャップでも僅かながら空気の透過はあります)、ワインの瓶内熟成がゆっくり進むなど、その利点を生かしたワイン造りをする醸造家も現れています。

しかしながら、瓶内が嫌気的な環境になるため、今度は還元臭が発生しやすくなるというジレンマが起こることも事実で、昔ながらのワイン栓であるコルク栓に戻ってしまう生産者がいる事実もあります。

 

スクリューキャップについては、いかに空気透過量のコントロールできるワイン栓を作ることができるか、世界中のメーカーがしのぎを削っている訳なのです。
 

新しいワイン栓のおはなし

ZORK

最後に、新世代ともいえるワイン栓を2種類ご紹介します。

そのひとつが、コルク栓でもなくスクリューキャップでもない、スパークリングワイン用の栓「ZORK」です。

スパークリングワインは一度開けてしまったら、その日のうちに飲み切らないと!という心配は、この「ZORK」栓を使ったスパークリングでは不要です。なんとこの「ZORK」、再栓することが可能なスパークリングワイン栓なのです。(再栓できるのは、残念ながらそのワインに限ります)

そして、スパークリンワインのコルク栓を開けたときにする「ポン!」という音、「ZORK]を開けた時にも、ちゃんと鳴るように設計されています。今のところ、あまりお目にかかることのないワイン栓なので、開け方に困った時は、こちらをご覧ください。

ZORKの開け方はこちら

 

もうひとつご紹介したいのが、ドイツ ALCOA社が2004年から市販をはじめたガラスでできたワイン栓「VINO-LOK」。様々な改良を重ね、現在ではドイツやオーストリアの醸造家を中心に、世界中で採用されているワイン栓です。

この「VINO-LOK」、もし手にする機会があったら、ぜひそのまま手元においておくことをおすすめします。ほとんどのワインの瓶のワイン栓として代用が可能なのです!また鉛を一切含まない透明なガラスでできていて、見ていてとても美しいワイン栓です。なかなかお目にかかれないのが、残念なのですが…。

ワインの栓で、ワインの味が変わる?

ワイン実験

 

今回の記事を書くにあたって、面白い実験を見つけたので、ご紹介したいと思います。

「ワイン栓の違いがワインの味の感じ方に、どんな心理的な影響を与えるのか」ということを、2017年にオックスフォード大学の心理学者Charles Spence教授が、中身の全く同じワインを使って140人の被験者に実験をしたそうです。

 

まず、コルクを開ける「ポン!」という音を聞いてから飲んだワインと、スクリューキャップを開ける「カリッ」という音を聞いてから飲んだワイン、どちらがよりおいしく感じるかを評価してもらいました。

続いて、自分自身でソムリエナイフを使い、ワイン栓を開けた後に飲んだワインと、スクリューキャップを開けた後に飲んだワイン、どちらをよりおいしく感じるかも評価してもらいました。

 

さて、結果はどうだったと思いますか?

色調・香り・印象などの総合的な評価は、コルクのワイン栓の方が15%も高かったそうです。

どちらのワインが好みだったか?という問いに関しては、実に140人中114人もの人が、コルク栓のワインの方が好みだったと答えたそうです。スクリューキャップの方が好みだったと答えたのは13人でした。

おしまいに

アウトドアワイン

 

これまでワインの栓について、いろいろお話ししてきましたが、「やっぱりワインの栓はコルクでしょ!」という方や「いやいや、スクリューキャップの方が簡単だし、すぐ飲める!」と様々な声があると思います。

かくいう筆者はコルク栓を開けるのがあまり得意ではなく、ソムリエの方たちの流れるような所作を見ると、いつも惚れ惚れしてしまいます。

ワイン栓をソムリエナイフで開ける行為、それはワインを飲む気持ちを高めてくれる大切な儀式のようになっているのかもしれません。

ただ、アウトドアなどでは、ソムリエナイフなどの栓抜き不要のスクリューキャップのワインはとても重宝します。


コルクとスクリュー、どちらのワイン栓も、いいですね…。

その時の気分やシチュエーションに応じて、様々な種類のワイン栓からワイン選びができるなんて、本当にありがたい時代になりました(笑)。

 

ワインを開ける時、ワインの香りや味ももちろん大切ですが、ワインの栓に少しだけ思いを馳せてみるのも、なかなか楽しいのかもしれません。

 

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