今は空前の「癒しブーム」であることをご存じでしょうか?
ネット上で「癒し」というキーワードを検索すると、たくさんの情報に溢れています。
家族同然のペットや子供たち、ふわふわのタオルや居心地の良いカフェ。いい香りのする花や森林浴に波の音・・・挙げていったらキリがないほどです。
そんな「癒し」を与えてくれるものの一つに「ワイン」があります。
どうしてワインが私たちに「癒し」を与えてくれるのか、紐解いていきましょう。
そもそも「癒し」ってなに?
正直言って、筆者自身、今まで深く考えたことはありませんでしたが、今回、深く考えてみました(笑)。
日本語の「癒し」。英語だと「healing」や「therapy」「relax」「comfort」「relief」等があります。それぞれの単語のニュアンスや用法に違いはありますが、どれも共通して言えることは「心も体も穏やかで、余計な力が入っていない」状態という感じでしょうか。
そんな状態のことをいわゆる「リラックスしている状態」と我々は呼んでいますが、その時、私たちの身体に起こっていることはどんなことなのでしょう?
人間は「リラックス」している時、脳内の視床下部から、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」や脳内麻薬ともいわれている「β-エンドルフィン」、幸福感をもたらす愛情ホルモン「オキシトシン」等が分泌されています。これらのホルモンが分泌されると、副交感神経が優位になってきます。
「交感神経」と「副交感神経」のこと
私たちの身体では、常に「交感神経」と「副交感神経」が絶妙なバランスを取っています。
いわゆる緊張状態の時は交感神経が優位に立っています。すなわち戦闘モードです。太古の生活を考えてみると、周りのどこに敵が潜んでいるかわかりません。そんな時は、交感神経や優位に立ち、危険から身を守るため、いつでも瞬時に動けるように、周囲にアンテナを張って、緊張状態を保っているわけです。
これもまた、生きていくには大切な、生理機能の一つなのですが、この状態が続くとどうなるか。もうおわかりですよね?常に緊張し、筋肉はこわばり、心も体も非常に疲れてしまいます。
この状態、時代は違えど、現代の私たちに通じるものがあります。情報であふれ、局面は次々に展開し、ひっきりなしに対応を迫られる場面も多々あり、常に交感神経が優位に立っている状態とも言えるのかもしれません。
では逆に、副交感神経が優位に立っているとどうなるのでしょうか?
副交感神経が優位に立つと、血管が広がって血行が良くなると、血圧が低くなり、心拍が遅くなる、というような体の変化が起こります。誰もが感じる「リラックス」している状態です。
では、「リラックスしている状態=副交感神経を優位にする」ためにはどうしたらよいのでしょう?
前述した「セロトニン」や「オキシトシン」など多くのホルモンを分泌する指令を出すのが、視床下部です。私たちの脳の最深部にあり、系統発生学的には、脳の古い部分にあたり、その発達の程度は、動物によって大差はなく、あまり著しい進化がない部分ともいえます。
そして、視床下部の周囲には、辺縁体などの人間の本能をつかさどっている大切な部分がたくさんあります。人間が古来より持っている「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚」の五感を司る部分も、この部分に存在します。
人間が古来から持っている感覚をフルに動かし、脳に様々な刺激を与えること。そうすることで、刺激が電気信号となり、視床下部に働きかけ、諸々のホルモンが分泌される。それがリラックスにつながるのではないかと考えます。
ワインが「癒し」に最適なわけ
ワインとは直接関係のない、小難しい話が続きました。さて、本題です。
ワインがなぜ「癒し」を生むのか?ということですが、グラスに注がれたワインを前にしたとき、皆さんはどうしますか?
まず「どんな色かな?」と外観を見ると思います。次にグラスを口に持っていき、ワインの香りを嗅ぎ、最後に(とうとう!)グラスに口を付け、ワインを味わうことになります。
この一連の動作をすることで、先ほどの五感のうちの3つ「視覚・嗅覚・味覚」を刺激することになっているのです。
五感を刺激するとどうなるか?
ここまで頑張って読んでくれた方なら、ピンと来るはずです。脳が刺激され、体もココロもリラックスされる状態へ近づくというわけです。
ワインの癒し効果① アルコール飲料であること
あたり前といえばあたり前なのですが、ワインはぶどう果汁を発酵させたアルコール飲料です。
ご存じの通り、アルコールを摂取すると、理性をつかさどる大脳新皮質の働きが鈍くなり、本能や感情を司る大脳辺縁系の活動が活発になることで、開放的な気分になったり、元気になったりします。
ワインの癒し効果② ワインの色
ワインの色と言ったら、赤・白・ロゼ(最近ではオレンジワインもありますね)でしょうか。
ただ、一口に赤ワインと言っても、いろいろな赤があります。濃いのか薄いのか、明るいのか暗いのか、ルビー色、それともガーネット色? ワインをよーく眺めて、どんどん視覚を刺激してみてください。
そして「カラーセラピー」なるものがあるように、色が心にもたらす効果には、いろいろなものがあります。
赤 | 「活力・情熱・興奮」強いエネルギーをイメージする色。 自信やパワーにあふれている時に選びやすい色ですが、逆に、元気が欲しい時、自信を取り戻したい時など、エネルギーを補給したい時に選ぶとよい色でもあります。 |
紫 | 古来は宗教色であった色。 心身のバランスを整えてくれる「癒し」の色。 |
ピンク | 心と体を若返らせる色。 心を満たし、人を思いやる温かさを与えてくれる色です。 |
オレンジ | 「夕日」や「炎」をイメージする穏やかな色。 恐怖やプレッシャーなどの心の不安や抑圧を取り除く効果があります。 |
白 | なにものにも染まっていない「無垢」をイメージする色。 物事や感情を一度リセットして、リフレッシュしたいときに効果があります。 |
また、ワインそのものの色だけではなく、個性あふれるエチケットを鑑賞するのも、ワイン飲みの楽しみです。調べてみると、著名なアーティストが手掛けた作品だったり、見ているだけでなんとも癒されるエチケットもたくさんあります。
ワインの癒し効果③ 香り
ワインは香りを楽しむ飲み物だといっても過言ではありません。
ワインに含まれる香気成分はなんと500種類以上!そして自然が作り上げた豊かな香りのブレンドは、ワインによって、すべて異なります。
香りは、その成分が血液にのって、脳に伝わるのではありません。鼻の奥にある嗅細胞に香気成分から受けた刺激が電気信号となることで、私たちは香りを感じます。そして、香りの電気信号は、視床下部近くの大脳辺縁体に直接作用するため、香りを嗅ぐことで、リラックス効果が得られるというわけです。
突然ですが「プルースト効果」という言葉、ご存じでしょうか?
フランスの小説家プルーストの小説「失われた時を求めて」の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸したときその香りで幼少期を思い出す場面があり、そのことから特定の香りが記憶や感情を呼び起こすことを「プルースト効果」と呼びます。
脳の中で記憶を司る部分は脳の古い部分にあり、ワインの香りを嗅いで、その中にどんな香りがするか、記憶をたどって分析することでも、脳が刺激され、リラックス効果が得られることがわかっています。
ワインのアロマとアロマテラピー
ワインのテイスティングコメントで、「レモンのような香り」や「熟したプラムのような香り」などの記述を見かけることがあると思います。
テイスティングコメントで見かけるフルーツの香り、アロマテラピーの世界でも、時々見かける香りがあります。
それぞれの香りにどんな効果があるのか、見てみましょう。
白ワインに多い香り
果物 | ライム | 不安や憂鬱な心をリフレッシュ |
レモン | 頭をリフレッシュして、すっきりしたい時に | |
グレープフルーツ | 明るく前向きな気持ちになれる | |
りんご | 心を落ち着かせる | |
植物 | ハーブ(ディル) | 高ぶった神経を落ち着かせる |
リンデン(菩提樹) | リラックス・安眠できる |
赤ワインに多い香り
植物 | 西洋杉 | イライラしている時、感情を静めてくれる |
果物 | ベリー類 | リラックスできる |
スパイス | クローヴ・シナモン | 元気が出ない時に、気力回復を助けてくれる |
黒コショウ | こころが固まって、物事に無関心・無感動になっている時に |
なりたい気分に応じて、テイスティングコメントを参考にワインを選んでみるのも、楽しいかもしれませんね。
ワインの癒し効果④ 味
最近の研究では、「味」が心理的な変化がもたらすことがわかっています。
五味の一つ目である「酸」。体に1本線が通って、気持ちがしゃきっとします。
二つ目の「苦み」。白ワインの後味に感じることがあると思います。人は苦みから「少しの厳しさ」を感じると言われています。
三つ目の「渋み」。ワインにおいては、ぶどうに含まれるタンニンの量が関係してきますが、渋みは、深い内省の感情をもたらすそうです。
余談ですが、ある研究では、赤ワインに多く含まれるポリフェノールの一種「レスベラストロール」が、愛情ホルモン「オキシトシン」の作用を高め、コミュニケーションを円滑にすることも報告されています。
そして四つ目の「甘み」。甘みは「安らぎ」をもたらすそうです。甘いものを食べるとほっとするのは、納得ですね。
五味の最後「辛み」ですが、これはワインでは味覚として感じることはありません。しかし、風味としては、ローヌのシラーなどに、黒コショウを強く感じるワインもあります。
ワインの癒し効果⑤ ワインそのものの持つ力
これは、筆者の感覚的なことかもしれませんが、いつも前向きで明るい人に遭ったり、心を込めて丁寧に造られているもの、できるだけ自然のままでいるもの等に触れると、なんとなく良いパワーをもらえるような気がします。
ワインは「農産物」です。
手間を惜しまず丁寧にぶどうを造り、それを心を込めて醸造してくれる造り手のみなさんがいてくれるからこそ、おいしいワインを楽しむことができます。
そう考えると、ワインそのものが、ポジティブなパワーを持っているものではないのかなと思います。
あなたをきっと癒してくれる おすすめワイン3選
少し精神論的な話になってしまいましたが(笑)、最後に、筆者が独断と偏見で選んだ癒し系のワインをご紹介したいと思います。
スタジオジブリとルー・デュモンがコラボ! ブルゴーニュ・ブラン キュヴェ・ファミーユ 2016 ルー・デュモン 白
Bourgogne Blanc Cuvee Famille / Lou Dumon
NHKの某番組でも紹介された ブルゴーニュの神様アンリ・ジャイエも認めた日本人醸造家 仲田さんの白ワイン。
筆者のおすすめポイントは、なんといってもこのエチケット!
作者は、スタジオ・ジブリ宮崎駿監督の息子さんで版画家として活躍する宮崎敬介氏です。森でしょうか?濃いブルーのトーンのエチケッせんトを眺めていると、とても落ち着いた心もちになり、じっくりゆっくりと、ワインを味わいたくなります。
ルー・デュモンの造るワインですから、味はもちろんお墨付きです。
むささび 2018 カーブドッチワイナリー 白
Musasabi / Cave D’Occi
やっぱりエチケットから入ってしまいました(笑)。カーヴドッチワイナリーの動物シリーズです。ほかにも「もぐら」や「おうむ」があります。なんとも癒されるほのぼの系エチケットの作者は、みずこしふみさん。
こちらのワイン、エチケットもさることながら、筆者が考える癒しポイントは、その舌触りです。カベルネ・ソーヴィニョンを100%使ったブラン・ド・ノワールのスパークリングワインなのですが、本当に優しい、シュワシュワではなくムシュムシュとした泡が、口の中に広がります。言うならば、口中に液体がふわふわしている感じです。いわゆる自然派ワインなので、本当にカラダに染みいる感じがします。
ベッカー プティ・ロゼ 2018 フリードリッヒ・ベッカー ロゼ
Petit Rose Trocken / Friedrich Becker
このワインを造ったベッカーさんは、辛口ドイツワインを復活させた立役者で、フランスのグルメ誌ゴーミヨで何度も表彰されたこともある優秀な造り手です。
こちらのワインの癒しポイントは「色」。本当にきれいなロゼです。
毎年のぶどうの出来具合によって、セパージュを変えているそうで、ヴィンテージによっては、もうちょっと濃い色のロゼだった年もあったのを記憶しています。造り手のベッカーさんご自身がいちばんたくさん飲んでいるワインと言うだけあって、スグリやベリーの香り、きれいな酸と果実味のバランスが取れた、とても美味しいワインです。
おしまいに
好きで飲んでいただけのワインに、こんなにたくさんの「癒し」の効果があったなんて、正直驚きの連続でした。でも本当は、難しいことは考えずに、ただただ「おいしいなぁ」と思って飲むのが、一番の「癒し」になるのかもしれません。
ワインがこれからも、あなたを癒してくれますように。