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シャトー・シュヴァル・ブラン
Chateau Cheval Blanc
フランス南西部に位置するサンテミリオン。赤瓦屋根の連なりと細い石畳の路地が中世の雰囲気を残す美しいこの街は、1999年にワイン産地としては世界で初めてユネスコ世界文化遺産に登録されました。そのサンテミリオンで、長年最高のシャトーとして君臨し続けているのが、シャトー・シュヴァル・ブラン。時にメドックの5大シャトーにさえ匹敵する評価を受けるその実力や、カベルネ・フランをふんだんに使用する特異性もあり、熱狂的なファンが多いシャトーの一つです。
フランス語で「白馬」を意味する、シャトー・シュヴァル・ブラン
2001年、小泉純一郎首相(当時)は訪仏しフランスのジャック・シラク元大統領と会談しました。シラク大統領からの返礼として開催された午餐会で列席者にふるまわれたのが、シャトー・シュヴァル・ブランの1986年でした。シュヴァル・ブランはフランス語で「白馬」を意味します。
午(うま・馬)年生まれの小泉元首相に対して、最大限の敬意ともてなしの心を込めた演出に、元首相はいたく感激したというエピソードが残っています。フランスの高級AOCワインの中では、名前からストーリーを膨らませることができる数少ないワインの一つといえます。
シャトー・シュヴァル・ブランの名前の由来はブルボン王朝アンリ4世(1553年〜1610年)の時代に遡ります。シュヴァル・ブランのシャトーがある場所は、かつて宿屋があったといわれています。アンリ4世王は白い馬にまたがりサンテミリオンの街にやってきて、この宿屋に泊まりました。
王は執務で城に帰る途中だったのか、プライベートで乗馬の遊びにきていたのか…。中世の王様の旅路に想像がふくらみます。この話が事実に基いた史実なのかどうか、今となっては知る由もありませんが、シュヴァル・ブランはこの逸話を元に名付けられました。
シュヴァル・ブランの最大の特徴の一つ、カベルネ・フラン比率の高さ
キリスト教の巡礼街道沿いにあったサンテミリオンは、12〜13世紀にはすでに多くの教会や修道院が建ち並び、その監督の元でワイン造りが盛んになりました。現在シュヴァル・ブランがある一帯も中世には高品質のワインを産する地域として有名だったようです。
ワインの名前には「白」という文字が入っていますが、シュヴァル・ブラン自体はもちろん赤ワインです。最大の特徴はセパージュ(ブドウ品種混合割合)で、ボルドー右岸ワインの特徴であるメルローと、補助品種として使用されることが多いカベルネ・フランをほぼ半々ずつ混醸するという世界的にみてもユニークなブレンドになってる事です。
シャトー・シュヴァル・ブランのブドウ比率は年々異なりますが、平均するとメルローが50割強、カベルネ・フランが残りの40数パーセント、天候に恵まれた2011年ヴィンテージではカベルネ・フラン52%にメルロ47%でした。
カベルネ・ソーヴィニヨンに比べてタンニンと酸味が軽やかなカベルネ・フランは、ワインに品格(エレガンス)を与えます。それがメルローのしっとりとしたテクスチャーと重なり合い、飲後に長い余韻を作り出します。香りは一言で表すならエキゾチック。アニスなどの東洋系スパイスと赤いベリーのアロマがグラスから多層的に立ち上ります。熟成するとシガーのようなスパイシーな香りも加わり飲み手を魅了します。
オーゾンヌと並び、長年サンテミリオンの「第一特別級A」に君臨
サンテミリオンでは1954年に政令により公式格付けが始まりました。翌55年にAOCサンテミリオン・グラン・クリュを対象に、最上級の第一特別級A(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA)、次位の第一特別級B(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB)、そしてその下に特別級(グラン・クリュ・クラッセ)がランク付けされました。
メドックなどその他のボルドー地区の格付け比べ最大の特徴は、10年に一度見直されることです。55年の格付けからほぼ10年おきに格付けが見直され、その度に順位が入れ替わりました。1855年の格付け開始から約160年、たった2銘柄しか格付け変更されなかったメドックの格付けと比べると、その違いが際立ちます。
ところが2006年、この見直し制度に小さな事件が起こります。2006年格付け審議の結果、格下げされた一部のシャトーが格付け確定差し止めを求める訴えを起こしたのです。裁判所を巻き込んでの議論は白熱し、結論は二転三転しましたが、結局、2006年の一つ前、1996年の格付けが暫定的に適用されることで騒ぎはひとまず落ち着きました。
しかし周りの騒動にもかかわらず、シュヴァル・ブランは1955年の格付け開始以来ずっとプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに君臨しています。2012年に確定した格付けでもシャトー・シュヴァル・ブランは、シャトー・オーゾンヌとともにAクラスを保持しました。新たにシャトー・パヴィとシャトー・アンジェリュスが追加され、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAは4つとなりました。
伝統を重んじ厳然とした格付けピラミッドがある左岸メドックと、競争原理がはたらく右岸サンテミリオン。どちらにもそれぞれの魅力があります。
実業家による経営と近代的なシャトー
19世紀後半からシュヴァル・ブランは家族経営の時代が続きました。何回か畑の買収があり、また経営者が何人か入れ替わった後、1998年から銀行家で資産家のベルギー人アルベール・フレール氏と世界的財閥のルイ・ヴィトン・モエ・エ・ヘネシー(LVMH)社の社長であるベルナール・アルノー氏が共同所有しています。
サンテミリオンはコート(石灰質の台地)地区と「グラーヴ(砂利と粘土質の丘陵地帯)」地区に分かれますが、シュバル・ブランはクラーブ側に位置します。
貴族の邸宅のようなシュヴァル・ブランのシャトーの隣に、2011年白い流線型のモダンな建物が登場しました。これは著名な建築家によりデザインされた貯蔵庫で、内部にはテイスティングルームもあり、世界遺産を訪れるツーリストたちの新しい観光スポットになっています。
歴史あるシャトー、ロマンティックな名前の響き、生産本数の希少性、玄人好みの味わいと香りが世界中のワインラヴァーを虜にするシュヴァル・ブラン。年々上昇する価格にも関わらず、長年に渡り安定した人気を保っています。