すっかり秋になりましたね。
ソムリエ試験も筆記試験ないしテイスティング試験が終了し、佳境を迎えている時期かと思います。
今回はソムリエ・エクセレンス試験の【実技試験】についてご説明します!
ちなみにエクセレンスの3次試験は、ソムリエとワインエキスパートで内容が異なり、ソムリエ・エクセレンスは「実技」、ワインエキスパート・エクセレンスは「小論文」となります。
筆者はソムリエ受験でしたので、今回は「実技」試験に特化してお話していきたいと思います。
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実技試験対策を疎かにすることなかれ。
はじめに、ソムリエ・エクセレンスの実技試験を望むにあたり、一番にお伝えしたいのは、「実技試験もしっかりと対策をした方がよい」ということです。
ソムリエの先輩方や同じ受験者から言われたのは、
「実技試験は日々の仕事で行っているサーヴィスの延長線なんだから、ちゃんと仕事をやっていれば大丈夫だよ。」
という言葉。
だた実際に受験した筆者から言わせると、そんな甘いもんじゃない!と叫びたい。
実技試験はあくまでも「試験」。試験用の対策をしないと到底受かるとは思えません。
まず時間制限があります。後述しますが、サーヴィス実技は、最後まで完遂することがほぼ不可能な時間配分になっています。
前にソムリエ世界大会の実技試験動画を見る機会があったのですが、その時のソムリエさんも時間内に終わらせるため、かなりのスピードで作業していましたが、物どうしがあたりガタガタ音がなったり、バタバタと忙しなく、とにかく雑で、決してスマートなサーヴィスとは思えませんでした。これが実際の高級レストランで行われているのだとしたら、気持ちよく食事もできないな・・・と思ってしまいます。
また口頭試問についても、訓練して短時間で要点をまとめ、時間内に完結に説明するスキルが必要となります。
さらに言えば、そこに普段の接客とは全く異なる部類の緊張がのしかかり、その中で「普段通り」いや、「普段以上の実力を発揮」するには、よほど土壇場に強い人でないと乗り切れません。
特に筆者はこの実技試験を受けた時には、レストランからこのワイン通販会社であるドラジェに転職して1年半も経っていたため、サーヴィスの仕事からかなりブランクがありました。
そのため、「実技は大丈夫っしょ♪」と安易な気持ちにはなれず、できる限りの対策をしました。そして、それが結果的に合格に繋がったのだと思っています。
ソムリエ・エクセレンスの試験内容
まずは試験内容を見ていきましょう。
これちらが2020年のソムリエ協会が公開しているタイムスケジュールです。
このスケジュールを見る限り、筆者が受験した2018年と工程はほぼ同じようです。
ご覧の通りテイスティング試験終了後、2時間の休憩を挟んで、その場でテイスティング通過者が発表されます。
通過者のみテイスティング試験会場で待機。そして順次3~4名ずつ別会場に案内され、実技試験が始まります。
実技試験会場の入り口に着くと、係員より「試験内容に関する説明」が渡され、【5分間】読む時間が与えられます。
ざっくりですが、筆者が記憶している2018年の内容です。
~試験内容に関する説明~
1.サーヴィス実技(3分間)
2.プレゼンテーション(2分間)
抜栓したワインについてのプレゼンテーション
3.料理とのペアリングについて(合計2分間)
以下のお酒の説明と合う料理を提案しなさい。
・スタウト
・貴醸酒
・セントラル・オタゴ オフ・ドライ リースリング
・バローロ カンヌビ・ボスキス 2003
この時点では、サーヴィスするワインは知らされません。
会場は4区画に分かれており、それぞれの持場に案内されます。
自分のブースに着いて初めてサーヴィスするワインが何か分かるのですが、2018年は想定外の「白ワインのエアレーション」でした。
銘柄は・・・
シャブリ 2017 ウィリアム・フェーヴル
(試験終了後、ワインは持ち帰れます。)
2016年、2017年とZork(プラスチック製の最新スパークリングワイン栓)が出題されていたので、筆者はZork抜栓ばかり練習していました。
白ワインのデキャンタージュはノーマークだったため手順が頭に入っておらず、さらに備品置き場には不必要な備品(例えば、下から光をあてるライトは白ワインのエアレーションには不要)も並んでいたためパニックになり、セッティングがゴテゴテになりました。結果、デキャンタに白ワインを注ぎきった所で時間オーバーとなってしまいました。
時間内で終わらせる事が必須条件だと思っていたので、この時点で「終わったな・・・」と思い、逆に気持ちが吹っ切れた様に思います。
サーヴィス実技の失敗は自分の中でなかったことに、後の2、3のプレゼンテーションと料理とのペアリング提案を制限時間いっぱいまで、とにかく笑顔で話しきりました。
これが、筆者の2018年に経験したソムリエ・エクセレンスの最終試験「実技」です。
筆者が行った実技試験対策
ここからは、実技試験対策のために筆者が実際に取り組んだ事や、逆にやっておけば良かったと思う事などを説明していきます。
1.サーヴィス実技
まず、散々な結果となったサーヴィス実技については、もはや何が出るか分からないので、赤、白、泡、泡(Zork栓バージョン)の全てのパターンを繰り返し練習する他ありません。
サーヴィス実技の時間が3分しかないのに、デカンタージュまではさせないだろうと高をくくってはいけません。意地でも時間内に終わらせられるよう繰り返し練習してください。
ちなみにソムリエ試験の時のように、自分の前のテーブルの中だけでサーヴィスを完結させる訳ではありません。通常の営業さながらサーヴィス台とは別に、お客様2名が別テーブルに着席されていて、備品を準備し、グラスを付け、ワインをプレセンし、サーヴィス台で抜栓・テイスティング・エアレーションをし、お客様のテーブルでワインを注ぐまでの作業を3分間で行えるようにします。
2.プレゼンテーション
続いて口頭試問ですが、正直こちらも何が出題されるか分かりません。
ただこれまでの傾向では、サーヴィスしたワインに関するプレゼンテーションと料理とのペアリングが出題されたので、少なくともこの2点についてはしっかり準備した方がよいでしょう。
2018年のプレゼンテーションでは、
「サーヴィスしたワインについてと、なぜエアレーションをしたかを説明しなさい。」
というものでした。
①ラベルの内容をしっかりと読み上げる
②テクニカルを説明する
③制限時間いっぱいまで話きる
まず、ラベルの内容とはワイン名・生産者・ヴィンテージはもちろんのこと、国、地域、品種、アルコール度数など、ラベルに書かれている事は全て話した方がいいです。初見のワインですから、そのワインについて全く知識がなかったとしてもラベルの情報を読み上げるだけで結構時間が使えます。
次にテクニカルについて、特にスパークリングワインを提供する時は、瓶内二次発酵かシャルマかなどを説明した方がいいです。他にも、例えばラベルに「シュール・リー」と書かれていればその説明もすると、しっかりと醸造について理解しているな、と面接官に印象付けることができます。
そしてもっとも重要なことは、「与えられた制限時間めいいっぱい話すこと」です。
案外話してみると、2分間が長いんです。生産者の特徴、土壌、地形、提供温度やグラス、料理との相性、飲むシチュエーション、世界のトレンドなど、なんでもいいので絞り出してください。黙って時間が経つのを待っている・・・という状況は心象が良くないです。
もちろん、笑顔は忘れずに。
3.料理とのペアリング
料理とのペアリングについては、予め「試験内容に関する説明」で見た4種のお酒の説明と相性のいい料理を提案します。
2分間で説明するということは、1種類あたりたったの30秒です。30秒でいかに簡潔にまとめられるかが重要で、筆者もストップウォッチを片手に繰り返し練習しました。
上の「試験内容に関する説明」を見てお分かりかと思いますが、出題されるお酒はワインだけではありません!
スタウト、貴醸酒が何なのかを知らないと全く説明ができない訳です。
筆者がこの対策で行ったことは、ソムリエ・エクセレンス受験する仲間同士でグループLINEをつくり、毎日のように問題を出し合っていました。この方法が良かったのは、自分では思いつかないお酒を出題してもらえることと、他の受験者の回答例を知ることができるので、新しい視点のペアリングを知れることでした。
実は2018年に出題された貴醸酒は、このグループLINEの中でたまたま筆者が問題として出したお酒の一つで、あとで受験仲間から喜ばれました。
ペアリングの考え方
ペアリングについてもう少し掘り下げていきましょう。
料理とワインの相性は、以下5つの要素について考えていきます。
「五味」「同調」「中和」「風味」「テクスチャー」
五味:ここで言う五味とは甘味、酸味、塩味、旨味、苦味を指します。このどれかがワインと料理に共通していると合うと感じたり、逆にワインと料理の要素を合わせて五味全て揃えば、そればハーモニーとなり高いレベルでマリアージュしている、という事になります。
同調:五味に共通することではありますが、ワインと料理の同じ要素を合わせる方法です。(例:キャンティの酸味とトリッパのトマトの酸味が同調する。)
中和:料理には、食材がもっている「脂質」と調理中に加える「油製」があり、これはワインにはない成分です。そのためペアリングを考える上では、「同調」の考えではなく、この脂・油をいかに「中和」できるかを考え、ワインをセレクトする必要があります。
(例:肉の脂を赤ワインのタンニンが中和している。)
風味:調理法でワインと同じ風味に寄せる。例えば、ほうれん草のおひたしを普通に鰹節と醤油で食べたら、ワインと合わせるのは難しいと思います。そこで、ポン酢と柚子の皮をのせる調理に変えれば、ソーヴィニヨン・ブランにも合います。
テクスチャー:「軽いワイン」には「軽い料理」、「複雑なワイン」には「濃厚な手間のかかる料理」、「温かい料理」には「やや温度高めに提供できるワイン」、「口当たりの柔らかい料理」には「滑らかな酸味・タンニンのワイン」など、それぞれの構成に合わせる方法です。またテクスチャーではないですが、「高級料理」には「高級ワイン」といった様にお互いの格を合わせるのも重要です。
段取り8分、仕事2分
仕事でも何でもそうですが、確実に目的を達成させるためには、実際の業務に取りかかる前の適切な段取りが不可欠です。
試験当日に、「トーションがない!」なんてことにならない様、準備は万全にしましょう。
これは筆者の実体験なのですが、通販会社であるドラジェでは直接お客様にサーヴィスする機会がないので、トーションもパニエもエプロンさえも会社にありませんでした。
なので実技練習をする前に、ネットであちこち探し回って備品を一式揃えました。
1次試験通過から2・3次試験まで全く時間がない中で、探すための時間と労力は極力使いたくないものです。
そこで、こんなセットを作ってみました!
もちろん送料無料です。
実技試験対策に必要なグッズが全て網羅しているので、「あ、これ買い損ねた!」という心配はありません。
これを購入して、一日でも早く練習を繰り返し行ってください!
最後に・・・。
ソムリエ・エクセレンス合格は、決して一人の力では実現できなかったと思います。
受験勉強に集中させてくれた職場の上司、先輩方。
アドバイスをくださった前の職場の先輩。
体の事を心配し、家事をサポートしてくれた家族。
そして切磋琢磨し、励まし合って合格を勝ち取った2018年の受験仲間。
皆さんの力があってこその合格でした。
ソムリエ機関誌の「2018年合格者の声」に掲載されている方の一人に、
「同期受験組の皆さん。ワインの世界にチームワークの勝利があるとすれば、2018年シニアソムリエ・エキスパート受験組は最高のチームだったのではないでしょうか。」
と書かれた記事を見て、胸が熱くなりました。(勝手にお言葉をお借りしてすみません。。。)
エクセレンス試験は、大きな大きな山ではありましたが、決して乗り越えられない山ではありません。
乗り越えた先に得た多くの知識、経験、そして仲間を大切にし、ワイン文化の発展に微力ながら貢献できていけたらと思います。
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