「海のワイン」ってどんなワイン?ソムリエのおすすめ7選

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突然ですが、海って本当に気持ちがいいですよね。

海岸沿いをドライブしたり、海の見えるレストランで食事をしたり、波の音を聞いたり。海を感じる場所にいるだけでなんだか嬉しくなってしまうのは、私だけではないはず!

ただ、海の近くに住んでいない限り、日常で「海」を感じるのは、なかなか難しいのが現実です・・・。でも、本物の海に行けなくても、ワインで「海」を感じること、実はできるんです。その方法は、「海のワイン」を飲むこと!


あまり聞きなれないかもしれませんが、「海のワイン」と呼ばれているワインがあります。潮風を浴びながら育った、海に近い産地のぶどうを使って造られ、柑橘系の酸味と少しだけ塩味を感じるようなワインを、私たちソムリエは「海のワイン」なんて言っています。

この「海のワイン」、海に囲まれた日本に暮らす私たちの食生活にもぴったりなワインが多いんです。今回は「海のワイン」の産地や代表的な品種、「海」と「ワイン」にまつわるお話をいろいろしていきたいと思います。

「海のワイン」の代表品種アルバリーニョ


まずは、品種からアプローチしてみましょう。

「海のワイン」の品種をいくつか挙げて、とワインを知っていらっしゃる方に聞いたら、「アルバリーニョだよ」って答える方が多いです。

アルバリーニョは、大西洋を望むイベリア半島の北西部、ポルトガル北部のミーニョや、あるいはスペイン北西部ガリシア州リアスバイシャスで多く栽培されている土着品種で、スペインの白ブドウの中では「最も高貴なぶどう」なんて言われています。

著名なワイン評論家ジャンシス・ロビンソン女史も著者の一人である「ワイン用 ぶどう品種大辞典」には、アルバリーニョについて、こう記されています。

スペインとポルトガルの国境をまたぐ地域で栽培されている流行の品種で、フレッシュで香り高い高品質のワインが作られている

「流行の品種」とありますが、実際に、スペインやポルトガルだけでなく、遠く離れたカリフォルニアや日本の新潟や大分など、いろいろな地域のアルバリーニョから造られたワインを目にする機会が、最近多くなってきました。

 

そんな注目の品種「アルバリーニョ」、青リンゴや白桃、レモンやグレープフルーツなどの柑橘類や白い花など、フルーティでフローラルなアロマを持つぶどうで、搾りたての柑橘類を思わせる豊かな酸とミネラルが特徴的です。

 

果実は小粒で果皮が厚め、小ぶりな房を付けます。果皮が厚いため、ウドンコ病などが発生しやすい多湿の環境でも丈夫に育つ、病害に強い品種です。海の近くの冷涼な潮風が吹いていて、砂質や花崗岩など水はけのよい土壌を持つ地域で栽培されています。

 

以前は、フレッシュ&フルーティな香り高い軽いタイプのワインが多く造られていましたが、近年では、樽発酵や樽熟成による、複雑で芳醇なスタイルのワインも造られるようになりました。


では、次にいろいろなアルバリーニョの産地を見ていきましょう。
おすすめのワインもご紹介します。

スペイン リアス・バイシャス


アルバリーニョの生まれ故郷の産地。イベリア半島北東部、大西洋岸のリアス式海岸南部の地域に広がっています。穏やかな気候で、年間を通して降雨があり、スペインの中では比較的多湿な産地なのですが、水はけのよい花崗岩土壌の産地です。

1980年代後半に、れっきとしたワイン産地として、D.O.に認められるまでは、大衆向けの白ワイン造りが長く続いた地域でしたが、より上質なワイン造りを目指す醸造家たちの尽力もあり、今では「スペインで最も高貴なぶどう」と呼ばれるアルバリーニョのワインは、より上質なものが造られるようになっています。

リアス・バイシャスのおすすめアルバリーニョ

セテ・セパス アルバリーニョ  ボデガ・カルバジャル 白

造り手の「ボデガ・カルバジャル」は、D.O.リアスバイシャスの代表的なサブリージョン「サルネスヴァレー」にあるワイナリーです。家族経営のワイナリーで、創業者のベニート・バスケス氏は、アルバリーニョの品質向上やD.O.リアス・バイシャスの認定に貢献した人物です。アルバリーニョの繊細な味わいを生かすため、この地域で初めてステンレスタンクの導入をしたのもバスケス氏です。

レモンやグレープフルーツの柑橘類と、フレッシュピーチや洋なしのアロマティックな香りを持つ、溌剌とした酸とミネラル、繊細な塩味のニュアンスを漂わせるワインです。

カリフォルニア エドナ・ヴァレー


アメリカ西海岸 ロサンゼルスの北にあるエドナ・ヴァレーAVA。太平洋に向かって大きく開けた、海から10Kmほどのこの産地には、海からの湿った冷たい空気が大量に流れ込み、朝霧も発生する、カリフォルニアで最も冷涼な産地です。

カリフォルニアのおすすめアルバリーニョ

タンジェント アルバリーニョ バイリヤーナ・ヴィンヤード 白 

このワインを造るバイリヤーナ・ワイナリーは、少し内陸にありますが、海に近いエドナ・ヴァレーで収穫したアルバリーニョを使って、このワインは造られています。前述の「ワイン用 ぶどう品種大辞典」にも、推奨するアルバリーニョのワインとして、掲載されています。

レモンやライムを思わせるフレッシュな柑橘の香りが印象的。熟した白桃や洋なしなどのアロマティックで華やかな香りが広がります。透き通るキリっとした酸と、果実味、潮風を思わせる塩味やミネラル分を感じる、口にするのが心地よく、余韻に程よいドライ感覚を残すワインです。

日本 新潟ワインコースト


新潟の市街地の南西部、車で30分ほどに位置する、今、大注目の新しい産地が、新潟ワインコーストです。
日本海から1.5Kmの海岸地帯にあるこの産地は、海の砂のような独特でとても水はけのよい土壌で、繊細な味わいと華やかな香りを持つワインが産みだされています。

始めにワイナリーを設立したカーヴ・ドッチをはじめ、フェルミエ、ドメーヌ・ショオなどの5つのワイナリーがこの地でワイン造りをしています。

余談ですが、中心となっているカーヴ・ドッチには、宿泊施設やレストランなどが併設されていて、ワイナリの見学などのワインツーリズムも盛んです。新潟駅からのシャトルバスも出ているので、ワイン好きの方にはたまらない旅行先になると思います。


日本のおすすめアルバリーニョ

アルバリーニョ  カーブドッチワイナリー 白

日本でのアルバリーニョの可能性を確信し、2005年にカーヴ・ドッチでは栽培がスタートしました。ワイナリーのある「角田浜」という地名からも、海の近くの産地であることが良くわかると思います。

このアルバリーニョは、砂浜のように手からさらさらこぼれ落ちるほどの砂質土壌の畑に植えられているそう。土壌由来の香水を思わせるような華やかで上品な香りと、生き生きとしているけれどもがっしりとした酸味。軽やかな口当たりながら、果実味、旨み、穏やかな苦み、様々な要素のバランスが取れた、奥行きのある緻密な味わいです。熟成のポテンシャルも秘めたワインです。

また、山形産のアルバリーニョを使った「ルノー Le nord」も、今年リリースされました。試飲してみたのですが、ライムのようなきりっとした酸味とほろ苦さ、桃のような果実味、海のミネラルが豊かな、ふくよかで味わい深いワインでした。個人的には、テキーラを使ったカクテル、マルガリータの味わいを思い出しました。

●アルバリーニョ・ルノーはこちら

 

アルバリーニョ以外の海のワイン

ご紹介したアルバリーニョで造ったワイン以外にも、世界中に「海のワイン」と呼ばれているワインがあります。いずれも、海に関係のある場所で造られ、当然のことながら、魚介との相性は抜群なワインです。
まずは、ワイン大国フランスの「海のワイン」ご紹介します。

フランスの海のワイン

大西洋に近い赤ワインの銘醸地ボルドーでも、ボルドー・ブランと牡蠣を合わせて楽しんだりしますが、フランスの「海のワイン」といえば、やはり「シャブリ」と「ロワールのミュスカデ」です。
まずは、シャブリから行きましょう。

牡蠣といえば…のシャブリ!

シャブリの造られているブルゴーニュ北部は、かなり内陸なので、海とは全く関係ないと思いますが…実は、シャブリのある所は、太古の昔、海底だった場所が隆起してできた地層。

シャブリの土壌「キンメリジャン」って聞いたことがあると思います。この土壌は、ウミユリやサンゴはどの海洋生物の殻が堆積してできた粘土と石灰岩のまざった土壌に、小さな牡蠣、エグゾジラ・ヴィルギュラの化石が含まれている土壌なんです。

「土壌の成分が、ワインの風味に影響を及ぼすという科学的根拠はない」などと言われていますが、シャブリからは、やっぱり、海のミネラルのニュアンスが感じられます…。牡蠣とのマリアージュは、シャブリの鉄板ですが、小さな牡蠣の化石由来なのかな、なんて考えると、ロマンを感じませんか?

シャブリ ビオ  パスカル・ブシャール 白

オーガニックのシャブリ、あまり見かけないと思います。
今では、オーガニック栽培していることが当たり前で、その認証を取っている畑の割合がどれくらいなのかという事が重要なポイントになってきているフランスにおいて、気温が低く、湿度の高いシャブリ地区は、気候的にオーガニック栽培には向いていない土地だと言われています。シャブリでワイン造りを長く続けている生産者ほど、オーガニック栽培に後ろ向きだとも言います。

そんな中、オーガニック・シャブリを作るこのワインの造り手、パスカル・ブシャールは、70年以上もシャブリを造り続けている名門生産者。彼の造るシャブリは、2つもビオ認証を取った、優しい味わいの癒し系シャブリ。シャブリらしいフレッシュな口当たりに、柔らかな酸と柑橘系を思わせるしっかりとした果実味があります。身の柔らかい、白身系の魚介と相性がよさそうです。

ミュスカデ

フランスでいちばん長い川、ロワール川の河口付近、ペイ・ナンテで造られているのが、ミュスカデを使ったワインです。ミュスカデ自体は、はっきりとした酸の繊細な味わいのぶどうなので、シュール・リーをすることで、澱に含まれるミネラルからなる旨みを引き出し、ワインの味わいに奥行きが生まれます。

大西洋を望むこの地方、長い間、地元の人々に愛されてきたのは、新鮮な魚介類と地元のワイン ミュスカデの組み合わせ。魚介の臭みを、ミュスカデが持つ柑橘系の爽やかさが消してくれ、魚介の旨味とシュール・リーの旨味の相乗効果で、これ以上ないマリアージュを産むんですね。

ミュスカデ セーヴル・エ・メーヌ シュール・リー ドメーヌ・サン・マルタン  ドメーヌ・ヴィネ 白

お値段もお手頃で、どれも同じような味わいなのでは?という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれないミュスカデ。飲み比べてみると、酸が際立っているもの、旨みがたっぷりなものなど、きらりと光る個性を持つワインもたくさんあります。

このミュスカデは、ミュスカデのスペシャリストとも呼べる、ドメーヌ・ヴィネが造るお手頃価格のワイン。
彼の造るミュスカデの中には、高品質なミュスカデだけに認められる「クリュ・ミュスカデ」の呼称を、INAOが検討を進めているものもあるとか。

生き生きとした酸と果実味、ピュアなミネラル、すべてのバランスが取れた、ドライなスタイル。コスパも抜群なミュスカデです。

イタリアの海のワイン

イタリア30州のうち、海に接していないのは、たったの5州というほど、海に囲まれている国イタリア。世界中のどの国よりも、地元の食材と地元のワイン、この結びつきが強いように思います。ということは、魚介類が美味しい土地は、それに合う美味しい「海のワイン」があるということになります。

イタリアの「海のワイン」をご紹介していきます。

世界遺産の「海ワイン」チンクエテッレ

ヨーロッパ大陸とイタリア半島の付け根あたりにある細長い州がリグーリア州。イタリア最大の港町ジェノヴァがあり、風光明媚なため観光客が多く訪れます。海を望む切り立った崖にあるチンクエテッレの村々の景観は、世界遺産にも登録されています。

リグーリア州のワイン、ほとんど日本で見かけることはないと思います。
栽培面積が少ないことに加え、造られたワインは、バカンス客や地元で消費されてしまうため、国外に流通することは少ないそうです。

チンクエ・テッレ ペルゴーレ・スパルセ カンティーナ・チンクエ・テッレ 白

ワイン産地としてのチンクエテッレは、手前は海、背後には山地という土地柄、崖を切り開いて作った急斜面に畑があり、強い潮風もあたる過酷な気候条件の中、土着品種を中心にぶどうを栽培しています。

このワインは、世界遺産チンクエテッレで造られた稀少なワイン。土着品種のボスコからくる、はちみつのような華やかなアロマと柑橘類や黄色い花のような上品な香り。爽やかなな果実味とキリっとした酸味が印象的なワインです。


マルケ州のワイン

ひと昔前、イタリア料理店にたくさん並んでいた魚の形したボトルワイン「ペッシェ・ヴィーノ」の故郷が、ここマルケ州です。海岸線は173kmも続き、州都アンコーナは、古代ギリシャの時代からの重要な港でもあります。海とは切っても切れない関係にある地域です。

マルケの「海ワイン」は、酸とミネラルがしっかりしたヴェルディッキオで造られたワイン。フレッシュな早飲みタイプから長期熟成タイプまで、幅広いタイプのワインが造られています。

ヴェルディッキオ・ディ・カステッリ・ディ・イエージ・クラシコ・スペリオーレ アンドレア・フェリーチ 白

造り手のアンドレア・フェリーチは、父の助言に従い、三ツ星レストランでソムリエの経験を積んだ後、父のワイナリーに戻り、ワインメーカーとしてスタートしました。そして、2009年にリリースした初ヴィンテージから、5年連続でガンベロ・ロッソ誌のトレビッキエーリを獲得、2020年にはワインメーカー・オブ・ザ・イヤーの称号も与えられる程の優れた生産者です。

彼の造るヴェルディッキオは、エレガントなスタイル。エキゾチックフルーツ、エルダーフラワー、レモンの花野生のハーブのフレッシュなアロマ。いきいきとした果実味とクリアな酸のバランスが見事で、長い余韻の中に微かにミネラルを感じます。

 

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おしまいに

「海のワイン」と検索した時に、面白い記事がありました。

海の底にワインを沈めて、1年間熟成してくれる「海底ワイン」なるものもあるそうです。海底での潮の満ち引きによるゆらぎが、ワインに良い影響を与え、まろやかな風味になるのだとか。熟成中にクラシックを聞かせる醸造家もいるそうですし…。1年後に引き上げたワインボトルには、いろいろな貝殻などがくっついて、唯一無二のボトルになるそうです。ちょっと面白そうですね。

「海のワイン」、こうしてみるといろいろな種類がありますね。
海に囲まれた国に暮らす私たちにとって、海のワインは、案外しっくりとくるワインなのかもしれません。

いろいろな「海のワイン」、ぜひ楽しんでみてください。

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