スパークリングワインや白ワインより赤ワインを飲む頻度が増え、季節の移り変わりを感じる今日この頃。
ついに、待ちに待ったジビエシーズンの到来です!
「季節の到来を愛しむ、そして過ぎ行く季節を惜しむ。」そんな季節の変化を大切にする日本人にとって、ジビエはまさに「秋」を感じさせてくれる旬の食材。
ジビエ料理が大好きな筆者も例に漏れず、早々にジビエ料理が堪能できるレストランに駆け込みました。
なんと言ってもジビエは、赤ワインとの相性が抜群!「ジビエ×赤ワイン」をセットにして存分に楽しめる、ワイン愛好家にとって幸せなシーズンです!
ということで、今回の記事は、今がまさに旬の「ジビエ」、そして「ワインとのマリアージュ」についてお話していきたいと思います。
ジビエってなに?
そもそもでジビエの定義をご存知ですか?
「狩猟によって、食材として捕獲された天然の野生鳥獣の食肉」の事を指し、フランス語で「Gibier(ジビエ)」と表記します。
この野生鳥獣とは、一般的にカモ、ハト、ヤマウズラ、ライチョウ、キジ、シカ、イノシシ、ウサギ、クマ、アライグマなどを指します。
これらの動物は当たり前ですが年中生息しているので、「何が旬なの?」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、実は、狩猟できる期間が決められているんです。
日本では、原則11月15日~翌年2月15日(北海道は10月1日~翌年1月31日)が狩猟期間と法律で定められていて、ジビエ大国ヨーロッパでも、期間は多少違えど狩猟期間内でしか手に入らない希少な食材となっています。
そもそもなぜ、狩猟期間が定められているのかと言うと・・・
野生鳥獣の保護
鳥獣の多くは春~夏が繁殖期にあたるため、その期間での狩猟を禁止しています。また狩猟できるエリアも限定されており、鳥獣保護区や休猟区などを設置し、生態系を壊さないよう配慮されています。
栄養も脂ものっていて美味しい時期♪
この時期は、熊は冬眠に備えて栄養や脂を蓄えます。また、冬眠しない猪もやはり冬に備えて体を太らせるのです。日本で言うと、鴨鍋なんかも冬の時期に食べられますが、やはり脂が一番のって美味しいから。そう言えば、筆者もこの時期になるとお腹まわりが気になる。。。と、人間も同じなんですね。
ジビエの歴史
ジビエの歴史は古く、ヨーロッパでは伝統的な食文化の一つです。ただ、畜産と違い供給が安定せず、また入手困難な鳥獣も多いため高価になってしまいます。そのためジビエは貴族の伝統料理でもありました。
日本で本格的に普及し始めたのは、フランスから輸入される様になった1990年代。それよりももっと昔から日本でも食肉の文化はありましたが、宗教上の理由などで狩猟・食肉が禁止されていた時期が長く続いていたため、ジビエの文化は衰退していました。
しかし、実はその間でもシカやイノシシは細々と食べられていた様で、シカ肉を「もみじ肉」、イノシシ肉を「ぼたん肉」と表現するのは、食べてはいけないとされていた肉を隠語を使ってこっそりと食べていた時の名残なんだそうです。
ジビエは「おいしい健康食」
野山を駆け巡り、大空を飛ぶ野生鳥獣は、飼育された動物に比べ、身が引き締まって脂肪分が少なく、栄養価も高い、超優秀な健康食なんです!
日本を代表するシカ肉とイノシシ肉を例にあげてみても・・・
シカ肉は高タンパク&低カロリー!
100グラムあたりの牛肉のタンパク質は17.1グラムなのに対し、シカ肉は23.9グラム。さらに牛肉に比べて脂質は1/6、カロリーは半分以下なのに、鉄分はなんと2倍!
イノシシ肉は栄養素爆弾!
イノシシ肉は豚肉とさほど変わらないカロリー・脂質ですが、鉄分はなんと4倍、ビタミンB12はなんと3倍!
他にも美肌効果のあるビタミンB2や貧血や冷え性を予防するヘム鉄という成分も豊富で、ジビエはまさに栄養満点な大自然からの贈り物なんです♪
ジビエを食べることで世の中のためになる!?
「有害鳥獣駆除」という観点から、今ジビエ料理が注目されています。
実は、日本では野生鳥獣による農作物被害額が大きな問題となっており、その被害額は年間158億円。このうちの6割以上がシカ、イノシシによるもので、近年では被害防止を目的とした捕獲が大幅に増加しています。
ところが、その捕獲した動物たちが食用に使用されるのは僅か1割程度なんです。。。
こういった現状から、今日本各地で捕獲した鳥獣をジビエとして消費拡大したり、特産品として地域振興につなげようという動きが広まっています。
大切な命を「害獣」として処分するのではなく、有効な資源としてありがたく食す。ジビエを美味しく食べることで、回りに回って世の中のためになっているんです。
ソムリエが教えます!「ジビエ×ワイン」のマリアージュポイント
これまで栄養素や有害鳥獣駆除について説明してきましたが、そんな難しい事を考えなくても「ジビエはシンプルに美味しい」ので、素直に美味しく頂いちゃいましょう。
ひとえにジビエと言っても様々な鳥獣がいて、調理法も様々。それに合うワインを考えるとなると、なかなか難しいかもしれません。
そこで、ジビエが大好きなソムリエが、ワインをあわせるポイントを伝授いたします♪
①肉質とワインのボディをあわせる
蛋白で優しい肉質ならライトボディのワインを、しっかりとした噛みごたえのある肉質ならばフルボディのワインを合わせるのが基本です。
②肉の脂分とワインのタンニン分
赤身中心のお肉と、サシの入ったお肉では、同じ赤ワインに合わせるにしてもタイプが異なります。脂は口の中に長く残るので、タンニンや酸味が豊富なワインと合わせることで、味わいを中和させる効果があります。
③伝統の王道マリアージュを知る
ジビエの歴史が深いヨーロッパでは「王道のマリアージュ」なるものがあります。昔から受け継がれてきた鉄板のマリアージュだったり、郷土料理と郷土のワインを組み合わせたマリアージュだったり。昔の人々が様々のワインを試し、淘汰された結果完成した「王道のマリアージュ」に間違いはありません!
④調理法、ソースの特徴とあわせる
ちょっと上級者向けですが、例えばグリル、ロースト、コンフィなど火入れの仕方によって肉の質感や風味などが変わります、シンプルに塩コショウだけ振ったのか、ベリーやオレンジなどのフルーツソースなのか、または赤ワインや内臓を使用した濃厚なソースなのかによって、料理の雰囲気は随分と変わります。分かりやすいのは「同調」のマリアージュで、ソースにベリーを使用したのなら、ワインも香りや味わいに果実味がしっかりと感じられるワインをセレクトすると良いでしょう。
これらを踏まえて、代表的なジビエ料理とのマリアージュをご提案します!
シカ×ローヌ・シラー
蝦夷鹿のロースト
ジビエ料理といったらローヌ地方の「シラー」が鉄板です。ジビエ特有の野性っぽい独特の風味が、黒胡椒や生肉、血液といったシラーの個性的な香りと合い、「同調」のマリアージュになります。また脂よりも赤みが多いシカ肉は、しっかりと咀嚼し噛みごたえのある肉質で、噛めば噛むほど旨味を感じます。この旨味に、シラーの酸味とタンニンが寄り添い「補完」のマリアージュにもなっています。
<ソムリエおすすめワイン>
ローヌの帝王ギガルのシラー100%「サン・ジョセフ」。北ローヌの中では、マイナーアペラシオンのサン・ジョセフですが、シラーの特徴がしっかりと表れていながら、コストパフォーマンスも優れている、穴場の産地です!
シカ×ボルドー
蝦夷鹿のロースト トリュフがけ
同じ蝦夷鹿ですが、仕立て方を少し変えるとちょっとこなれたボルドーにも合います。贅沢にトリュフのスライスを散らし、ペリグーソース風に。香りが一気にトリュフの香りに包まれます。この一皿には、やや熟れた赤ワインの方が良いでしょう。熟成により、マッシュルームやトリュフを思わせるキノコのアロマ、腐葉土、そして複雑なスパイスの香り。これらがペリグー・ソースと同調し、お互いを引き立て合います。しっとりと柔らかな質感に仕上げたシカ肉と、熟成によりやや角がとれたワインのテクスチャーとも合います。
<ソムリエおすすめワイン>
当店ソムリエ集団が社内テイスティングで満場一致で自社輸入を決定した、ドラジェイチオシのサン・テステフ。超有名格付シャトーがひしめく銘アペラシオンの中で、その名に恥じない素晴らしいクオリティ。状態も良好でまさに今が飲み頃!
イノシシ×サンジョヴェーゼ
イノシシのアグロドルチェ(煮込み)
イノシシの塊と香味野菜を赤ワインや黒胡椒などでマリネし、ことこと煮込んだトスカーナの郷土料理。ワインヴィネガーや砂糖で甘酸っぱく仕上げます。イノシシは脂が多く、煮込めば煮込むほど、とろける様な脂の甘味と旨味が増します。赤身もしっかりとあり、食べごたえも抜群。ここでは、同郷のトスカーナワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノと合わせました。サンジョヴェーゼの中でもタンニンが豊富なブルネッロは、口中に残るイノシシの脂を切り、旨味を引き立てます。
<ソムリエおすすめワイン>
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2013 ウッジャーノ 赤
「これがブルネッロの真骨頂だ!」と言わんばかりのしっかりとしたタンニン。長期熟成のポテンシャルを十分に感じられる傑出したブルネッロです!
鳩×南西地方・マディラ
野鳩のサルミソース
ローストした野鳩に、内臓や血液でつくったソースをかけた、ジビエ感満載の南西地方の郷土料理。これには鉄板のマリアージュ、南西地方のマディラ(タナ種主体)を合わせたい。しっかりと、そして粗いタンニンが特徴のタナは、いい意味で洗練されていない素朴さがあります。この野生感のあるワインこそ、ザ・ジビエのこの料理にも負けず劣らず同調します。
<ソムリエおすすめワイン>
シャトー・モンテュス 2015 ドメーヌ・アラン・ブリュモン 赤
南西地方のワインを一躍有名にした英雄、アラン・ブリュモンの不朽の名作。伝統品種であるタナ種を使用し、世界クラスのワインへとのし上げました。なんとあのトム・クルーズが自家用ジェットで買いに来た、という逸話も・・・。
鴨×南西地方・カオール
鴨のコンフィ
こちらも南西地方の郷土料理、鴨のコンフィ。鴨を低温の脂でじっくりと煮込みます。ラードの脂の旨味が加わり、ジューシーで美味しい!この料理にも鉄板のマリアージュがあり、南西地方の「黒ワイン」ことカオールとの組み合わせが一番!脂の旨味をいっぱい吸った鴨のコンフィを、どブルボディのカオールで頂きます。
<ソムリエおすすめワイン>
約10年の熟成を経た、2009年ヴィンテージのカオール!バックヴィンテージで流通量が少ない上に、濃厚なカオールが適度な熟成によって驚きの真価を発揮した、掘り出し物!
鴨×ブルゴーニュ
鴨のロースト オレンジソース
鴨とオレンジソースとブルゴーニュワイン。この業界ではセオリー中のセオリーと言われる組み合わせ。鉄分を感じる鴨肉に、ピノ・ノワールの鉄のニュアンスが同調します。爽やかなオレンジのソースは、ピノの凛とした酸味とも合い、王道の同調マリアージュ。このお料理が出たら、他のワインに挑戦などせずに、王道マリアージュを堪能したい。
<ソムリエおすすめワイン>
ここは妥協せずに、格のあるジュヴレ・シャンベルタンを合わせたい。造り手は「ブルゴーニュの誇り」と称されるジョゼフ・ドルーアン。鳥の中でも脂分が多い鴨は、骨格のしっかりとしたアペラシオンのピノがいいでしょう。
熊×??
月の輪熊と山鳩のパイ包み焼き
熊はあまりにも個性(クセ)が強く、クセを取り除くための調理法によって合わせるワインも左右されるため、マリアージュが難しい一皿でした。このお料理も、熊と山鳩とフォアブラを層にしてパイで包み、赤ワインソースで仕上げています。最高級の食材を組み合わせたスペシャリテです。ワインは大変悩みましたが、格、希少性、そして複雑な味わいを合わせるという観点から、1962年のバローロをセレクトしました。
最後に・・・
一昔前に比べると、日本でもジビエを提供するレストランが増え、また一般家庭でも安全なジビエが手に入るようになり、随分とジビエが身近なものになりました。
「季節の料理とともにワインを楽しむ」
これこそが筆者のワインライフの最大の楽しみ♪そして今日もまた、ジビエ専門店のリサーチの旅は続きます。