ネッビオーロは、高い品質のワインの原料となることで有名なブドウの品種です。また、長い熟成に向いた品種としても有名です。
「ネッビオーロ」という名前の由来には、いろいろな説があります。ブドウの粒の蝋分が豊富なため、それが「霧(イタリア語ではネッビア)」に例えられたという説、またネッビオーロは収穫の時期が遅いためにしばしば霧が出る時期と重なるからという説などさまざまです。
また、こんな伝説も残されています。
昔あるところに、貧しい僧侶がわずかな土地を耕して暮らしていました。ある日彼は、一本のブドウの木を見つけて、その栽培を熱心に行いました。やがて、僧侶が日々口にするワインが作れるほどのブドウが栽培できるようになりました。ある日、僧侶はブドウの畑が濃い霧に覆われているのを見つけ、そこに神意を感じます。彼は、畑仕事を中断し、主に祈りを捧げました。収穫の時期になって、ようやく霧は晴れます。そして僧侶は、ブドウ畑にまるでサファイアのように輝く果実を発見するのです。これが、ネッビオーロと呼ばれるようになったブドウであった、というお話です。
ネッビオーロの歴史は古く、最も古い記録では13世紀終わりにまで遡ります。ピエモンテ州のランゲ、アスティジャーノには1200年代後半にはすでにネッビオーロが存在していたことがわかっています。また、1431年に作成されたラ・モッラの法規集には、ピーニョロとともにネッビオーロの名前も残されています。19世紀にはいると、ブドウの栽培技術に関する研究論文や書籍に、ネッビオーロの名が頻繁に登場するようになります。
バローロとバルバレスコを生み出すネッビオーロとは
ネッビオーロは、非常に繊細で栽培が難しい品種といわれています。成長がゆっくりであるため、収穫が11月の霧の時期にかかることもよくあります。
樹木自体が脆弱な上、標高300メートルから450メートルの耕地で栽培されるネッビオーロは、ブドウの成熟が遅いにもかかわらず寒さにも弱いという悪条件が重なります。また、実が非常に密集しているため、降雨量が多い時期や湿気が高くなるとかびやすくなります。そのため、風通しがよいことも栽培地の条件に含まれてくるのです。
ワインの製造においては、収穫されたブドウの中でも最良のものだけが使用されます。ポリフェノールを最大限に引き出すために長期の浸漬を行い、タンニンを進化させるために大型の樽で熟成されるのが普通です。
ネッビオーロは、イタリアを代表する2つのワインを生み出すことで有名です。そのふたつのワインとは、「バローロ」と「バルバレスコ」。バローロとバルバレスコは、ピエモンテ州のアルバからほど近い小さな村の名前であり、土地の名がそのままワインの名となりました。このふたつの地は、ネッビオーロの故郷といわれています。
しかし、良質なネッビオーロが収穫されるのはこのふたつの土地に限りません。ピエモンテ州南部をふたつに分けるターナロ川左岸には、国際的にも高く評価されるワインを生み出すロエーロがあり、この地名もネッビオーロの栽培では伝説的な域に達しています。
その他、ネッビオーロの有名な栽培地としてはピエモンテ州北部カレーマ、ガッティナーラ、ゲンメ、ピエモンテ州以外ではロンバルディーア州のフランチャコルタ、サルデーニャ島のルーラスが知られています。また今世紀に入ってからはヴァレーゼ近郊のアンジェーラ、アッツァーテでもネッビオーロの栽培が始まりました。しかし、ピエモンテ原産のネッビオーロはピエモンテ州外での栽培がさらに難しく、その質の向上と特有性の保持に生産者は緊張を強いられています。
ネッビオーロは、その「完璧」さが特徴と言われています。すなわち、色、濃度、酸味、アロマ、揮発性、強靱さすべてにおいて、完全なバランスを保持しているワインを生み出すというのが定説になっているのです。純度が高く充分な熟成に耐えうるネッビオーロのワインは、「高貴」という形容詞で激賞されます。長期熟成をしても、アロマは非常に安定していることが高く評価されています。
熟成されたあと、ネッビオーロのワインはフルーツと咲き誇る花々のような香気を放ちます。タンニンは幾分ひかえめ。ワイン製造の過程では、ネッビオーロの特有性を最大限に生かすために、製造者たちはあらゆる研究と探求を重ねその純度を高めてきました。
ネッビオーロを使用したワイン
ネッビオーロを使用したワインには、100%ネッビオーロ、ネッビオーロと他の品種をブレンドしたタイプが存在します。
100%ネッビオーロを使用したワイン
- バローロ
- バルバレスコ
- カレーマ
- ネッビオーロ・ダルバ
- ランゲ・ネッビオーロ
カレーマは、ネッビオーロの栽培がとくに難しく、過去にはワインの生産も危機に陥った時期もありました。しかし、生産者たちの必死の努力により、現在は非常に純度が高いワインを生産することで知られるようになりました。
ネッビオーロと他種とのブレンドによって生産されるワイン
- ガッティナーラ
- ヴァルテッリーナ・スーペリオーレ
- スフォルツァート・ディ・ヴァルテッリーナ
- カナヴェーゼ・ネッビオーロ
- アルブニャーノ
- スパンナ
- ロエーロ
- ゲンメ
- レッソーナ
- テッレ・アルフィエーリ
※以上は、ネッビオーロ100%の場合と他種とのブレンドの両方が生産されています。
- ブラマテッラ
- ゲンメ
- ボーカ
- ファーラ
- シッツァーノ
※以上は、常にネッビオーロと他種とのブレンドで生産されています。
ゲンメとガッティナーラは、ほかのネッビオーロの栽培地と比べて粘土質が強くなく、石が多い土壌が特徴です。気象条件も他とは異なるため、花の香りがより優美でミネラルがほのかに香ります。タンニンも、ほかのネッビオーロよりも強いと言われています。
また、ボーカのネッビオーロは繊細なタンニンで知られているほか、苔むした大地やイチゴの香りを愛する人が多いようです。
いずれにしても、ネッビオーロを原料とするワインは、製造直後に飲用することは犯罪扱いされるほど、熟成を待って飲むことが推奨されているのです。