ポルトガルの「ポート」、「マデイラ」と並び、世界三大酒精強化ワインにあげられるスペインの「シェリー」。
日本ではあまり馴染みのないお酒ですが、一度ハマると抜け出せない魅惑のワインで、筆者もまんまとハマってしまった一人です。
シェリーの魅力は何といってもそのタイプの幅広さ。辛口、甘口、熟成の度合いによって様々な味わいのシェリーがあり、食前、食中、そしてデザートと一緒に楽しむことができます。
この度、シェリー生産者アエコビの「アレクサンドロ・シェリー」のセミナーに参加してきました。
そのセミナーの内容を元に、「魅惑のお酒、シェリー」の世界をご案内します。
シェリー生産地域の特徴的なテロワール
シェリーは、スペイン南部アンダルシア州のへレス・デ・ラ・フロンテラの町を中心とした、その周辺地区で生産される酒精強化ワインです。
原産地呼称は「へレス・セレス・シェリー(Jerez-Xerez-Sherry)」となりますが、これはへレスをスペイン語(Jerez)、フランス語(Xerez)、英語(Sherry)に言い換えたもの。これを見てお分かり頂けますと思いますが、シェリーというお酒が世界中から愛されてきた証拠です。
また、この原産地呼称は1933年に制定されたもので、シェリーはリオハとともにスペインで初めてD.O.に認定された原産地呼称でもあるんです。
生産地域は、へレス、サンルーカル・デ・パラメーダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの3つの町を中心とした一帯で熟成されたものだけが、「シェリー」と名乗ることがでます。つまり、同じブドウ品種を使用し、同じ土壌で、同じように醸造してもこの地域で生産しないと「シェリー」とは名乗れない、という訳。
さて、この地域のテロワールについてもう少し詳しく見ていきましょう。
ヘレス一帯は特徴的な気候で、
・大西洋に面している。
・北部から太平洋に注ぐ河川。
・近くにある湿地地帯。
この3つの特徴的な地形により、海水と淡水両方の湿度に覆われた地域になります。
後述しますが、シェリーを醸造する上でこの「湿度」が重要になります。
地図上の白と緑の地域がシェリーを造れる地域。そして白は特徴的なアルバリサ土壌。
へレスは、「アルバリサ」と呼ばれる土壌に覆われており、このアルバリサは、石灰の含有量が高く、真っ白な綺麗な色をしています。
~アルバリサ土壌~
・カルシウムや炭素の割合が高く、約25~40%の石灰含有率を占める。
・有機物が1.3%~1.5%と乏しく、貧しい土壌。
・雨が降らない日が続いても、地中深くに水を貯えておくことができる。
この土壌により高品質なシェリーが生まれるのですが、この特徴はシャンパーニュの白亜質土壌と酷似しており、世界でも極一部でした見られない特別な土壌なのです。
様々なシェリーのタイプ
一言にシェリーといってもその味わいは様々。
バリエーションが多いゆえに、難解で取っつきにくいと思われがちですが、
様々な料理やシーンに合わせて飲み分けられるのでワインの楽しみ方が広がりますよ!
辛口タイプ:
フィノ
マンサニージャ
アモンティリャード
パロ・コルタド
オロロソ
極甘口タイプ:
ペドロ・ヒメネス
スイートモスカテル
甘口タイプ:
ペール・クリーム(フィノタイプにモスカテル果汁をブレンド)
ミディアム(アモンティリャードとペドロヒメネスのブレンド)
クリーム(オロロソとペドロヒメネスのブレンド)
辛口は、「パロミノ」というブドウ品種を使用し造られます。
甘口は、「ペドロ・ヒメネス」もしくは「モスカテル」というブドウ品種を使用し造られます。
シェリーの特徴的な醸造方法
辛口タイプの醸造方法について、もう少し詳しく説明していきましょう。
生物学的熟成と酸化熟成
シェリーの最大の特徴は熟成方法にあります。
熟成は大きく分けて2つ、「生物学的熟成」と「酸化熟成」です。
第1ステップとして、アルコール度数11~12度の白ワインを造ります。
樽に入れる時に、ワインは満たさず樽と液面に隙間をつくります。ワインに空気が触れることで、液面に産膜酵母(フロール)が発生します。
テイスターは、この時点でフィノ系にするのか、オロロソ系にするのかの最初の分類を行います。
色調が淡く、香りがクリーンで、軽やかなワインはフィノ系に。色調が濃く、骨格のあるワインはオロロソ系に分類します。
フィノ系ワインは、蒸留酒を添加しアルコール度数を15度まで上げます。ちなみに、このアルコールを添加したワインを通称「酒精強化ワイン」と呼びます。
オロロソ系ワインは、アルコール度数17度まで上げます。
アルコール度数が15度の環境では産膜酵母は生き続け、膜が液面に覆った状態で熟成します。これを「生物学的熟成」と言います。
ワインは産膜酵母に覆われるため、空気に触れず酸化を抑えた状態で熟成することができます。
そのため、酸化による色素変化が起きず、元の白ワインの色調を保つことができます。また、産膜酵母の作用は酸化防止だけでなく、酵母特有のイースト香がワインつき、さらにワインの糖分を酵母が食べるため、より辛口なワインに仕上がるのが特徴です。
フィノ系シェリー:フィノ、マンサニージャ
産膜酵母の発生には、「気温」と「湿度」が大きく作用しています。シェリーの地域の中でも、サンルーカル・デ・バラメダの気候はもっともシェリー造りに適した環境で、このサンルーカル・デ・バラメダで造られたフィノ系シェリーは特別に「マンサニージャ」と名乗ることができます。
シェリー生産地域の図を見てもらうと分かりますが、マンサニージャが造られるサンルーカル・デ・バラメダは海に近く、北側には川も流れているため、最も湿度が高いエリアです。一方、フィノが造られる地域はもっと内陸に位置しており、乾燥しているため夏期は産膜酵母が薄くなってしまうそうです。
マンサニージャは、フィノよりもよりアロマティックなアロマを放ち、しっかりとした塩味が感じられ、より辛口なシェリーになります。
一方、17度までアルコール度数を上げると産膜酵母は生きていけないため、膜は消失します。産膜酵母が消失したワインは、空気に触れ、酸化熟成が進みます。これを「酸化熟成」と言います。
酸化により、色調は琥珀色へと変わり、香り、味わいが強くなります。
オロロソ系シェリー:オロロソ
またフィノと同様生物学的熟成をさせ、途中で産膜酵母を消失させ、その後酸化熟成させたものは、「アモンティリャード」や「パロ・コルタド」に分類されます。
このように、酒精強化の度合いによって将来どのタイプのシェリーになるのかが決まるのです。
熟成方法:ソレラシステム
シェリーの熟成方法は独特です。
「ソレラ・システム」という伝統的な熟成方法をご説明しましょう。
図のように、最上段の樽に「ソブレタブラ」と呼ばれる、酒精強化された新しいワインが補充されます。
最上段に一番新しいワインが入っており、下の樽になるにつれて熟成期間の長いワインが入った樽が設置されます。
そして、一番下にある樽(ソレラ)からボトリングされます。ボトリングされ目減りした分は下から2段目のワイン樽(第1クリアデラ)から注ぎ足されます。下から2段目のワインの目減り分は、下から3段目(第2クリアデラ)のワインから注ぎ足され・・・、という作業を繰り返す訳です。
こうやって年代の異なるワインがブレンドされる事で、安定の品質と伝統の味を保っているのです。
日本でいう継ぎ足しの「秘伝のタレ」方式といったところでしょうか。
ユステの「アレクサンドロ・シェリー」
セミナーを開いてくれたアレクサンドロ・シェリーの生産者「ユステ」。
設立はシェリーメーカーの中では若いですが、古いワイナリーを買い取ったため、施設や畑など歴史あるものを引き継いでいます。中には200年前の樽もあり、現在も使用されています。
また、同ブランドの「マンサニージャ」と「アモンティリャード」は、サンルーカルのブドウを使用しています。マンサニージャはサンルーカルで造らなければならない、と書きましたが、法律上は生産場所がサンルーカルであれば、マンサニージャと名乗れます。ブドウ自体がサンルーカル産であることは珍しく、海沿いで育ったブドウからはミネラルや塩味を蓄えたシェリーが生まれます。
シェリータイプ別比較テイスティング
それでは、お待ちかねのテイスティングへ!
1.FINO (フィノ)
シェリーの代表格であるフィノ。産膜酵母と共に熟成されます。
明るく澄んだイエロー。グリーンアップル、香ばしいアーモンドのアロマ。ドライで繊細な味わいで、後味には心地よい苦味があります。白身魚、魚介類などのタパス、ソフトチーズや生ハムなどと良く合います。
2.MANZANILLIA(マンサニージャ)
海沿いにあるサンルーカルという港町で造られるシェリー。ブドウも、サンルーカル産。
輝きのある淡いグリーンイエロー。グリーンオリーブ、特徴的なミネラル香。軽いタッチ。ほろ苦さはあるもののフィノよりも穏やかで、丸みのある口当たり。味わいも海を感じさせるミネラル感とかすかな塩気。シェリーの中では最もドライでスッキリしており、よく冷やして冷前菜や魚料理などと一緒に楽しみたい1本。酢の物や魚の天ぷらなど和食との相性も抜群です。
3.AMONTILLADO(アモンティリャード)
アモンティリャードは、フィノの熟成途中でフロールが消失したものを、そのまま熟成したもの。アレクサンドロでは、サンルーカル産のマンサニージャを使用し、フロールを消失させアモンティリャードにしています。
澄んだ琥珀色。カラメルを思わせる甘やかな香り、ドライフルーツ、香ばしいヘーゼルナッツに樽香が重なる複雑な香り。イースト香はフロール由来。アーモンドやソルティな風味が溶け合う複雑で豊かな味わいで、しっかりとしたボディ。アフターには塩味も感じられ、余韻も長い。スープやきのこ類、鶏や豚などの肉料理、熟成タイプのチーズともよく合います。夏場は少し冷やして、それ以外の時期は常温で。
4.OLOROSO(オロロソ)
フィノやマンサニージャとは異なり、フロールが発生しなかったものを長期熟成したもの。大航海時代に最も飲まれていたと考えられるタイプで、ウイスキーでよく使われるシェリー樽は、オロロソの樽である事が多い。
濃い琥珀色。ウッディーで、クルミのニュアンスを感じる熟成された上品な香り。凝縮された果実味がゆっくりと広がり、口当たりはビロードのように滑らか。赤身の肉料理やジビエ、熟成チーズと良く合います。
5.PALO CORTADO(パロ・コルタド)
生産量の僅か1%程度しか造られない、大変貴重なタイプのシェリー。生物学的熟成中、1年未満に自然とフロールが消失し酸化熟成が進んだシェリー。自然条件が揃った時にしか造ることが出来ず、いまだに100%人為的に造る事は難しい。アモンティリャードの香りとオロロソのボディを併せ持つ希少なシェリーです。
明るく優美なマホガニーカラー。ヘーゼルナッツのニュアンスを感じる複雑な香り。アーモンド、ソルティな風味が溶け合う複雑で豊かな味わいで、余韻も長め。マッシュルームやトリュフなどキノコ料理、カレー、リゾット、脂ののった魚、熟成タイプのチーズ。
6.PEDRO XIMENZ
世界で最も甘口のワインとして知られるペドロ・ヒメネス。貴腐ワインやアイスワインは糖度が高くても300g/Lであるのに対し、アレクサンドロ・シェリーのペドロヒメネスは実に400g/L以上。他のタイプとは異なり、ブドウを土の上で乾燥させ、干しブドウにした後に発酵させる。
濃いダークマカボニー。レーズンやイチジクなどの濃厚なドライフルーツ、プラムやプルーンのシロップ漬け、ほのかに木樽のニュアンス。濃厚な甘みが特徴で、黒糖を思わせる。口当たりはシルキーでマイルド。アフターに旨味を感じる。ブルーチーズや、アイスクリームなどのデザート全般とも相性が良く、アイスクリームソースとしてペドロヒメネスをかければ極上のデザートに。
おわりに・・・
とても興味深いシェリーの世界。
日本ではまだまだ浸透していないシェリーですが、シェリー委員会が主催する「ベネンシアドール」資格取得者は年々増え、シェリーの普及のため活躍されています。
ベネンシアドールとは、「ベネンシア」という器具を使って樽からワインを汲み出しグラスに注ぐ、優れた技術を持つ人のこと。
元々は、貯蔵庫の樽から試飲するためのサンプルを採ることが仕事でしたが、今ではシェリーのプロモーションの一環としてその技術を披露しています。
国内のシェリー専門のレストランでも、ベネンシアドールが見事な技術を披露してくれるので、是非一度訪れてはいかがでしょうか。