オーパス・ワン、アルマヴィーヴァ、セーニャ…。誰もが一度は飲んでみたいと思うであろう、超プレミアムワイン!世界中に愛されるこのワインたちに共通するバックストーリー、それは「ジョイントベンチャー」ビジネスによって生まれたワインたちということです。
ワインの伝統国フランスやイタリア、新世界と呼ばれる産地アメリカやチリ。ワインの歴史もその味わいも全く違う国の偉大なワイン生産者たちが、一緒に1つのプレミアムワインを造ったら一体どんな素晴らしいワインが生まれるのか…。今回は、ワイン界に革命をもたらしたプロジェクトのお話…。
目次
企業同士のコラボ!ジョイントベンチャー
日本でも、近年少し耳にするようになりました「ジョイントベンチャー」。ジョイントベンチャーとは、複数の企業が共同で出資をして立ち上げた新しい会社のことです。
買収や提携とは違い、異なる企業同士が同じ目的を共有し、共同出資で新たな会社をつくります。
日本で近年話題となった代表的な例が、衣料品製造・小売りの大手「ユニクロ」と、家電量販店大手「ビックカメラ」の共同出店であるビックロです。全くの異業種同士の共同出店ということで、当時は非常に話題となりました。
ジョイントベンチャーのメリットとしては、やはりお互いの強みと強みを合わせたシナジー効果を期待できることでしょうか。さらには、既存の設備やシステムを活用できる点では、低コストで新たな事業を行えるという魅力もあります。
ジョイントベンチャーワインの代表格、オーパス・ワン!
さて、ワイン界でもご存じの通り「ジョイントベンチャー」で生まれたワインがあります。その中でも特に知名度の高いワインが、オーパス・ワンです。
カリフォルニアワイン界のアイコン的存在、
ロバート・モンダヴィ
オーパス・ワンをご紹介する前に、ワイン好きの方には是非知って頂きたい方が2人います。その一人が、ロバート・モンダヴィです。
「カリフォルニアワインの父」とも呼ばれる、モンダヴィ。彼なくして、今日のカリフォルニアワインの発展はあり得ないと言われています。
1913年に生まれたロバート・モンダヴィ。家族経営でチャールズ・クリュッグ・ワイナリーを運営し、弟のピーターがワイン造り、兄であるロバートは販売と市場開拓を担当していました。
1960年代初め、モンダヴィはヨーロッパのワイン産地を視察に行ったときに、ヨーロッパのワインと比べカリフォルニアワインが様々な面で劣っていることを痛感します。このままではいけないと感じた彼は、弟ピーターにもっと質の高いワインを造るべきだと主張しましたが、今の安定している経営状況を大事にしたピーターと対立。モンダヴィは遂に自身でワイナリーを開くことを決意しました。
1966年、ナパ・ヴァレーのオークヴィルに建てたワイナリーが「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」。禁酒法撤廃後に、ナパ・ヴァレーで生まれた初めてのワイナリーでした。
まだカリフォルニアワインが、世界的に知られていなかった当時、その地のブドウのもつポテンシャルにいち早く気付いた彼は、様々な実験や研究、新技術の導入を率先して行い、いま現在でも続く極上ワインを次々と生み出していきます。
彼は優れた醸造家でありながら、その努力と経験で発見した醸造法を、他のワイナリーにも惜しむことなく教える指導者でもありました。彼の元で修業した醸造家の中には、スタッグスリープワインセラーズの創設者や、シャトーモンテレーナのワインメーカーなど、数多くの名ワイナリーを造り上げた偉人がたくさんいます。
モンダヴィの活躍が、のちにワイン界の新たな歴史を創った「パリ・テイスティング」に繋がったと言っても過言ではないでしょう!
シャトー・ムートン・ロートシルトを1級にのし上げた男!フィリップ・ド・ロートシルト男爵
ジョイントベンチャーワインを語るうえで欠かせない人物がもう一人。そう、バロン・フィリップ・ド・ロートシルト男爵。シャトー・ムートン・ロートシルトを、メドック格付け1級に押し上げた男です。
彼が若干20歳でシャトー・ムートン・ロートシルトを引き継いだ時、シャトーはまだ2級シャトーでした。それも大分荒廃が進んでいたと言います。しかし、彼の惜しみない努力と革命的なアイデアでシャトーの質を飛躍的に向上させていきました。
例えば、現在では当たり前になっている「シャトー元詰め」も彼が広めたやり方と言われています。かつてはワインをシャトーから樽で購入したネゴシアンが、ワインをボトリングして販売していましたが、悪質なやり方が横行。質の悪いワインを混ぜたり、中には水を混ぜたりして水増しし販売していた業者もありました。
それは当然、シャトーの評価にも影響します。そこで彼は、自らボトリングやラベル張りまで行い始めたのです。やがて周囲のシャトーもそれに賛同し、ボルドーワイン全体の品質向上に繋がりました。
そして、彼がシャトーを引き継いでから約50年後、1973年に念願のメドック格付け1級へと昇格を果たしました。途中、第二次世界大戦で愛する妻を亡くす悲劇にも見舞われながら、ワイン造りへの情熱が実を結んだのです。
1973年ヴィンテージのラベルに「われ1級なり、かつて2級なりき、されどムートンは変わらず」と刻まれていることはあまりにも有名ですね。
ちなみに1855年の格付制定以降、格付けが変更されたのは唯一ムートンだけです。
オーパス・ワン誕生!
カリフォルニアの、ロバート・モンダヴィ。フランスのバロン・フィリップ・ド・ロートシルト。新世界と伝統国それぞれの偉大な2人がタッグを組んで生み出したワイン、それが「オーパス・ワン」です!
ワインに情熱を捧げる二人が出会ったのは、1970年代の初め。お互いのワインにかける熱い思いが重なりすぐに意気投合、ワイン界に大きな革命を起こすプレミアムワインを共同で生み出すプロジェクトが始動しました。
ロートシルト側からはムートンで培った醸造技術を、モンダヴィ側からはカリフォルニアで生まれる類まれなるポテンシャルを秘めたブドウを。それぞれの良さを発揮しながらフランス・ボルドーの1級ワインにも負けないプレミアムワインを目指しました。
そして1978年、遂に「オーパス・ワン」が誕生。そして1984年に最初のヴィンテージである1979年ヴィンテージと80年ヴィンテージがリリース。1991年には、ようやくワイナリーも完成しました。
結果的にオーパス・ワンは世界中で飲まれる超プレミアムワインとして知られていくわけですが、バロン・フィリップ・ド・ロートシルトがロバート・モンダヴィにこの話を持ち掛けた1970年は、モンダヴィが自身のワイナリーを設立してからまだ4年ほど。
さらに言えば、世界中にカリフォルニアワインの良さが知れ渡るきっかけとなった「パリ・テイスティング」が1976年であったことを考えると、いかにロートシルトに先見の明があったかが伺えます。
「妥協を許さず、高品質なワインを造る」ことを信念として、ボルドーとカリフォルニアの融合で生まれた革新的なワイン、オーパス・ワン。
クラシック音楽で使用するこの言葉は[作品番号1]という意味で、「一本のワインは交響曲、一杯のグラスワインはメロディのようなものだ」という想いを込めています。
ワイン畑はカリフォルニアでも群を抜いて優れている、ナパ・ヴァレーのオークヴィル地区にあり、手摘みで丁寧に収穫されたブドウは発酵後100%フレンチオークの新樽を使用して約18か月熟成。その後瓶詰されてから、さらに18か月間寝かせてから出荷されます。
ラベルにはロバート・モンダヴィとバロン・フィリップ・ド・ロートシルト男爵の横顔が描かれています。ちなみに向かって左向きがロートシルト男爵、右向きがモンダヴィです。
オーパス・ワンのセカンドワイン!オヴァチュア
以外と知られていないないのですが、オーパス・ワンにはセカンドラベルともいえるキュヴェ、「オヴァチュア」があります。
「序曲」という意味をもつ名前のこのワインは、オーパス・ワンの最終ブレンドに使用されなかったブドウで造られたワインを、時間をかけて樽で熟成。複数の異なるヴィンテージを自由にブレンドし、仕上げています。その為、ノンヴィンテージとなります。
また、毎年造られるわけでもない為、出回る数量も限られています。場合によってはオーパス・ワンよりもレアともいえるワインです!
ロバート・モンダヴィのジョイントベンチャー第二弾!
トスカーナの革命児的ワイン「ルーチェ」!
さて、前述の通りボルドーの1級シャトーとのジョイントベンチャーで、オーパス・ワンという誰もが知るプレミアムワインを生み出した、ロバート・モンダヴィ。
彼が次に新たなジョイントベンチャーワインの相手として選んだのが、自らのルーツでもあるイタリアでした!
その相手は、イタリア・トスカーナで700年以上の歴史を持つ伝統ワイナリー「マルケージ・ディ・フレスコバルディ」です。
トスカーナの名だたる銘醸地に9つものワイナリーをもつフレスコバルディ。そのワイナリーの一つが、ルーチェ・デッラ・ヴィーテ。あの「ルーチェ」を生み出したワイナリーです。
「ブドウ樹の光」という意味を持つルーチェ・デッラ・ヴィーテが創設されたのは1995年。その年がファースト・ヴィンテージのルーチェは、その年のワインスペクテイター誌で早速93ポイントを獲得。年間トップ100ワインの41位となり、瞬く間に世界にその名が知られるようになったのです。
モンタルチーノの高品質なサンジョベーゼとメルローを融合させ、バリックの新樽で通常より長い熟成を持って生まれるルーチェは、次世代のスーパータスカンと言える出来栄え。
深みのある色彩を持ち、爽やかで魅惑的なフルーツの香りと存在感を放ちながらも主張しすぎない上品で心地よいタンニンを感じられます。ダイレクトでジューシーな味わいに、爽やかさとフルーティーさ、濃縮感が奏でるハーモニーが心地良さを与えてくれる最高級ワインです。
セカンドワイン ルチェンテ!
ルーチェにも、やはりセカンドラベルと呼ばれるワインがあり、それがこの「ルチェンテ」です。
ルーチェと同じ、モンタルチーノの畑のサンジョベーゼとメルローの若樹を使用し、果実本来のフレッシュで熟した甘みのある味わいを楽しめるスタイルに仕上げています。価格もルーチェの約3分の一程と手ごろで、ルーチェのスタイルを早くから楽しめるワインとして非常に人気があります。
ルーチェの新作!ルックス・ヴィティス
2015年、ルーチェが新たなワインをリリースと話題になりました。それが、「ルックス・ヴィティス」です。
生産本数は年間わずか6000本。ルーチェがメルローとサンジョヴェーゼを使って造られているのに対し、ルックス・ヴィティスはカベルネ・ソーヴィニョンとサンジョヴェーゼで造られているのが特徴です。
新樽比率100%のフレンチオーク樽で24ヵ月間熟成。造られるワインは、力強い果実味とシルキーなタンニン、エレガントな酸が三位一体となった完璧なバランスを表現しています。
チリ×カリフォルニア & チリ×ボルドー!
モンダヴィのジョイントベンチャー第三弾!
ボルドー、イタリアの名門ワイナリーとのジョイントベンチャーを成功させたモンダヴィが、次の可能性を求めたのがチリでした。
ニューワールドと呼ばれるワイン産地の中でも、特にデイリーワインが多いイメージのチリですが、ブドウ栽培においては非常に恵まれた環境にある為、品質の評価は年々上がってきています。
ジョイントベンチャーの相手となったのは、チリで140年の歴史を持つエラスリス家の当主、エドゥアルド・チャドウィック。二人は意気投合し、共同で新たなワインをリリースすることになりました。それが、有名な「セーニャ」です!
セーニャは「ひと際卓越した印」という意味のスペイン語に由来した名前です。使用する品種はボルドースタイルのカベルネ、メルロー、そしてカルメネールのブレンドです。
セーニャのブドウは樹齢平均15年のブドウの木からのみ収穫され、まずは主発酵をさせるためステンレスタンクに入れられます。その後フレンチ・オーク樽に移して18か月かけてじっくり熟成されます。お手軽プライス、そして気軽に楽しめるワインとしてのイメージが強いチリワインですが、セーニャはワイン造りのプロが選んだ最上級のブドウと手間のかかる最上級の技術を用いて醸造される、世界の最高傑作ワインと並ぶスーパープレミアムワインなのです。
ちなみに2022年秋からセーニャのセカンドワイン「ロカス・デ・セーニャ」も販売がスタート。セーニャの新たな時代が始まります!
ボルドーとチリの融合!
モンダヴィに続き、バロン・フィリップ・ド・ロートシルトもチリワインとのジョイントベンチャーワインを生み出しました。
それが、コンチャ・イ・トロ社とのプロジェクトで生まれた「アルマヴィーヴァ」です。
セーニャと並び、チリのスーパープレミアムワインとして知られるアルマヴィーヴァ。醸造はボルドー品種に長けたムートンの醸造チームが担当、1996年がファーストヴィンテージとなりました。2017年にはジェームズ・サックリングで2015VTが100点満点を獲得。トップ・オブ・ザ・イヤーで1位に輝きました。
アルマヴィーヴァという名前は、「フィガロの結婚」に出てくる伯爵の名前に由来しています。また、ラベルの赤い丸はチリの先住民が古くから儀式に使用していた太鼓の楽器をデザインしたものといわれ、チリの歴史に敬意を表したものとなっています。
新たなる希望は、南フランスで!
オーパス・ワン、アルマヴィーヴァと、次々とジョイントベンチャーワインを成功させてきたバロン・フィリップ・ド・ロートシルト社。2つに続いて目を付けたのが、南フランス。そして、生まれたのが「ラ・キャピテール・ド・バロナーク」です。
ラ・キャピテール・ド・バロナーク / La Capitelle De Baronarques
地元の共同組合シュール・ダルクからブドウ供給を受け、ジョイントベンチャーとしてスタート。ブドウはメルローにシラーとマルベックをブレンド。まさにボルドーと南仏の融合と言ったところです。
さらに熟成にはシャトー・ムートン・ロートシルトの古樽を100%使用!凝縮感と豊富なタンニン、長い余韻、上品さと複雑さを兼ね備え、グランヴァンの風格漂う極上の南仏ワインに仕上がりました。
オーパス・ワンにも負けない最高のワインを実現しよう、という思いから始まったバロナークは、今や 「南仏のムートン」 との呼び声も高く、オーパス・ワン、アルマヴィーヴァに並ぶ、第3のプレミアムワインとして世界中から注目されています!
価格もオーパスやアルマヴィーヴァと比べるとかなりお手頃なので、興味ある方は是非一度飲んでみてはいかがでしょうか?
結びに
カリフォルニアワインの父と呼ばれるロバート・モンダヴィ。彼の生涯を知ると、ワイン造りにおいていかに新しいものを取り入れることに抵抗を持たず、果敢にチャレンジする姿勢があったかが良くわかります。そのおかげでカリフォルニアワインが急速に成長し、オーパスを始めとする「ジョイントベンチャーワイン」が生まれたと言っても過言ではないでしょう。
そして、バロン・フィリップ・ド・ロートシルト男爵やフレスコバルディなど、ワインへの熱い情熱を持った人達が同じ思いを共有できたからこそ、これらのプレミアムワインが生まれたのです。
またいずれ彼らの遺志を継ぎ、オーパス・ワンの様な誰もが知るジョイントベンチャーワインが新たに誕生することを楽しみにしたいと思います。