ソムリエおすすめ!女性醸造家の造るワイン11選

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ワイン 女性醸造家

皆さんのお手元にある1本のワイン、どんな人が造っているのか、少し想像してみてください。

浮かんでくるのは、どんな人でしょうか?

無骨な感じの初老の男性?それとも、たくましく日焼けした筋骨隆々の青年?真っ先に女性の姿を思い浮かべる方は、まだまだ少ないのではないのかなと思います。

女性の社会進出が当たり前になった今、ワイン醸造の世界にも女性が増えてきました。人柄をそのまま表したような彼女たちの造るワインは、とても魅力的なんです!

今回は、女性醸造家の造るおすすめワインを、ご紹介していきたいと思います。

ワインビジネスに最初に飛び込んだ女性「マダム・クリコ」


現代の女性醸造家をご紹介する前に、いちばん初めにワインビジネスに関わることになった女性「La Grande Dame(ラ・グラン・ダム=偉大な女性)」と呼ばれるシャンパーニュのマダム・クリコについて、ご紹介します。

1798年、シャンパーニュ・メゾンに嫁いだマダム・クリコ。残念ながら、結婚からたった7年で夫を帰らぬ人になってしまいます。後継者のいなくなったメゾンをたたむことを親族は考えましたが、弱冠27歳の彼女は、夫の遺志を継いで、事業を続けることを決意します。19世紀初頭、ワインの世界はもちろん、すべてにおいて男性社会中心の社会に飛び込んでいくのは、相当の勇気だったと思います。

メゾンを引き継いだ彼女は、社名を「ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン(ヴーヴは”未亡人”の意)」へ変更し、海外への販路を拡大していきます。「シャンパーニュ=貴族の飲み物」という高級なイメージを定着させ、大胆な戦略で事業を展開していきました。

ビジネスの手腕だけでなく、「シャンパーニュそのものの品質を高めること」にも尽力したマダム・クリコ。

シャンパーニュを造る時、今では当たり前に行う「動瓶(ルミュアージュ)」による「澱引き」を考案したり、当時、紫色のベリー果汁を混ぜて造っていたロゼ・シャンパーニュを、初めてぶどう(ピノ・ノワール)だけを使って造ったり。マダム・クリコは、行動力だけでなく、非常に機知に富んだ女性だったようです。

現代の私たちが、美しいロゼのシャンパーニュや、透き通るきらきら輝くシャンパーニュをいただけるのも、彼女のおかげなんですね。

ソムリエおすすめ!女性醸造家の造るワイン

では、さっそく女性醸造家の造るワインをご紹介していきます。(タイトルの敬称は略させていただきます。)

<ドメーヌ・ジャック・プリウール> ナディーヌ・ギュブラン

ムルソー・クロ・ド・マズレー・モノポール ジャック・プリウール 白

18世紀末、ムルソーに設立されたブルゴーニュ屈指のドメーヌ「ジャック・プリウール」。創始者のジャック・プリウール氏は、高品質のブルゴーニュワインを世界中に広めることに尽力し、評価を得た人物ですが、ドメーヌ自体は低迷を続けていました。

1988年の買収後、有機農法の採用などのドメーヌの改革を進める中、才能ある醸造家ナディーヌ・ギュブランさんが1990年から醸造長として参加しました。低収量、成熟度の高いぶどう、テロワールを重視する彼女のワイン造りは、パーカーポイント高得点を連発するドメーヌへと、その評価を一気に押し上げました。

のちに彼女は、1998年に女性として初めて、フランスの有名ワイン雑誌「レヴュー・ド・ヴァン・ド・フランス」にて「ベストワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」に輝きました(この賞の受賞者は、ミシェル・ロランやマルセル・ギガルといったそうそうたる顔ぶれです!)。

こちらは、ドメーヌ単独所有のクロ・ド・マズレーのワイン。名門ジャック・プリウールの実力を、お手頃に楽しめる1本です。

<シャトー・ジンコ> 百合草 梨紗

シャトー・ジンコ 赤

日本人女性初のボルドーワイン醸造家、百合草梨紗さん。好きなワインがサンテミリオンだったということで、21歳でサンテミリオンへ留学、ワイン醸造やテイスティング、商経済を学んだそう。

代々ネゴシアンの家系だった旦那様と一緒に、2006年ボルドーにて、ネゴシアンとして会社を設立。格付けシャトーなどとも取引があり、人脈の広い百合草さん、ある日、美容院で目に留まったドメーヌ・ルロワの記事にインスパイアされ、2015年にぶどう畑を取得、自身でのワイン造りをスタートさせました。

「ワインを造るのは、私ではなく、1本1本違っている愛おしいぶどう達」と語る百合草さん。そんなぶどうから造られたワインを、愛情をこめて、3人目の娘「プリンセス・ジンコ」と呼んでいるとか。チャーミングで芯の強い、百合草さんの造るワインは、力強さと細かな仕事ぶりを感じられるピュアな味わいです。

こちらのワインは、年間生産量わずか5000本ほどのフラッグシップ。フランスで、力強く神秘的な東洋の木として知られるいちょう(ジンコ)と自身を重ね合わせ、シャトー・ジンコという名前にしたそうです。

<シャトー・ラ・カルドンヌ> マガリ・ギュイヨン

シャトー・ラ・カルドンヌ 2015 レ・ドメーヌ・セー・ジェ―・エール 赤

1855年のメドック格付け候補にも挙げられ、1973年から20年弱、メドック1級シャトーのラフィット・ロートシルトが所有していたこともある、歴史あるシャトー・ラ・カルドンヌ。

1990年にオーナーが変わると、より品質を高めるために、10年は熟成可能な広大な地下セラーを作るなどの設備投資をするとともに、2000年には、メドックの5級格付け「シャトー・ランシュ・バージュ」で醸造長を務めていたマガリ・ギュイヨンさんが、醸造長に就任しました。彼女の造った2001年ヴィンテージは高い評価を得、2005年、フランスの時事系週刊誌ル・ポワンの表紙を彼女が飾ることになりました。

このワインは、平均樹齢30年以上のメルローを主体に造られたクリュ・ブルジョワ。豊かな果実味とスパイシーなタンニンの奥深い味わいが、見事に調和しています。ラベルは、ラフィット所有時のクラシックデザインです。

<シャトー・オー・モンジャ> イザベル・ブション

シャトー・オー・モンジャ ルージュ 赤

ボルドーのガロンヌ川とドルドーニュ川にはさまれた産地、アントル・ドゥ・メール。その中にある、日本ではあまり知られていない産地グラーヴ・ド・ヴェイルにある、家族経営のシャトー・オー・モンジャ。

曾祖父の時代からぶどう栽培を行ってきました。3代目の父ベルナールさんが1988年にファーストヴィンテージをリリース、1997年からはイザベル・ブションさんが、お父さんと一緒に、醸造を行っています。

「お父さんと私は、親子というよりも、よりよいワインを目指す同志」と言うイザベルさん。環境への配慮を第一に考えたぶどうの栽培や醸造を行っています。

こちらのワインは、わずか3haから造られる、年産8000本の希少なもの。バラやベリーを思わせる華やかなアロマながら、ピュアな果実味としなやかなタンニンが同居する、なんとも魅惑的な赤ワインです。

<ガヤ> ガヤ・ガヤ

ガイア・エ・レイ シャルドネ ハーフ375ml  ガヤ 白

バルバレスコの偉大さを世界に知らしめ、「バルバレスコの王」との異名をとるガヤ。創業の地ピエモンテから、トスカーナ・モンタルチーノやボルゲリ、シチリア・エトナへも進出をしている、イタリア屈指のワイナリーです。

現当主アンジェロ・ガヤ氏と一緒に、ワイナリーの重要な仕事をしているのが、長女のガヤ・ガヤ(Gaia Gaja)さん。お名前からもお父様の長女へかける期待が垣間見えますね。

代々伝わる伝統を守りつつも、進化を進めるガヤさん。それまで、単一畑のネッビオーロに一部他の品種をブレンドして「DOCランゲ」としてリリースしていた「ソリ サンロレンツォ」など3つクリュを、2013年ヴィンテージから、ネッビオーロ100%にして「DOCGバルバレスコ」として復活リリースさせるなど、偉大な「ガヤ」家の発展に貢献しています。

こちらのワインは、ガヤさんが生まれた年にリリースされ、アンジェロ氏の祖母と愛娘の名前をワインに付けたガヤ初の白ワインです。

<プラネタ> パトリシア・コー

チェラスオーロ・ディ・ヴィットリア プラネタ 赤

シチリアでプレミアムワインの生産を始め、シチリアワインを世界レベルまで引き上げたワイナリー「プラネタ」。300年以上、シチリア島でぶどう栽培を行ってきた名家ですが、本格的な生産を始めたのは、1985年のこと。今では、シチリアに6つのワイナリーを所有しています。

ハンガリー出身のパトリシア・コーさん、地元の大学でワイン、ビール、スピリッツを専門とする学位を取得後、ワイン醸造家としてスタート。フリウリの赤ワインで初めてトレビッキエリを獲得した「レ ヴィーニェ ディ ザモ」やピエモンテの名門ワイナリー「バヴァ」などを経て、プラネタの醸造チームに加わったのは、2005年のこと。

シチリア島最南端のノートにあるワイナリーを手始めに、南東部のヴィットリア、カーポ・ミラッツォと、プラネタのワイナリー拡大に貢献してきました。

こちらのワインは、シチリア唯一のDOCG格付けを持つワイン。土着品種のネロ・ダーヴォラとフラッパートから造られ、非常に豊かな香りが広がります。ジェームズ・サックリングで92ポイントを獲得したこともあるワインです。

<ゲオルグ・ブロイヤー> テレーザ・ブロイヤー

リースリング トロッケン ソヴァージュ 2021 ゲオルグ・ブロイヤー 白

ドイツ・ラインガウにあるゲオルグ・ブロイヤー醸造所。前当主ベルンハルト・ブロイヤー氏は、かつて世界で最も高価とされていた、ラインガウ・リースリングから造る辛口の白ワインの復権に取り組んだ人物。それまでの「質より量」というドイツワイン業界の風潮を、「品質重視のワイン造り」へとシフトさせ、2022年施行されたばかりの新しいドイツワイン法にも影響を及ぼした「VDP(ドイツ・プレディカーツヴァイン醸造所連盟)」の会長を務めたこともある、現代ドイツワインにおいて、非常に重要な醸造家でした。

2004年に急逝した父の遺志を継ぎ、弱冠19歳で現当主となったのが、テレーザ・ブロイヤーさん。溌剌として元気いっぱいな彼女。父の教えの通り、限界まで熟成させ、収穫の際厳しく粒選りしたぶどうから、フレッシュでありながら、酸と果実味、ミネラルのバランスが絶妙なワインを産み出します。

こちらのワインは、ゲオルグ・ブロイヤー醸造所の最もベーシックなクラスのリースリング。「ソヴァージュ」の名の通り、野生的な果実味と酸味、ミネラル感が特徴です。

<ヨーゼフ・ビファー> 徳岡 史子

リースリング・ブリュット ゼクトb.A ヨーゼフ・ビファー 白

ドイツ南部のファルツ・ダンデスハイムに1879年に設立されたヨーゼフ・ビファー醸造所。後継ぎがいないため醸造所の閉鎖を考えていたところ、偶然にも、ワインの醸造施設を探していた、徳岡史子さんとめぐり合ったのです。

史子さんは、ドイツ・ガイセンハイム大学で醸造学を学んだあと、10年間、ワイン酵母の研究に携わってきました。研究の傍ら、ダンデスハイムにあるブール男爵家醸造所の再建を支えていた史子さんの実績と、醸造所を受け継ぎたいという熱意が伝わり、2013年、彼女はヨーゼフ・ビファー醸造所を引き継ぐことになりました。

こちらのワインは、ミレジメクラスのシャンパーニュの法定熟成期間をも超えた、熟成期間4年の上質なゼクト。フレッシュながらもこくのある味わいで、リースリングならではのいきいきとした酸が特徴の辛口スパークリングです。

<フリーマン> アキコ・フリーマン

シャルドネ 涼風 フリーマン 白

2001年、カリフォルニア・ソノマに設立されたワイナリー「フリーマン」。ブルゴーニュのように複雑で、魅力的なワインをカリフォルニアで作りたい」という、六本木出身のアキコさんと金融機関で働くアメリカ人の旦那様の思いが結実してできたワイナリーです。ただ旦那様は仕事が忙しく、ワイン造りを担うのはアキコさんになってしまったそうです。

ボリュームたっぷりが好まれていたワインのトレンドに流されることなく、自分たちの求めるエレガントなワインを造り続けたアキコさん。彼女の造るスタイルは、世界中で注目されるようになり、小規模ながらも名の知れるワイナリーへと成長しました。

アキコさんはカリフォルニアで、ワイナリーと畑を所有する唯一の日本人オーナー女性醸造家として、キレのある高品質なワインを、今でも丁寧に造り続けています。

ご紹介したシャルドネの2013ヴィンテージは、2015年4月、故安倍晋三首相を招かれた、バラク・オバマ元大統領のホワイトハウス公式晩餐会で振舞われ、一躍注目を集めた1本。キリっとした酸とミネラルを感じる、シャブリを思わせるようなシャルドネです。

<ラブ・ブロック> エリカ・クロフォード

マールボロ ティー(旧オレンジ) ソーヴィニヨン・ブラン ラブブロック 白

ニュージーランドの銘醸地マールボロエリアの最奥地にあるワイナリー「ラブ・ブロック」。世界中で研鑽を積んだキム・クロフォード氏は、瞬く間に、同国を代表するワイナリーへと成長した夫妻のワイナリーを売却。「多種多様な生物が共生を目指す」新たなワイナリー「ラブ・ブロック」を、妻エリカさんとともに設立しました。

実は少し変わった経歴の持ち主のエリカさん。アフリカ・ケープタウン大学を卒業後、医学者として製薬業界で活躍したのち、夫ともニュージーランドへ移住、ワイン醸造家となりました。また、同国の女性リーダーを育成する「グローバル・ウーマン・ニュージーランド審議会」のメンバーとしても活躍しています。

こちらのワインは、日本ではほぼ見かけることのない、ニュージーランドで造られたオレンジワイン。ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランらしいはっきりとしたハーブの香り。豊かな果実味を、まろやかなタンニンが引き締めています。もちろん、すべての工程でSO2(亜硫酸塩)は無添加です。

<ソラール・ドス・ロボス> フィリパ・ロボス

エスペランサ・ドス・ロボス ティント 2020 ワンネス 赤 

ポルトガルの南部アレンテージョにあるワイナリー「ソラール・ドス・ロボス」。アレンテージョは1980年代の終わりにラフィットグループが進出、新たなワイナリーも誕生しており、土着品種を使った高品質のワインが注目を集めている伸び盛りの産地です。

「ソラール・ドス・ロボス」は、15世紀、戦績によりアレンテージョの町、アルヴィートを与えられた男爵の家系。ラベルに書かれている5匹のオオカミの紋章は、ポルトガル王アフォンソ5世から賜ったものだそうです。

長年の夢がかない、ワイン造りを始めた祖父の畑を引き継ぐ形で、フィリパさんは醸造の道へと進み、彼女の感性と、祖父から受け継いだぶどうの選定眼で素晴らしいワインを産み出してきました。更なる高みを目指し、タッグを組んだのは、バロン・ド・ロートシルト家で才能を発揮していたワインプロデューサー「ヨアム・ロケ」氏。

このワインは、ヨアム・ロケ氏と一緒に手掛けた最初の作品。土着品種トゥーリガ・ナショナルを使い、濃厚な果実味と柔らかなタンニンが調和した、奥深い味わいに仕上がっています。ぶどう畑から食卓までを描いた、可愛らしいラベルにも注目です!

おしまいに

今回は、世界中で活躍している女性醸造家のワインをご紹介してきました。

残念ながら、今回はご紹介できませんでしたが、日本の地で活躍している女性醸造家も、年々増えてきています。

伝説の名ソムリエ故ジェラール・バッセ氏を唸らせた「Kisvin」の斎藤まゆさん、「DWWA(デカンター・ワールド・ワイン・アワード)」で日本ワイン初の金賞を受賞し、甲州のポテンシャルを世界に知らしめた「グレイス・ワイン(中央葡萄酒)」の三澤彩奈さん等々、世界にも認められる実力を持つ方もたくさんいらっしゃいます。

私自身が感じた、女性醸造家の皆さんの共通点は、「おおらかさ」と「しなやかさ」。やはり自然を相手に仕事をなさっているからなのか、大抵のことは受け入れる懐の深さのようなものを感じました。

そして、理想を追い続ける彼女たちは、きらきら輝く素敵な女性ばかり!女性醸造家の造るワインを手に取ったら、彼女たちの明るい笑顔を思い浮かべながら、ワインを楽しんでみてくださいね!

この記事が、皆さんのワインライフを豊かにすることができれば幸いです。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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