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マルサーラ

Marsala


食前酒やデザートにも使用される「マルサーラ」は、リキュールのようなイメージがありますが「フォーティファイド・ワイン」というカテゴリーに分類されるワインです。「フォーティファイド・ワイン」とは「酒精強化ワイン」とも呼ばれます。ベースとなるワインに、醸造過程でアルコールを加えて度数を高めたもので12%から25%のあるのが普通です。

南欧の気温の高い地域で発達した独特の酒造法であり、スペインの「シェリー」、ポルトガルの「ポートワイン」「マディラワイン」とならんで、イタリアはシチリア島で生産される「マルサーラ」が世界の4大フォーティファイド・ワインとされています。

マルサーラの歴史


マルサーラ・ワインの起源は、言い伝えによると1773年にさかのぼるといわれています。

シチリアのマルサーラは、ポルトガルからギリシアにいたる「太陽の帯」と呼ばれる一帯に位置し、温かく乾燥した気温とアフリカからの風などの条件からブドウの栽培には非常に向いた地域でした。

マルサーラ・ワインの誕生には、イギリス人のビジネスの勘が大きな役割を果たしました。1773年にシチリアのマルザーラ・デル・ヴァッロに上陸したジョン・ウッドハウスは、工業用無水炭酸ナトリウムを商うリヴァプール出身の商人でした。この地で彼は、農夫の一人から土地の最上のワインを振る舞われ、その味にすっかり魅了されてしまいます。そして、この洗練された味は英国の上流階級にもウケると直感、航海中にワインの味が変わらないよう蒸留酒を加えてまず50本をリヴァプールに送ったのです。

ポルトガルの「ポートワイン」や「マディラワイン」とよく似たこのマルサーラのワインは、またたくまに人気となり、ウッドハウスはシチリアの農民からワインを買取り、ソレラス・システムで熟成した後、せっせとイギリスで売りさばくのです。

マルサーラ・ワインの美味は、遠くブラジル、アメリカ、オーストラリアにまで知られるようになりますが、このワインの製造がシチリア人ヴィンチェンツォ・フローリオの手に渡ったのは1832年。フローリオ家では99隻の船を所有し、世界各地の富裕層にマルサーラを輸出し始めます。フローリオは、イギリス人が所有していた醸造所を買収してマルサーラの製造を続けますが、19世紀半ばになるとシチリア人自身が事業を興しマルサーラの製造を始めます。

1860年にはドン・ディエゴ・ラッロ、1875年にはヴィーロ・クラトロ・アリーニ、1880年にはカルロ・ペッレグリーノが開業、1990年には40におよぶマルサーラのワイナリーが存在していたそうです。

1969年には、シチリアのワインとしては「DOC(原産地統制名称)」認定第一号となりました。

また、イギリス人抜きには誕生し得なかったマルサーラ・ワイン、現在でもバッキンガム宮殿のワインセラーに常に貯蔵されているのだとか。

マルサーラの醸造法


マルサーラの製造のためには、まずブドウからモストと呼ばれる絞り汁を作り、それに火を通します。マルサーラの場合、カタラット種のブドウによって糖分の強いモストができあがるといわれています。

発酵過程においてデカンテーションが行われるため液体は自然に酸化。発酵も終わりに近づくと、エタノールが加えられて熟成されます。

出来上がったマルサーラに含まれる糖分の量によって、種類が分けられています。

ドルチェ……1リットルあたりの糖分の量が100グラム以上
セミセッコ……1リットルあたりの糖分が40グラムから100グラム
セッコ……1リットルあたりの糖分が40グラム以下

マルサーラの種類


マルサーラはまた、製造方法の相違によってもタイプが分けられます。

マルサーラ・ヴェルジネ

白いブドウのみを使用し、発酵後にエタノールを加えたタイプ。

マルサーラ・ヴェルジネ……ソレラス・システムを利用し、最低でも5年の熟成を経たもの。
マルサーラ・ヴェルジネ・リセルヴァ……ソレラス・ストラヴェッキオ・システムを経て、最低でも10年の熟成を経たもの。

マルサーラ・コンチャート

発酵後に、エタノール、モスト数種を加えたタイプ。

マルサーラ・フィーネ……最低でも1年の熟成期間を経る
マルサーラ・スーペリオーレ……最低でも2年の熟成期間
マルサーラ・スーペリオーレ・リゼルヴァ……4年以上の熟成期間

さらに、原料となるブドウによっても種類があります。

オーロ……白いブドウのみを使用し、モストは加えない。
アンブラ……白いブドウを使用し、1%以上のモストを加える。
ルビーノ……色の濃いブドウを使用、白ブドウの使用は30%まで、モストは加えない。

ちなみに、ソレラス・システムとはフォーティファイド・ワイン独特の醸造法です。床から古い順に樽を積み上げて、一番下の樽から一定量をボトリング、不足分を2番目の樽から足します。こうして、さまざまの年代のワインがブレンドされていくのです。

マルサーラの飲み方


マルサーラは、デザートワインとしては世界でも最高レベルといわれています。飲む際には、12度から18度が適温です。

マルサーラ・フィーネは素朴なビスケットやナッツ類と、マルサーラ・スーペリオーレとリゼルヴァはクリームと生のフルーツたっぷりのボリューム感があるデザートと、マルサーラ・ヴェルジネは焼菓子とおいしく召し上がれます。

また、マルサーラはワインだけで単独でも楽しめます。さらに、マルサーラは料理の味つけや、デザートでもよく使用されます。肉料理の「スカロッピーネ」、シチリアのお菓子「カンノーリ」、濃厚なクリーム「ザバイオーネ」にもマルサーラは必須です。