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グレース・ファミリー

Grace Family Vineyards


1978年に、ナパヴァレーにある小さな家庭菜園のぶどうからから誕生したグレース・ファミリー。いまや、4,000人ものウェイティングリストを抱え、もっとも入手困難なワインといわれるまでの発展を遂げました。高品質なワイン造りに貢献してきた、歴代のワインメーカーにも注目したいカルトワインです。

趣味で作り始めた家庭菜園がナパヴァレーの礎に


グレース・ファミリーの創始者、ディック・グレース氏が妻のアンとともにナパヴァレーでワイン造り始めたのは1978年のことでした。有名なワイナリーが立ち並ぶ、現在のナパヴァレーからは想像もつきませんが、彼ら夫婦が自宅の庭の片隅で家庭菜園を始めた当時、周辺はぶどうよりもプルーンやくるみの木の方が目立つような農地だったのです。

ディック氏は、もともと米国海軍の出身で、その後に証券業界に転職するという異色のキャリアの持ち主でした。証券業界のハードな業務で心身ともに疲れ果て、その疲れをいやすために、この地に移住してきたといわれています。

今でこそ、「カリフォルニアワインの神様」とまで称されるディック氏ですが、意外なことに当初はぶどうや、ましてやワインを作るつもりは全くなく、趣味のガーデニングで野菜を栽培していたそうです。

たまたま、畑の一角で栽培したぶどうをステーションワゴンに載せて、近くのケイマス・ヴィンヤードにもっていったところ、そのぶどうを味わったオーナーのチャーリー・ワグナー氏から、「このぶどうなら、よいワインができるかもしれない」というアドバイスを受けます。

このことがきっかけで、ワイン造りへの道を歩み始めたディック氏はまず、ケイマス・ブランドでワイン造りに取り組んでノウハウを吸収し、1983年以降はグレース・ファミリー・ブランドでワインをリリースするようになりました。

もともとの土壌や気候が、カヴェルネソーヴィニヨンの栽培に適していたという幸運に恵まれていたことはもちろん、趣味の家庭菜園でありながら、完全主義者でぶどう作りにも妥協を許さなかったディック氏の熱意が、最高のぶどうに結実したといえるでしょう。

なお、ディック氏の畑づくりに関する哲学は、現在はグレース氏の息子であるカーク・グレース氏に受け継がれています。

カーク氏は、ヴィンヤード・マネージャーとして畑の管理にあたり、有機農法をさらに推し進めたバイオダイナミック農法を取り入れるなど、徹底的に土壌にこだわったぶどう作りを行っています。

グレース・ファミリーの名声を押し上げたワインメーカー


グレース・ファミリーは現在でも、ディック氏を中心としたグレースファミリーによって造られていますが、その名声をここまで押し上げる原動力となったのは、1995年にワインメーカーとして参加したハイジ・バレット氏といっても過言ではありません。

ハイジ・バレット氏は、あのロバート・パーカー氏が、「ワイン造りの女神」、「ワインのファーストレディ」と絶賛を惜しまない、ワイン界の逸材です。

90年代にスクリーミング・イーグルやダラ・ヴァレにおいて、ウルトラプレミアムワインやパーフェクトワインと呼ばれる高品質なワインを世に送り出し、ワインメーカーとしての才能をいかんなく発揮しました。

ナパヴァレーで開催されるNVV(世界最大規模といわれるチャリティ・ワインオークション)で、なんと50万ドルというプライスで落札された1992年産スクリーミング・イーグルもハイジ氏が手掛けたワインで、まさにカリスマとでもいうべき存在です。

グレース・ファミリーには2000年までの約5年間にわたりワインづくりに携わり、その後は、こちらもナパヴァレーでは有名なワインメーカーの一人であるゲイリー・ブルックマン氏に後を引き継ぎました。

さらに2014年からは、ヘレン・ケプリンガー氏が、ワインメーカーとして参加、前任者に負けないほどの活躍をみせています。

ヘレン氏は2012年に、著名な「Food & Wine」誌が選ぶワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選出され、自身でもワイナリー、「ケプリンガー・ワインズ」と所有するなど、比較的若手ながら実力派のワインメーカーです。かつて、ヘレン氏はハイジ氏のアシスタントも務めていた経験もあるなど、「ワイン造りの女神」の系譜はしっかりと受け継がれているといえるのではないでしょうか。

カルトワインの元祖、最も入手困難なカリフォルニアワイン


グレース・ファミリーは毎年の出荷が500ケースほどと、家族経営による少量生産を守ってきています。このため、同社のメーリングリスト上では、4,000人ものウェイティングリストがあり、もっとも入手困難なカリフォルニアワインともいわれています。

ハイジ氏もてがけたスクリーミング・イーグルやブライアント・ファミリーなど、主にナパヴァレーで造られる、少量生産で高品質、そして高価格なワインのことを、「カルトワイン」と呼びますが、グレース・ファミリーはその元祖ともいわれています。

その売上の殆どを子供達に寄付。東日本大震災の際は日本にも。


非常に高価なワインですが、グレース夫妻はその売り上げのほとんどを、世界中の難病と闘う子供達などに寄付しているという事実をご存知でしょうか。しかも単なる寄付ではなく、グレース夫妻自らが現地に足を運んで、実際の状況を見てから、そこで本当に必要とされるものを検討し、寄付を行うというスタイルをとっています。

実は、日本にもそのために訪問したことがあります。

東日本大震災で津波により校舎を失った、岩手県大槌中学校の仮設校舎に寄付のために立ち寄ったものです。その際には、中学校の生徒と一緒に給食を食べ、なにが必要なのかをしっかり話し合った上で、パソコンやIT環境整備などに必要な寄付を行ったというから驚かされます。

グレース夫妻による、このような活動を知れば知るほど、グレース・ファミリーが単なる利益優先の会社ではないことが理解いただけるのではないでしょうか。グレース・ファミリーが掲げている、「我々の地球を癒すための触媒としてのワイン」というフィロソフィーは、単なるキャッチコピーではなく、こういった地道な努力の積み重ねなのでしょう。