タウラージ Taurasi

「南のバローロ」と呼ばれる程、長熟で力強い赤ワイン「タウラージ」。 産地は南イタリア・カンパーニア州です。カンパーニアと言うとナポリやアマルフィ、カプリ島など海のイメージが強いですが、ワイン産地は内陸部の方が盛んで、内陸のアッヴェリーノ県にDOCGワインが集中しています。 タウラージもその一つで、産地はナポリから内陸へ山を越え60キロメートルほど行ったところにあります。

火山性土壌の丘陵地帯で、標高は400〜700メートルにもなります。 そのため、南のワインながら酸とタンニンがしっかり備わった厳格なワインになり、加えて白胡椒などのスパイスも感じられます。

ブドウ品種は、この地で古くから栽培されているアリアニコ種を85％以上使用し、15％までならピエディ・ロッソなど他品種をブレンドすることができます。

そして特筆すべき事は、法定熟成期間が3年も必要だという事！！バローロ並の熟成を経て、ようやく販売する事ができるのです。

伝統派の「マストロベラルディーノ」と革新派の「フェウディ・サン・グレゴーリオ」

カンパーニア州はブドウ栽培に大変適した環境であり、「努力しなくてもブドウが育つ」と言われるほどでした。

しかし、この恵まれすぎた環境がゆえに、品質よりも量を生産する事が重視され、生産者たちは長らくバルクワインの生産に甘んじていました。 タウラージに使用されるアリアニコ種も然りで、濃い色と味わいが抽出できるためバルクワインとして他州から重宝されていたのです。

そんな状況の中で、カンパーニア州のワイン造りに大きく貢献したのが、「マストロベラルディーノ」の存在でした。 ワイン造りは200年以上の歴史をもつ名門ワイナリーで、「この蔵の存在無くして、現在のカンパーニャワインは無かった」と言われている程です。

1980年代、ワイン市場は空前の国際品種ブームに湧いていました。 イタリア全土で国際品種の植え替えが進み、バリック熟成、濃厚ワインが全盛期だった時代です。 しかしそんな流行に毒されることなく、カンパーニアの固有品種の潜在能力を信じ守ろうとした人物、それが9代目当主のアントニオ・マストロベラルディーノ氏でした。

当時からマストロベラルディーノは、人格者として地元の生産者たちから慕われる存在でした。それゆえ、普通なら生産者同士の利害が衝突し、なかなか話がまとまらないのですが、マストロベラルディーノが言った事ならと多くの生産者が賛同し、伝統的な品種、伝統的な栽培が継承されていきました。

マストロベラルディーノの功績は他にもあります。

まず、南イタリアで初めてワインを世界に輸出し、「タウラージ」の名を世界に知らしめたことです。 また、タウラージを1970年DOCに、1993年には南イタリア初のDOCGに昇格したのも彼の尽力によるものだったのです。

そしてもう一人、カンパーニアワイン史において重要な人物として挙げられるのが「フェウディ・サン・グレゴーリオ」です。

90年代半ばに流星の如く現れたフェウディ社は、莫大な資本をもとに、最新の施設とテクノロジーを駆使し近代的なワインを造りました。マーケティング力にも優れていた彼は、市場を海外に定め、ハイクオリティなカンパーニアワインを世界中に知らしめたのです。

伝統の「マストロベラルディーノ」と、新進気鋭な「フェウディ・サン・グレゴーリオ」。 2つのワイナリーの影響により、今やタウラージは南イタリア最高峰の赤ワインとして世界で認められる存在になりました。

ギリシャ伝来のブドウ「アリアニコ」

アリアニコ種の起源は古く、古代ローマ時代にギリシャから移植されました。また古くはヘッレニカ、ヘッレニコ（ギリシャという意味）と呼ばれ愛されてきました。 現在では南イタリア全域で栽培されており、アリアニコ種主体で造られるワインには、カンパーニア州のアリアニコ・デル・タブルノやバジリカータ州のアリアニコ・デル・ブルトゥレなどの銘柄もありますが、最も有名なのはやはりタウラージでしょう。

香りは黒系果実の他に、スミレ、スパイスなど複雑です。タンニンと酸が豊富で、高いアルコール度数も得られ、かなり力強い味わいになるため木樽熟成向きです。 上質なタウラージならば、20年以上の熟成にも耐えうるワインになります。

タウラージの主な生産者