サンセール Sancerre

世界中で生産されているメジャーな白ブドウ品種の一つ、ソーヴィニヨン・ブラン。フレッシュなハーブや青草、パッション・フルーツに柑橘系果実などを思わせる、独特な香りと爽やかな味わいを特徴とする品種で、ニュージーランドなどでは大成功を収めています。

そんなソーヴィニヨン・ブランでも世界最高峰のワインを造っているのが、フランス・ロワール地方のサントル・ニヴェルネ地区。この品種の原産地とも言われるだけあって、アロマティックで爽やかながら、非常に上品で洗練された白ワインが生産されている地域です。中でもAOCサンセールは、対岸のAOCプイィ・フュメと並び、飛び抜けて素晴らしい品質を誇る事で知られています。

古くから銘醸地として知られていたサンセール

サンセールにおけるブドウ栽培の歴史は古く、6世紀の文献にも記録があるほど。12世紀になるとワイン産業は大きく発展を遂げ、「王国一のワイン」と言われるほど高い評価を受けていましたが、実はこの当時、サンセールで主流だったのは赤ワインでした。

現在のようにソーヴィニヨン・ブランが主流となったのは、実は19世紀のフィロキセラ災害がきっかけ。ブドウ畑が壊滅してしまった事により、生産者たちはそれまで植えられていた品種から、害虫に比較的強いソーヴィニヨン・ブランを植える決断に踏み切りました。それから現在までの短い期間に、サンセールの白ワインが即ちソーヴィニヨン・ブランの代名詞というほどにまで、その地位を急速に高めてきました。サンセールとして認められる畑の面積は、20世紀の後半だけで3倍以上に拡大しています。

サンセールの味わいと土壌の特徴

サンセールのソーヴィニヨン・ブランは、ライムやレモン、グレープフルーツといった、爽やかな柑橘系果実の果実味に溢れ、引き締まった酸があり、ミネラリーな余韻が特徴で清らか、洗練された印象を受けるワイン。こうした点から魚介類との相性も良好ですが、この地方で名産となっているシェーブルチーズとの相性も抜群です。また基本的には早飲みタイプで、ヴィンテージの若いうちに消費される事がほとんどですが、中には長期の熟成を意識して造る生産者も存在しています。

サントル・ニヴェルネ地区は大陸性気候に分類されますが、サンセールは対岸のプイィ・フュメと比べても気温の低い地域。土壌は全体的に石灰質が豊富なものの、「火打石」と訳されるシレックス土壌の他、多様に土壌が入り混じるエリアもありその地質は一様ではありません。

そんなサンセールの中でも、極上とされる2つの畑が「シェーヌ・マルシャン」と「モン・ダネ」。シェーヌ・マルシャンはビュエという村にある、小石の多い石灰質の畑で、より一層豊かなミネラル感のある、鮮明な印象のソーヴィニヨン・ブランを産み出します。一方のモン・ダネはシャヴィニョル村にある急斜面の畑で、シャブリでも有名なキンメリジャン土壌により、豊富なミネラル感と酸味がワインに備わります。

赤・ロゼも素晴らしいサンセール

かつて赤ワインの生産が盛んだったサンセール。現在もピノ・ノワール単一による赤ワインの生産が認められており、その生産にチャレンジする造り手も少なからず存在します。その味わいはミネラリーで軽快なスタイルが中心、冷涼な気候も手伝って酸も十分なピノ・ノワールになります。ソーヴィニヨン・ブランの白と比べれば、流通量も生産量も少ないサンセール・ルージュですが、サンセールという産地の別の一面を覗く事ができる面白い銘柄です。

同じくピノ・ノワール100％で造った、ロゼワインの生産も認められていますが、赤ワインよりもさらに見かける機会の無いレアなワインで、日本ではほとんど出回っていないのが現状。全体的な傾向として色づきは薄め、ベリー系の果実味豊かでチャーミングな味わいに、ミネラリーな要素も備えた繊細かつ上品なタイプで、完成度の高さが感じられる上質なロゼワインです。

サンセールの著名な生産者

サンセールを代表する生産者として、まずその名が挙がるのがコタ一族です。同じサンセールでありながらも、コタのワインにだけは独特の個性が宿るとされており、著名なワイン評論家も惜しみない賛辞を贈る別格の存在感を誇っています。残念な事に相続絡みのトラブルで分裂してしまったコタ家は、フランソワ・コタにパスカル・コタという、2家に分かれて別の道を歩む事になりました。どちらも先代からの遺産を受け継ぐ正当なコタ一族で、素晴らしい畑もさる事ながら栽培・醸造についても超一流、その人気は今も衰えていません。

一方でサンセール最大の生産規模を誇り、同時にサンセール最古の歴史を持つ造り手がアルフォンス・メロです。なんと今から500年以上も前なる1513年、既にメロ家がこの地方でワインを生産していた事が文献に記録されており、地元でも老舗生産者として知られています。銘醸畑ラ・ムシエールは、アルフォンス・メロが先祖から受け継いだ大きな財産で、キンメリジャン土壌をサン・ドゥルシャールと呼ばれる地質がかぶさるように覆っており、豊かな風味のワインを産む独特の土壌です。

またジトン・ペール・エ・フィスは、若飲み主体のサンセールにおいて、良質な熟成ワインの生産に精力的な生産者。バックヴィンテージの膨大なストック量は世界的にも有名で、そう簡単に熟成ワインが見つからないサンセールにおいて、そのラインナップは貴重の一言。一方でテロワールを重視し、特性の異なる区画ごとに醸造を開始したという革新的な生産者でもあります。各国要人も御用達にするほど評価は高く、アメリカ・ロシア両大統領の会談にそのワインが使われた事もあるほど。

その他にもサンセールで5世代続く老舗リュシアン・クロシェや、様々なスタイルのサンセールを産み出すアンリ・ブルジョワ、多くの秀逸な畑を所有する老舗ジェラール・ブレなどが、高い実力と人気を誇る生産者の一例です。