アブルッツォ Abruzzo

モンテプルチアーノ・ダブルッツォの産地として有名なアブルッツォ州。 日本では神の雫で紹介され一躍有名になったワイン「カサーレ・ヴェッキョ」がこのモンテプルチアーノ・ダブルッツォなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

しかし「他にアブルッツォの印象は？」と聞かれるとあまり思い浮かばない・・・そんな州かもしれません。 ガイドブックでも殆ど掲載されておらず、日本からアブルッツォに行くツアーもほぼ催行されていません。

そんな日の当たらない存在ですが、実は美しい大自然に恵まれ、イタリアの新しい一面を発見させてくれる、未だ見ぬ秘境の地、それがアブルッツォなのです！

中部イタリアに属するアブルッツォは、ローマのちょうど反対側に位置しています。東はアドリア海、西はアペニン山脈に面し、その間は標高の高い丘陵地帯になっているため、平地はわずか1％しかありません。

イタリア半島を縦断するアペニン山脈の中で、最も険しい部分がこのアブルッツォ州にあり、グラン・サッソ山やマイエッラ山などの3000m級の山々が連なります。また3つの国立公園を有し、野生動物が駆け回る自然豊かな州で、バードウォッチング、ハイキング、スキーなど、大自然を堪能できる観光地なのです。 一方、アドリア海に面する海岸線は全長130kmにもなり、夏になると海水浴の観光客で賑わいます。

そんな山も海もあるアブルッツォは、ワイン造りにおいても自然の恩恵をうけ、素晴らしいワインが造られるのです。気候は地中海性気候で温暖ながら、山からの冷涼な風が入ってくるため寒暖差が生まれ、ブドウに良質なアロマを形成します。また標高が高いため日照量が多くブドウがスクスク育つため、ブドウ栽培に適した環境なのです。

フィレンツェやヴェネツィアの様に綺羅びやかなイメージはありませんが、緑豊かな大自然に囲まれ、山の恵を大いに受けた「緑の州」と呼ぶに相応しい州なのです。

産地ごとのワインの特徴

この州を代表するワインは、なんと言っても「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ」でしょう。州内の広い範囲で生産されており、その数なんと年間1億本以上！ 使用されるブドウ「モンテプルチアーノ種」は、イタリア全体の栽培面積の中でもサンジョヴェーゼに次いで2番めに多い黒ブドウ品種です。

特に傾斜が多いテラモ県の丘陵地帯では良質なブドウが収穫され、凝縮感があり濃厚で長期熟成向きなワインが造られる事で知られています。その優位性が認められ、2003年に「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ」としてDOCGに昇格しました。

同地域内では白ワインとロゼワインも造られており、トレッビアーノ種を使用した「DOCトレッビアーノ・ダブルッツォ」はフレッシュで爽やかな味わいの白ワインに、モンテプルチアーノ種を使用した「DOCチェラスオーロ・ダブルッツォ」はチェリーの様なアロマとややスパーシーな味わいをもったロゼワインになります。

アブルッツォ州のブドウ品種

ギターのパスタ、悪魔の食材？！　アブルッツォの独特な食文化

山々に囲まれたアブルッツォ州は、澄んだ空気と冷たい湧き水が流れるため、パスタ造りに最適な地域です。特にキエティ県のファラ・サン・マルティーノにはパスタ工場が集まっていて、高級パスタとして知られているディ・チェコ、デルヴェルデ、ジュゼッペコッコなどの工場があります。

アブルッツォのパスタに、「スパゲッティ・アッラ・キタッラ＝ギターで作ったスパゲッティ」という特徴的なパスタがあります。これは「キタッラ」と呼ばれる弦が張られた器具の上に、薄く伸ばしたパスタ生地を置き、麺棒で押し切る事で長いスパゲッティ状のパスタを造ります。この器具の形状が楽器のギターにそっくりなことからこの名が付けられました。断面がスパゲッティよりも四角くコシがあるのが特徴で、ソースもパンチがある方が合います。

またアブルッツォ料理に欠かせない調味料に、ディアボリッロ（アブルッツォの方言で唐辛子の事）が挙げられます。イタリア語で悪魔を意味する「ディアヴォロ」に由来する言葉で、火を吹くような辛さのディアボリッロ料理が特徴です。 前述したスパゲッティ・アッラ・キタッラを、このディアボリッロを利かせた辛いトマトソースに絡めて食べるのが鉄板で、ワインは濃厚でスパイシーなモンテプルチアーノ・ダブルッツォと合わせて食べられています。

アブルッツォの人たちにとって、「羊」は大事な生活の糧です。その中でも「トランスマンツァ(transmanza)」というこの地域ならではの習慣があります。羊飼いたちは、夏にアブルッツォの山々に放牧していた羊たちを、冬を越すために温かい地域である南のモリーゼ州やプーリア州へ、羊と共に大移動するのです。数百頭もの羊たちが一斉に移動する様は圧巻で、季節の風物詩となっています。 そして郷土料理にも羊肉を使った料理が多く、羊の乳で作ったペコリーノチーズも常に食卓に並んでいます。